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下半身不随から回復できた私は、ジンに漬けこんだブルーベリーを生き方のお手本にする


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:アキ・ミヤジ(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
「まるでルビーのようだ」
 
それは、退院した日に作り、三ヶ月間漬け込んだ、自家製のブルーベリー酒だった。
 
私は今年、三ヶ月半ほど入院した。
脊髄腫瘍摘出の手術、そして術後の歩行機能回復のためのリハビリのためだった。
 
退院すると早速、病院ではできなかったいろんなことを始めてみた。
病院では、病院内スタッフや患者さんからさまざまな話を聞くことができた。
中には、自分にもできそうだな、やってみたいな、と思う話がいくつもあった。
 
その一つが、漬けこみ酒だった。
最もポピュラーなのは梅酒であろう。
しかし、梅だけでなくさまざまな果実などで楽しむことができる。
ただし、お酒の原料に使われている穀物やぶどうを漬けこむのは酒税法で禁止されているので、要注意だ。
 
「昨日、ブルーベリー酒を作ってみたんですよ」
と楽しそうに話をしてくれたのは、理学療法士のTさんだった。
 
見た目は「ぶどう」に似ているが、ブルーベリーはツツジ科。
ブドウ科のぶどう類とは、分類学上まったく違う果実。
だから漬けこみ酒にしても大丈夫だ。
 
「作り方は簡単なので、退院したら是非とも作ってみてくださいね」
そう言いながらTさんは、堅くなった私の身体のストレッチをしてくれた。
そのストレッチの痛みをこらえ、私はブルーベリー酒を作る日を楽しみにしていた。
 
退院の日。
早速、近所のコンビニまで歩き、冷凍ブルーベリーとビーフィーター・ジンを買った。
消毒したガラス容器に凍ったままのブルーベリーを詰めたら、透明のジンを容器いっぱいに注いで、蓋で密閉した。
 
それから三ヶ月。
この間も、外来で病院に通ってリハビリを続け、退院したときよりもさらに歩けるようになっていた。
作ったブルーベリー酒もそろそろ頃合い。
がんばった自分へのご褒美にと、ブルーベリー酒の蓋をあけてみることにした。
 
想像していたのは淡い紫色のお酒。
ブルーベリーは黒に近い紫色に見えるからだ。
ところが、驚いた。
グラスに注いだブルーベリー酒は、ルビーのように美しく輝く赤色だった。
 
驚きは、思っていた色と違ったからだけではなかった。
ジンの中にブルーベリーをただ漬けこむだけで、こんなにも美しく輝く色がでるとは、夢にも思っていなかったのだ。
ただ漬かっているだけでも、ブルーベリーがしっかりと自分の個性を発揮している。
 
予想外に美しく輝くルビー色のブルーベリー酒にみとれながら、私は思った。
歩けなくなり、手術を受け、リハビリをしている間、私はただただ周囲の人々に身を委ねてきた。
まるでジンに漬かっているだけのブルーベリーのようだった、と。
 
そもそも歩けなくなるほどまで病状を放置したのは、私の欺瞞からだった。
ただの腰痛だという自己判断、そして医者にかかりたくないという苦手意識があり、「医者にいったら?」という周囲の声をずっと受けいれずにいた。
結果、腰痛は急激に悪化し、両足はすっかり動かず、排せつもできなくなってしまった。
診察した医師が、「なんでもっと早くに来なかったのか」と呆れ顔を隠せないほどだった。
 
MRI検査の結果、背骨の中にできた腫瘍は大きく、脊髄はぺちゃんこだった。
腫瘍は良性であったとはいえ、病状は決して軽いものではなかった。
たとえ腫瘍の切除がうまくいったとしても、回復はおろか、悪化する可能性すらあった。
 
手術のため入院してから、看護師や介護士の方々が私の日常生活をケアしてくれた。
食事や夜の寝返りの補助はもちろん、排せつや入浴もだ。
初めは恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
けれども、これからは人の手を借りないと排せつも入浴もできない生き方を受けいれなければならないかもしれない。
 
それが、これからの私の人生なのだと覚悟した。
 
それでも、人の手を借りないと過ごせない人生の中に、少しでも自分でできることを増やしたい、という思いがあった。
だから、専門家である理学療法士や作業療法士の方々に身を委ね、リハビリをがんばろうと思った。
 
自分の身体を周囲の人にすべて委ね、病院で三ヶ月ほどリハビリを続けた。
すると幸いにも、私の身体は機能を取り戻していった。
 
いまはもう、周りの人の手を借りずとも自由に動き回ることができる。
食べたいものを自分で作って、食事をすることができる。
トイレまで歩いてひとり排せつもできる。
自分で身体を洗い、湯船につかることもできる。
もう人の手を借りることなく生きていける!
 
いや、それは違う。
 
私は一人で生きているわけではない。
これまでもこれからも、家族、友人、先輩後輩、上司部下、さまざまな人に世話になり、支えてもらいながら生きる。
顔見知りの人たちだけではない。
見知らぬ人にも支えてもらいながら生きる。
たとえ身体が自由に動かせて、自分の思い通りに生きているつもりでも、私は周りの人に身を委ねて生きている。
 
不自由な身体になり、周囲の人たちに身を委ねる経験をしたことで、私はこれまで以上に周りの人に助けてもらいながら生きていることを感じられるようになったと思う。
 
これから先の人生、また何が起きるかはわからない。
また身体の自由がきかなくなるかもしれない。
どのような状況になろうとも私は、周りの人々との関わりの中に身を浸し、自分ができることを精一杯やりきって生きていこうと思う。
ブルーベリー酒のように、これからの人生が美しく輝く赤色に染まっていくように。
 
 
 
 
***
 
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