ずっと光続けているスマホと、保育園で働き続ける私は、同士だった
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:レイ咖(ライティング・ゼミ8月コース)
朝なのか、夜なのか。外はまだ暗くて、何時か分からない。スマホの画面を見てみると、5:30だった。時計の画面を閉じ、すぐクラブハウスを起動させた。
「おはようございます!」世の中の大人はこんなにも早起きの人が多いのかと驚いてしまう。友人に紹介されたクラブハウスの朝活部屋。全国各地5:30から何百人もの人が同じ時間に、集まってくる。会ったことはないのだが、毎日声を聞くから親密度が増して、個人的なやりとりをするまでになっていた。
スマホに充電器を繋ぐ。音声を聞いて、時々会話に参加しながら、SNSをチェックしたり、溜まっていた返信をしたりする。一通り片付いたら、化粧をして、着替える。その間もスマホから聞こえる声に耳を傾け続けていた。もっと時間があったら、仕事に行く時間を自分で決められたら……やりたいことがいっぱい出来るのに。そう思っていても、今の私は決められた時間で動くしかない。限られた時間を有効に使う為、何でも同時にすることが当たり前になっていた。
もうそろそろ出勤しないと間に合わない。スマホを充電器から抜こうと手に取ると、ひどく熱をもっていた。
画面を消して、カバーを外し、熱を取るように両手で包んだ。充電器に繋がれて、熱を放つスマホを冷ましていると、私とスマホは”同士”だと思った。
毎日限界までクタクタに働いている者同士だ。
「せんせー。おしっこでちゃったー」
遠くで私を呼ぶ声がする。
「ちょっと待ってー」大声で答える。緊急事態なのは分かるが、こっちだって緊急だ。目の前には、味噌汁をこぼして、服がどろどろになっている子がいる。床を掃除して、着替えさせて、もう一度汁を配る。彼が食べ始めたら、トイレに直行して、また掃除する。保育園で働く私の日常は、常に何か起きている。おもらし、ケンカ、家に帰りたくて泣く。常に何か起きている。問題が発生して、解決して、また起きて……永遠に繰り返す。そうした合間に、活動の準備をして、親に渡す手紙を書いて、時には会議にも出て。例えではなく、本当に息つく暇がない。
仕事中ほっと出来るのは、こども達が寝ている時だけだ。束の間の休憩時間。珈琲を飲んで、チョコレートを放り込む。お腹が空いているわけじゃないのに、食べずにはいられない。次々口に入れては、広がる甘さに、手が止まらなくなる。チョコで充電しないと残り時間働く体力がもたない。
「あっ! もう起こさなきゃ」時計を見て驚いた。こども達を起こして、次はおやつを食べさせなくては。チョコの甘さを珈琲で洗い流して、また教室に向かった。
なかなか起きないこども達を起こして、おやつを食べて、掃除して、お迎えを待つ。こども達が危険なことをしていないか目を配る。体を動かしながら、次の段取りを考え、頭は仕事のことでいっぱいになっている。
働き続ける体にごはんや、チョコを流し込んで、また働く。保育園にいる限り、私は動き続けなくてはいけない。あと少し、もう少し頑張らなくちゃ。と自分を奮い立たせていることに気が付いた時、どうしてこんなにも頑張り続けなくてはいけないんだろうかと、虚しくなることが増えてきた気がした。
電池が無くなれば、スマホは動かなくなる。切れないよう常に電気が与え続けられ、音声や動画を表示し続ける。どんなに時間が経っても、充電がある限り動き続ける。休みなく動き続けなくてはいけない状況は、自分と同じように思えて仕方なかった。
誰かに「充電したんだから、ちゃんと動けるでしょ?」と言われている気がした。
別に動けないことはない。
だけど腰も肩もジンジンして痛い。
頭がずっと動いていて、落ち着かない。
チョコを食べて、栄養補給しながら、ずっと動き続け、体を使い続ける私。充電されて、熱を上げながらずっと動き続けているスマホ。私達は常に限界ギリギリ状態になっている者同士だった。
スマホから充電器をそっと外して、手で冷やしながら、
”おつかれさま”というきもちで、そっと撫でてみた。ギリギリになりながら、終わりなく働き続けなくてもいい。
真っ黒な画面になったスマホの横で、ゴロンと横になった。
今日はもう何もしたくない。私もスイッチを切って、眠ることにした。
熱を上げてまで、体を痛め続けてまで、動き続けなくてもいい。何もせず、ぼーっとしてもいい。
充電器から外され、床に置かれたスマホからは、何も聞こえないし、見えない。
何もせず、横たわる私達は、体を休めている。
本当の意味で充電出来ているような気がした。
***
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