fbpx
メディアグランプリ

旅先の恋は新鮮なうちに料理しろ

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:蒲生厚子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
北海道が大好きだ!
なぜかって、ときめきがあるからだ。
 
大学生の頃、毎年北海道に行っていた。
1年生の時から3年間、夏休みを利用して友人と二人で北海道をほぼ一周した。期間は1週間から2週間とまちまちだが、周遊券を駆使してすべてユースホステル泊まりで廻ると、かなり安くあがった。
そして毎回、淡い恋の予感があった。
雄大な景色の中に、惚れっぽい私を充分満足させるドキドキ、ワクワクが詰まっていた。
 
行くところ、行くところに魅せられて、毎年夏になると行きたくなってしまう。
心を解放すると優しい恋心が吹き込んでくるのか、とにかく帰京するたびに、実ることもない甘い思いに浸って、しばらくはしあわせでいられたものだった。
 
出会いはだいたいユースホステルで始まる。
当時のユースホステルは、夕食後に宿のスタッフが中心になって交流会が開かれた。ゲームをしたり、おしゃべりしたりで1泊しかしなくても顔見知りになる。北海道は交通網も少なくほとんどがJR(当時は国鉄だった)で廻るので、行き先が同じということも多かった。また、どこへ行くと良いかミーティングで出会った人たちに聞いて翌日の行程をきめることもあった。
 
1年目は泊まるユースホステルを事前に予約して、時刻表もしっかり調べて行ったが、2年目以降は慣れたもので、北海道に入ってから次の日のユースに電話して予約することもあった。ネット検索など出来ない時代だったので、ガイドブックより現地で情報を聞く方がレアで面白い体験ができることが多かった。
ユースホステルで企画する小ツアーもあるので、それに参加すると予約してあるユースまで行き着けないこともある。何しろ北海道は広い。そして電車の本数が少ない。
だから事前予約しておくと面白い体験をしそこねることになってしまうのだ。
 
2年目の恋は摩周湖ユースで始まった。
ユースが企画した「裏摩周湖とジンギスカン」というツアーに参加した私はすごく気の合う男性と出会ってしまった。
 
摩周湖は展望台から眺めて観光するのが普通だが、裏摩周湖ツアーは裏摩周にある池に行って水に触れようみたいな企画だったと思う。そのあとジンギスカンでバーベキューをして帰ってくるのだが、そのバスの道中で隣り合わせになった彼と話が弾んだのだ。
冗談を飛ばしあっていると周りも笑って、とても良い雰囲気になったのを覚えている。
とにかく一緒にいて楽しかった。しかも、苗字も一緒だったのでご縁を感じてしまった。
ミーティングの時間が終わっても、長い時間二人で話していた記憶がある。
 
彼は大学3年生で私たちは2年生だった。北海道が好きで毎年一人旅できているそうだが、来年は4年生になるので就職活動で来られないと言っていた。いろいろなことを話して、翌日はそれぞれ別のユースに泊まるために私たちの仲はそれ以上に発展することはなかった。
 
来年は来られないと言っていたので、もう会うことはないだろうなと思いつつ、2回目の旅は終わった。東京に帰って、友達と写真を見ながら芽生えかけた恋の話をしながら、連絡先を聞いておけばよかったとすごく後悔した。旅先での思いはファンタジーに近いものがあり、その時はそのままやり過ごしてしまったのだ。
 
そして3回目の北海道。今度は夏休みではなく6月に行った。すっかり慣れた私たちは、ほぼ無計画で青函連絡船に乗った。なんと、船の中で中学校時代の同級生にばったり出会うというサプライズから旅は始まった。
期間も10日間と少し短めだったので、ヒッチハイクを多用した。なんと11回も成功した。
「悪い人にあたると身ぐるみはがされることもあるから注意しなさい」と車の中で諭してくださったおじさんもいた。
 
そんな中、阿寒のユースホステルで知り合ったなった女の子がいた。その子は北海道の子で、お父さんが迎えに来てくれて、次の宿泊先の釧路ユースまで車で行くというので、同乗させてもらえることになった。私たちは別のユースに予約してあったので、一度彼女を降ろしたら駅まで送ってくださるという。私たちは大喜びした。
 
さて、釧路ユースについて、彼女をおくるために車を降りて建物に入った。
そして凍り付いてしまった。
なんと受付に昨年出会った彼がチェックインする姿があったのだ。
体中の血が逆流するのがわかった
ゲ! これって、神様がセッティングしてくださったに違いない!
 
あまりの驚きに声も出ず、立ち尽くす私のそばを友達が通り抜け、すかさず彼に声をかけた。
「あの~ 去年の写真を渡したいので住所と連絡先を知りたいの。教えて」
さすが親友。素早い機転に感謝感激。
 
チェックインで受付にいる時間はほんのわずか。私たちが釧路ユースに立ち寄った時間もほんのわずか。そのタイミングがぴったりあったのだとしたら、これこそが運命に違いない。
奇跡という言葉が静かに降りてきた。
 
走り書きのメモを手に入れて、私たちは釧路ユースを後にした。
お友達ありがとう! お父様ありがとう! 神様ありがとう!
 
 
爆発しそうなワクワクを抱えて東京に帰ってきた私は、当時付き合っていて徐々に疑問を感じ始めていた彼氏に別れを告げた。
運命には逆らえない、そう信じていた。
 
渋谷のレストランで会う約束をして、いよいよその日はやってきた。
少し薄暗い店内で見る彼は、北海道で会った印象とは少し違った。
うーん、なんか違うな。
そりゃ、北海道の青空の下で会うのと、東京の薄暗い店内で会うのとでは違っていて当然だ。
しかも、来年は卒業して社会人になるのだから、いつまでも自由人ではいられない。
 
その後も友達として3人やふたりで時々会いながら、春を迎えて彼は晴れて社会人となった。勤務先は新潟県。
新潟県とはどうも相性がよくなかったのか、たまの電話も元気がなかった。
「空が毎日暗いんだよね」冬場は特につらかったのだろう。
そのうちに電話もなくなり、運命の出会いもすっかり色あせてしまった。
 
 
「旅先の恋は新鮮なうちに料理しなければまずくなる。
もしそうでないなら、旅の空の下に放してあげたままがよい」
私はそう胸に刻んだ。
しかし、残念なことに、それ以来旅先で心くすぐる人に出会っていない。
それはそれでちょっと寂しい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事