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メディアグランプリ

あの青年は、世界を救う勇者だったのかもしれない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:日下秀之(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
あなたは街で全力疾走している大人を見た時、何を思うだろう。
 
小走りではない。全力疾走だ。
 
子供が走っているのは微笑ましい。
一方、大人が走ると迫力が相まって、「ヤバイやつ感」が出てくる。
 
全力疾走が許されるのは10代までのようだ。
駆け込み乗車とか、シンプルに迷惑な場合も多い。
 
僕は彼らを勝手に急ぎ人(いそぎびと)と呼んでいる。
ちなみに急人(いそんちゅ)でも構わない。いそんちゅ。
 
今年の春のことだ。
ある急ぎ人との出会いによって、僕の世界は少し変わった。
その話をしたい。
 
春先、友人に会うために近くの大学に足を運んだ。
景色がきれいで、屋外でピクニックするにはピッタリだ。
 
広場の椅子に座ってのんびり喋っていると、門から全力疾走する男性の姿が見えてきた。
 
走るフォームは大きく崩れ、息も絶え絶えで汗だく。
マスクもしていないのにメガネは曇っている。
苦悶の表情をしていることが遠目にもわかる。
 
急ぎ人だ。
 
そういえば今日は大学の一部が資格試験の会場になっている、と入口で教えてもらった。
専門予備校の営業担当に、受験生と間違えられてパンフレットを押し付けられた。
 
試験開始時間を調べると、すでに10分ほど過ぎている。
寝坊したのか、はたまた何らかのトラブルに巻き込まれたのか。
 
いずれにせよ、彼が受験生であること、試験に遅刻していること、死力を尽くして残り試験時間を伸ばそうとしていることは間違いない。
 
かなり距離が遠いことをいいことに「がんばれー」と皆でエールを送った。
友人は急ぎ人の走るペースに合わせて手を上下にパタパタさせていた。
なんとか彼は走り抜き、無事試験会場へ吸い込まれていった。
 
ちなみに5分後もう一人急ぎ人が走ってきた。
またエールを送った。がんばれー。
 
それから、急ぎ人を見つけたら小声で応援するのが習慣になった。
 
なぜか。シンプルに、世界が少し楽しくなったからだ。
 
想像してほしい。
確かに全力疾走している大人は大体ヤバいかつ迷惑だ。
 
だが、周りに応援されていればどうだろう。
 
エールが生まれた瞬間、世界は大運動会になる。
急ぎ人は必死にゴールへ走るランナー。
応援する僕たちは微笑ましく見守る保護者だ。
 
もちろん迷惑行為を肯定するわけではない。
どうせなら、保護者気分で応援したほうが少し笑顔が増えるという提案だ。
 
一方で、彼らは別に急ぎたくて急いでいるわけではない。
のっぴきならない事情があって、大切な何かを守りに行くのだ。
先週梅田で見かけた急ぎ人は、崩壊する世界を救いに行く勇者だったのかもしれない。
そりゃのんびりしている暇はない。
 
急ぎ人は街を観察すれば、意外とたくさん生息しているのがわかる。
 
電車のホーム。夜の空港。
こんなとこにいるはずもない……と思いきや結構いる。
 
ある人はスーツと革靴で。ある人はキャリーバッグを蹴飛ばしながら。
 
時には閉まりゆく電車のドア目掛けて。時には空港の、無限に続くような通路を。
圧倒的不利な状況でも特攻するしかない兵士のように。
 
急ぎ人は周囲の目を気にしない。そもそも気にしていられる状況ではない。
頑張ってセットした髪型は大崩れしているし、汗が大量に吹き出している。
冬場は冷たい空気をたくさん吸い込むからだろう、息切れがすごい。
我々には見えない敵将との死闘を繰り広げているかのようだ。
 
急ぎ人の突破力はすごい。人混みの中でも周囲を蹴散らし突き進む。
迷惑そうな目線が突き刺さる前に、すでに遥か前方を走っている。
敵軍に囲まれる中、退路を切り開く武将のように。
 
電車に飛び乗ったあとの急ぎ人は、大体やりきった感を出している。
そして涼しい顔でスマホを取り出す。「敵将討ち取ったり」とか呟くのだろう。
 
最近戦国漫画キングダムにハマっているので、例えが戦乱にしかならなかった。
「敵将討ち取ったり」は自分でもマジで意味がわからないが許してほしい。
 
そして、大切なことは「誰でも、いつでも、急ぎ人になる可能性がある」だ。
 
急ぎ人を覗く時、急ぎ人もまたこちらを覗いているし、急ぎ人を笑うものは急ぎ人に泣く。かの有名な哲学者ニーチェも大体同じことを言っている。
 
なんなら僕も3日に1回くらいのペースで急ぎ人になるし、上で書いた急ぎ人の生態は概ね僕の体験談だ。
電車のドアが目の前で締まり、妻だけを乗せた電車が旅先へ向かったのはいい思い出だ。
 
あなたも急ぎ人と化したことはおそらく一度や二度ではないだろう。
何度思ったことだろう。
 
ああ、もう少し早く起きていれば、もう少し早く家を出ていれば。
とはいえそれができてりゃ苦労はしない。
 
だから急ぎ人を応援することは、かつて急ぎ人だった自分を励まし、いつか急ぎ人になる自分にエールを送ることでもある。
いつかのあなたも、かつてのあなたも、大切な何かを守るために戦っていたのだ。
たぶん。
 
他人に優しくするならば、自分にも優しくしてあげよう。
 
今日の朝、あるいは帰り道。
あなたも急ぎ人を見つけたらそっと自分を重ねて、呟いてみてほしい。
「がんばれー」と。
 
そうすれば、もう少しだけ世界は優しくて、楽しくて、面白くなる。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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