両親の離婚の危機と魔性の女・マノン・レスコーとの出会い
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Jin(ジン) (ライティング・ライブ大阪会場)
「お父さんと別れようと思うけど、どう思う?」
母の言葉に、当時、まだ高校生だった僕は硬直した。
その頃、夜遅い時間に親の夫婦喧嘩が絶えず、一度、隣のアパートに住む若い男から、
「毎晩、毎晩、うるさい! 静かにしてくれ!」
と家の外から大声で怒鳴られたことを、今でも鮮明に覚えている。
「俺はいいけど、ユミがかわいそうや。結婚式の時に片親なんて」
「そやな……」
その頃、まだ小学生だった妹を気遣う言葉で、母をなんとか思いとどまらせた。
父の金遣いが急に荒くなって、家計を圧迫していたのが原因だった。
出世の為に金をばら撒いているような感じもあったが、母は女がいるのではとも
疑っていた。
母はそれから家計を支える為に外に働きに出た。
僕が学校から帰ると、玄関に宅配のおかずセットが発泡スチロールの箱に入れられて置いてあるので、それを台所に運んでおく。母は、仕事から帰るとすぐにそれで夕食を作った。
父は新聞社勤めだったので、昼頃出社して、夜遅くに帰宅する。
平日休みなので、顔を合わすことは殆どなく、合わしても口をきくことも無くなった。
妹には詳しい事情は話してなかったけど、妹なりに何かを感じていたのか、家の中では子供らしい元気さが少なくなっていった。
そんな風に家の中が暗く沈んで行ったので、高校2年生の頃から大学受験までの、人生で大切で多感な時期に、僕は心を病んでいた。
表面上は、生徒会の役員をやったり、好きな女の子を追いかけたりしたりと、青春しているように回りには見えていたかも知れないけど。
心の闇を解消すべく、僕は小説や哲学書を読み漁った。
その中で印象的だったのは、キルケゴールか誰か忘れたけど、
「人は10代の頃、人生のあらゆる問題を発見する。後はそれに慣れっこになって忘れていくだけだ」という言葉だった。
確かに、その頃、大人達の言う事なすことがすべて気に食わなかった。
もし当時、尾崎豊の曲が流れていたら、どんなに救われていただろうと思うけど、残念ながら少しだけタイミングが合わなかった。
そんな感じだったから、大学受験も失敗した。
実際のところ、勉強に殆ど身が入ってなかった。
「あんた、大学どうするの?」
そう心配そうに尋ねる母に、
「何を目指せばいいのか、わからなくなった。浪人して考える」
そう言って、母には申し訳なかったけど、浪人生活を始めた。
そんな頃、文学の世界でマノン・レスコーに出会った。
フランスの作家、アベ・プレヴォーの小説で、これまで世界の各地で何度もオペラやバレエで公演され、映画化もされた名作だ。そう言えば、今年の夏に宝塚歌劇でもやっていた。
純愛物語の代表作であるロミオとジュリエットの真逆を行くストーリーだった。
男達を次々と破滅させてゆく美少女マノン・レスコーの愛と欲望の物語に、ドキドキしながらページを捲っていったのを覚えている。
その頃の僕の気分にシンクロしていたのかも知れない。そして、その中に出て来るマノン・レスコーのある言葉に、心臓を撃ち抜かれたような衝撃を覚えた。
「私を得たければ、心の中で確信しなさい。そうすれば、私を得られます。私は得られたいのです」
大人になる前に、なぜか凄い秘密を知ったような気がした。
「得たければ、心の中で確信する」
それは、男と女の間の事だけではなく、人生全般にわたって通じる法則のようなものだと心が感じ取った。そして、いろんなことに自信を失いかけていた僕に、命を吹き込んでくれた。
それから僕は、将来何をしたいのか、何を得たいのかを真剣に考えた。そして、比較的得意だった英語の力を生かして、世界で困っている人達に貢献できる仕事をしたいと思い始め、ユニセフやユネスコといった国際機関へ関心を持った。
今から思えば純心な若者の夢だったけど、その時は真剣にそう考え、自分の目標を持てたと心の中で確信していた。
「国際公務員への道、というパンフレットがあるから、外務省へ行って手に入れて欲しい」
現役で東京の大学へ進んだ高校時代の女友達にそう頼んだ。
それから1週間くらいで、その友達からパンフレットが送られてきた。
その封筒の中に、外務省を訪れた時の緊張した様子を面白く書きながら、
「私は間違った選択をしたと感じているので、大学に通いながら、また受験勉強をしているの。来年、別の大学を受け直すことにしたよ」
という内容の手紙が添えられていた。
友達も悩んでいたようだったけど、文面からきちんと決意しているのが感じられた。
それから時々二人で励まし合いながらの、本格的な受験勉強が始まった。
孤独な闘いよりも、やっぱり仲間がいる方が心強かった。
そうして僕は、翌年の春、地元の国公立大学の合格を勝ち取って、新しい人生をスタートさせることができた。それを母が誰よりも一番喜んでくれた。
「得たければ、心の中で確信する」
この言葉は、それからずっと僕の座右の銘となっている。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325