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同棲半年。この子とは、入籍できない。


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記事:日下秀之(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
付き合っていた彼女との入籍をやめた。
 
片付けができないから? 違う。
料理ができないから? 事実だが、違う。
他に好きな人ができたから? もちろん違う。
 
彼女に「名字を変えたくない」と言われたからだ。
 
法律婚ではどちらかの名字を捨てないといけない。そして、僕も自分の名字を捨てたくなかった。
 
だから、我々は婚姻届を役所に提出する「法律婚」ではなく「事実婚」を選択した。
法律上はただの他人になる。
 
付き合っているときから、名字の話は良くしていた。
妻は全国に約30人しかない超レア名字。自分の名字に愛着があるという。
 
ならば、自分が日下を捨てるかと考えたときに、強い抵抗感があることに気がついた。
自分も、日下という名字に強い愛着があったのだ。
 
今までの呼ばれ方は大体「くさか」か「くさかっち」だった。
日下じゃなくなったら、それはもう自分ではない気がするのだ。
 
僕は、「日下秀之」にアイデンティティを持っている。
気がついていなかったけど、宝物だった。
そして、それは妻も同じだ。
 
もちろん名字が一つになることに憧れや意義を感じる人もいるはずだ。
それを否定したいわけではない。平松愛理の「部屋とYシャツと私」とか、Official髭男dism の「115万キロのフィルム」とかでも歌われているし。
 
ただ、我々にとってたまたま名字が宝物だっただけだ。
 
両者が宝物を捨てなくてもいい、第三の選択肢を探した結果が事実婚だった。
 
事実婚をする上で、デメリットはあるのか。
妻が色々と調べてくれた結果、大したことはなかった。
お金のことで言えば、片方の収入が低いときと、片方が死んだときに税金がたくさん取られるくらいだ。
 
前者は扶養に入れないという話。
法律婚では、どちらかが収入が低いと税金を免除してくれる。
事実婚だとそれは認めてもらえない。
 
我々夫婦は共働き予定なので今の所問題なし。
 
後者は、遺産相続の際、法律婚していないと相続税が沢山取られてしまうという話。
何十年過ごしても「他人」扱いだ。無慈悲。
 
こっちも、死の間際になったら入籍したらいいんじゃない? という風見鶏のスタンスなので問題なし。風の流れに合わせてくるくる生きる。
 
突然トラックが突っ込んできたら? それはまあ、しょうがない。
 
後は、子どものこと。
子にはいずれかの名字を選ぶ必要がある。
成人したら、自分で選択もできる。
 
子に好きな名字を選んでもらえると言えば聞こえはいい。
しかし、子の立場では「どうして自分の両親は名字が違うの?」と心配を与える可能性はある。
 
名字同様、親権も両親のどちらかを選ばなければならない。
法律婚では共同親権といって、父も母も親権を持てる。
 
これは大事な問題なので、子どもが生まれるまでにゆっくり考えることにしている。
とりあえず夫婦ラブラブで過ごせば万事OK。
少なくとも「名字の違いで家族の絆が壊れる」という、よく聞く意見の反例にはなるつもりだ。
 
それくらいだ。
保険の配偶者としても認めてくれることが多いし、幸い会社も我々を「夫婦」とみなしてお祝い金をくれた。感謝。
 
手続き的な話もしておく。
事実婚は、言ったもの勝ちだ。
所定の手続きはなにもない。「事実婚します!」と言えばその瞬間事実婚だ。
役所で「事実婚です!」といえば、住民票の関係欄には「妻(未届)」と表示される。
 
とはいえ、それだけで終わらせるのも味気ない。
世間の制度には歯向かっておきながら、それなりに結婚気分は味わいたい。
お祭りにはちゃんと参加したいのだ。
 
なので婚姻届代わりに「事実婚契約書」を作ることにした。
上述のように必ずしも作る必要はないが、事実婚を考える人は作ることを強く進める。
 
例えば、事実婚宣言をしただけでは、どちらかが不倫した場合に、罪を問いにくい。
何故ならば法律上他人だから。
 
ここで契約書に「不倫を禁ずる」的な文面を書いておけば、契約違反で罪に問える。
その他、離婚したときにお互いの財産をどうするか等も決めておけば、万が一関係が壊れてしまっても互いの公平性を保てる。
 
もちろんそんなことは起こさないようにお互い努力するが、備えあれば患いなしだ。
これを作ることで、夫婦になることへの覚悟も少しはできると思う。
 
ネットの海を探せば法律婚の法律を参考に、事実婚契約書を作成し、アップしている人が何人かいた。ありがたや。
 
これらを参考に契約書を作る。
そして、公証役場なる場所で、公証人なる人に証人になってもらえばOK。
何を言ってるのかわからないと思うが、法学部出身の妻が言うので間違いない。
 
工学部出身の日下は、ネットに漂う契約書を切り貼りし、自分たちに合った項目に職人のごとく継ぎ接ぎした。
 
そこからの細かい修正は二人で。初めての共同作業だ。
 
(我々も契約書を全文公開はもちろん、手続きの詳細も記事にしている。僕の名前で検索すれば何かしらのSNSが出てくるので、気になる場合は気軽に連絡してくださいな)
 
そんなこんなで無事に公証役場での手続きを終えた我々は、事実婚夫婦になった。
その後、通常の婚姻届を見て凄く驚いたことがある。
 
二人で考えてきた契約事項の内容が何も書いてないのだ。
記入欄はほぼ名前だけ。
第三者と性的関係を持ってはいけない、とすら書いていない。
 
結婚前の財産は自分のもの、結婚後の財産は二人のものだとか、契約書を作る過程で常識になっていたことが、一つも書いていない。
 
正直「え? これで夫婦になれるの?」と思ってしまった。
神父さんの言う「病めるときも健やかなる時も愛しあい、支え合おう」にはここまでの意味が含まれているのだろうか。
 
案外、事実婚の方が「夫婦とはどういうものか」をきちんと知ることができるのかもしれない。
 
さて、結婚してから約4ヶ月がたった。
 
困ったことと言えば、色々と前例が無いので、役所での手続きに時間がかかることくらい。日々誰かの前例になりながら生きている。
 
日本では女性が名字を変えるのが「当たり前」だ。
その「当たり前」で、名字という宝物を捨てるしかないと思っている人が、きっといる。
その逆で、名字を変えたくない男性も、いて当然だ。
 
そんなあなたに、捨てない選択肢もある、と伝えることができていたらとても嬉しい。
 
事実婚ときくとややこしい印象を受けるかもしれない。
色々なデメリットを想像するかも知れない。
 
それがこの記事で晴れていたらとても嬉しい。
 
自分も名字へのアイデンティティがどうこうと語ってはいるが、当時妻から「名字を変えたくない。事実婚したい」と言われた時の感想は「別にいいんじゃね?」だった。
2秒も考えてない。それくらいの気軽さでいいと思う。
大切なものを、大切にしているだけだ。
 
数年後には、あっさり名字を一つにしているかもしれない。
それもまた一興。それくらいで、いいんじゃないかな。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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