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私をベルサイユに連れてって!


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記事:あやこ(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
私はマンガが好きだ。
 
初めて買ってもらったマンガは小学1年生の頃に買ってもらったちびまる子ちゃん。
セーラームーンやスラムダンク、ブラックジャック、はだしのゲンなど少年マンガ、少女マンガ、名作と言われるものなど子どもの頃からジャンルを問わず毎日夢中でマンガを読んでいた。
 
同級生の中にはマンガを読んでいると「マンガばっかり読んでないで本を読め!」と大人に言われた人もいるそうだが、幸いなことに私は家族にそのようなことを言われたことがない。両親とも共働きで忙しく、家で兄弟と過ごす時間が長かったのでマンガを読んで大人しくしていてくれるなら、と結構好きに買ってくれた。
 
ただ一回だけ怒られたことがある。
寝る時間になっても漫画の続きが気になり、こっそり布団の中にデスクライトを持ち込んだ。光が漏れると起きていることがバレてしまう。上から布団をかぶってマンガを読んでいたら布団が焦げたのだ!
 
煙を出す布団にびっくりして親を呼びに行き、母と父と一緒に部屋に戻る。500円玉くらいの大きさに黒く焦げた布団と普段は学習机の上にあるはずのデスクライトが布団の横に倒れ、そのすぐそばにマンガが積まれている。何が原因で焦げたのか一目瞭然。言い訳することもできず、その時には泣きすぎて喉が引き攣るほど怒られた。
新しい布団はお小遣いから天引きされたが全く懲りることはなく今度は何だったら焦げないのか懐中電灯やペンライトを布団に当てて検証した。
 
 
社会人になってもマンガは好きは変わらず寝る前にマンガを読んでリラックスしてから寝る日々が続いていたが、仕事が忙しくなると睡眠優先でなかなかマンガを読む時間をとれなくなっていった。
 
 
20代を仕事に費やし30代に突入したばかりの時、人生に迷った。
仕事のことばかり考えていたのでふと自分に目を向けたときに趣味も好きなものも何もない。好きだったマンガを読む時間もなく自分の全てが仕事で出来ていることに気づき、仕事がなくなったら自分は空っぽになるのではないかという恐怖があった。
そして悩むのが面倒になりいっそ空っぽにしてみようと仕事をやめた。
 
最初の1,2ヶ月は毎日12時間以上寝てマンガを読もうと思うこともなかった。
3ヶ月目になるとマンガを読むようになった。ゴロゴロと床に寝転がりながらフランス革命を舞台にしたベルサイユのばらを読んでいた時にふと「ベルサイユに行ってみたいな〜」と思った。
 
あれ? 今ならいけるんじゃないか?
 
と気づいたその数ヶ月後、私はフランスのベルサイユ宮殿にいた。
 
仕事で隙間なく埋められていた部分が一度空っぽになりそこにどんどん今までしたかったこと、我慢していたことが溢れるように出てきた。その溢れるような内容のほとんどは海外のみてみたい景色、体験ばかりだった。働いていた時には4日以上まとまった休みをとったことがなかったし、給料も生活するので精一杯くらいだったので海外旅行など夢のまた夢だった。でも日本語しかできないのに1人で飛行機に乗ることができるのだろうか?
 
やっぱり不安だ。英語をちょっと勉強して喋れるようになったら行こう
 
そう諦めようとした時に、ずっと闘病生活をしていた知り合いが亡くなった。3年後に定年だからそれまで頑張って働いて色々な国に行くんだと話していた。ところが定年まであと1年というところでガンが見つかりその願いは叶わず亡くなった。
 
いつかやりたいと思っていることは今できるなら今やらなければ行けないんだ
今なら時間はたっぷりある。退職金ももらった。病気もない。
 
英語が不安なら語学学校に通えばいいんだ
お金なら後で稼げばいいんだ
行くなら今しかない
時間は今しかない
 
たった一歩、日本の外に出てみるとあとはどこでもいけると思えた。
その一歩には大きな勇気が必要だったが家族や友達、色々な人が背中を押してくれた。
そしてオスカルとアンドレ、ベルサイユのばらの主人公が手を引いてくれた
 
 
イギリスの語学学校で英語を勉強したあと、ユーロスターに乗って電車でイギリスからフランスへと入る。
フランスの貴族ですらなかなか入ることのできなかったベルサイユ宮殿にトレッキングシューズにバックパックのアジアの一市民がチケットさえ買えば入れるのだ。きっと馬車に乗った限られた人しか入ることの出来なかったこの大きな大きな金の門を見上げて、一歩 中に入る
 
中にはマリーアントワネットはいない。オスカルもアンドレもいない。でも彼らが生きた時代を感じたり、匂いや大きさ空気はマンガでも写真でも動画でも感じることはできなかった
 
この場所でマリーアントワネットは何を考えたのだろう?
そのころ日本で私の先祖はどんなことをしていたのだろう?
ガンで亡くなった彼女がこの場所に来たら何をしただろう?
 
仕事以外に何もないと思っていた私は
空っぽではなくなった
 
1冊のマンガは私をベルサイユまで連れてきてくれたのだった
 
 
 
 
***
 
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2021-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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