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私が生まれ「変わ」っても「変わ」らない、タイムマシーンに願うこと


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:miwa(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
「欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」
 
小学校にあがる前の私は、きっと何度もそうやって両親を困らせ、顔の前で両手を合わせていたのだろう。
 
ある春の日、父が一匹の子犬を連れてきた。
 
見た目はキツネのようでいて、キツネの焦げ茶よりもっと淡いうす茶色の雑種。
電話ボックスの中で〈誰か可愛がってください〉と書かれた段ボール箱に置き去りにされていたそう。
一見、雨風と寒さもしのげて親切に思えるが、これはれっきとした優しい虐待であり、あのコワモテの父がよく見過ごさずに連れ帰ってくれたもんだと、今でも感謝している。
 
小学生になる直前にうちへ来たその子は、嬉しそうに新しいランドセルを背負った私と、お散歩ひもにつながれて愛くるしい仕草で写真におさまっていた。
 
最後の結末など、知るよしもなく……。
 
その日から、私の頭の中はその子一色に染まっていた。
姉とお風呂に入りながら、世界のどこにも見当たらない、たった一つの名前をつけよう! と、嬉しさを抑えきれない様子で浴槽をまたいでいる情景が、今でも鮮明に甦る。
 
閃いた姉が、姉妹二人のそれぞれのひらがな一文字を取って、促音や音引でつないだ名前を挙げた時は、子供ながらにも、もうそれ以外思いつかなかった。
 
お世話は自分になるから……と最後まで抵抗していた母がオチ通りになり、家事はもってのほか、急須のありかさえわからない父(の世話)に加え、家事、育児、さらには自営業のため昼夜問わない接客業と事務仕事をこなし、心身を労るべき週一回の休みには、子供たちからお出かけをせがまれる、あり得ないカオス状態だったのだと、大人になってからわかった。
 
もうオフレコだから話してしまうが、当初その子につけていた首輪はクルクルと丸めたバンダナに変わり、お散歩ひもは、つないでおくと断末魔のごとく鳴きわめくので、店兼自宅の一軒家で母が常駐しているのを理由に、放し飼いにしていた。
だがこれは無責任すぎる飼いかたで、いくら田舎とは言え、家族全員が勉強不足だった。
 
夜も更けた時間帯以外は、好きな時、好きなタイミングでセルフお散歩へ向かい、好きなルートを辿って夕飯どきには帰ってくる、彼女独自のサイクルがいつの間にか定着していて、子犬の頃から老若男女のお客さんに触ってもらい、小学校の通学路でもあったため、賑やかな登下校の子供たちに入れ替わり遊んでもらったお陰で、吠えたり噛んだり飛びかかったりしない上に、不意に尻尾を強く握られても、やんわり嫌がる大人しい看板犬になった。
 
やがて、小学生の私は彼女との時間よりも友達との遊びを優先し、片思いに明け暮れた中学を過ごし、部活と自転車通学でヘトヘトになった高校を卒業して、18で親元を離れた。
 
飼い始めた当時も成人の両親からしても長い時間だが、子供の私からしたら、彼女と過ごした12年は私の成長そのものだ。
そんな彼女が、両親とお盆に帰省した祖母の家で消えてしまったと、地球の下の方で海外生活もあと半年切った23歳のときに聞かされた。
 
老齢で見えづらくなっていたのに加え、その日は徐行する車が多くみられ、自分だけ置いていかれる! と恐怖を覚えた彼女は、車を一台一台覗いていったのではないかという予想だった。
 
人間の年齢からすると90歳近いおばあちゃんが、遠くからでも飼い犬だとわかる首輪もなく、白内障を患いながら、年に数回しか帰らない土地でさまよっている……。
何年経っても、その光景を想像するたびに、申し訳なさで胸が締めつけられる。
後悔しても謝っても、一生消えないこの記憶は、彼女にも深い傷として残っているのだろう。
 
帰国してから急いで両親と祖母の家まで赴き、時間が経ちすぎて見つかるのは絶望的だと知りながらも、家族のニオイを頼りに戻ってきてと一縷の望みを託して探し回りながら、当時の状況や父が取った行動を尋ねていると、それは常軌を逸していた。
 
毎日帰省するのは当然だとしても、高齢者が大半を占める田舎町の役場へ何度も頼みに行き、何度も会議を開いてもらい、町内の父の友人も一ヶ月余りかけて嘆願してくれた結果、前代未聞の町内放送をおこなってくれたそうだ。
また、父があらゆる家庭にも情報提供を頼み込んだ総額は、300万円を越えたという。
 
けどそうだよね、わかる、お金じゃない。
お金になんて代えがたい存在だもの。
どう頑張ってみても、ありきたりな言葉に行き着いてしまうのは”家族”だということ。
なので、父の行動を責める気はさらさらなかった。
 
愛犬を飼っている皆さん、居なくなったことに気づいたら、躊躇せず、すぐさま警察に遺失物届を出してください。その際、写真も添えるとさらに見つかる可能性は高くなります。
 
保健所、動物保護センターには、知る限りの犬の特徴を伝えて保護されていないか問い合わせて、ご自身の連絡先も伝えておいてください。(通常は、警察から近隣の警察署にも連絡してもらえるそうですが、そのどれも自身でおこなう必要がある場合)
決して長くはない保護期間を過ぎると、、、話せない動物たちの殺処分は、一分も待ってくれないのです。
 
犬の写真と特徴(知らない人に対する反応も加えて)を書いたビラを配ったり、商店や電柱に貼らせてもらうことも忘れないでください。
今はありがたいことにSNSがあるので、ITに疎いかたでも、一刻を争う緊急事態に協力してもらって、知り合い・友人など、できる限りの拡散をお願いしてみてください。
 
最後に、私たち家族が未熟で無責任だった経験から、これ以上悲しい結末を迎えないために、切なるお願いがあります。
 
それは、信頼できるお店から購入した首輪をつけることと、飼い主の携帯番号を書いた迷子札(首輪に印字など)をつけること。
 
首輪は、かわいそう、苦しそうだから、と人間の無責任な判断ではなく、優先すべきなのは、地震・火災・事故など誰も予期せぬハプニングが起こった時に、パニックになった犬をとっさに掴むこともでき、不意の逃亡を抑止できるのです。
首輪で、助かった命がいくつあるのでしょう。
 
あれから、私たちの元に彼女が帰ってくることはありませんでした。
私の彼女への記憶は、旅立つ前に「行ってくるね」と抱きしめた日で止まっています。
 
だからどうかどうか、家族全員が後悔しないために、世界でたった一つの愛のお守り(首輪)を……。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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