やきとり屋の店主が占う手相占いに行ってみた
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鳥平純子(ライティング・ライブ大阪会場)
先日、プラス1000円で手相占いをしてくれるという話題のやきとり屋に友人と行ってきた。
店主が手相を見てくれるらしい。
右手にセブンイレブンのロゴが入ったライトを持ち、左手にハズキルーペを持った60代くらいのおっちゃんがやって来た。
さっそく、私の手のひらをライトで照らしながら店主は言った。
「あなた、小学生の時に……」
(ゴクリッ)
「えんぴつの芯が刺さったんですね」
……まだ始まってなかったんかい。占い。
たしかに私の右手のひらには、えんぴつの芯が刺さったままだ。
3度の摘出手術に失敗し、共存の道を選んだ。
「あと、若い頃ののりピーに似ていると言われませんでしたか?」
海苔ピー?
「酒井法子です」
モー娘。と、AKBが全盛期だったZ世代に、昭和のアイドルの若い頃なんて分かるワケなかろう。
ググってみたが、まったく似ていない。
化ける前の山本彩に似ていると言われたことはあるが、酒井法子はない。
大丈夫か? このおっちゃん、なんか胡散臭いぞ……若干の不安が募る。
「今、仕事のやる気起きないでしょ?」
ギクッ
「あ~、去年がんばったから、もう電池が切れちゃったんだね」
す、凄すぎる。その通りだった。
仕事のやる気がないと出てくるシワなんてあるのか。
この手のどこにそんなシワが刻まれているんだ。
コロナ禍の不況を乗り切るために、私がやらなければ! と、ただの事務でありながら張り切り、朝早い時は7時前には仕事を始め、家に帰ってからも仕事をしていた。
それを見ていた上司が、社長に報告してくれたようで、私は昇給することになった。
その辺りから、だんだん先輩の風当たりが強くなった。
いや、風どころではない。もはや、あれはハリケーンだ。
「もっと頭使って働いた方がいいで。頭の使い方、大事やと思う」
「私の言ってることわかる? え、わかるよな?」
同じこと2回繰り返す嫌味の反復法。
破壊力ハンパねぇ。
昔、アメリカでハリケーンに女性の名前ばかりが付けられていた理由が、何となくわかった気がする。(合っているかは不明だが)
荒らされた畑を耕し直しても、毎日訪れるカタリーナ。
いくら頑張って耕したって全部無駄になる! と、スコップを掘り投げたところだった。
友人にすら言ってなかったことをサラッと暴いたおっちゃん、凄い。本物だ。
「いいよ。君はそのままで。1日1日をやり過ごすだけでいい」
おっちゃんの言葉でほんの少し、肩の荷が降りた。
とりあえず、スコップをもう一度持つ気力が湧いた。
話題は恋愛面へ。
これから、どタイプの人出会うが、性格の不一致で結婚は断り、その次は真面目な人と付き合い、面白くなくて断るそうだ。なんて気ままなんだ、ミライのわたし。
迷走の果てに、大人な人と結ばれるそうだ。
その結果に、周りの友人が「うわぁ~……」と、何とも言えない声を漏らした。
どうやら、友人目線から見ても当たっているらしい。
こうして、鑑定は終わった。
ここで、店主のアドバイスをちょこっとご紹介(恋愛に悩む女性向け)
①スカートを履く
②デートでお金は出さない
③お金を出さない分、オシャレになること
④ジャッジし過ぎず、柔らかくみること
いろいろ見てもらったが、私には自分の仕事運や結婚運よりも、もっと気になることがあった。
それは「なぜ、やきとり屋の店主が手相占いを始めたのか」だ。
“手相占い”という付加価値を付けることで、他店との差別化を図って、売り上げを上げるためかな? と予測したが、ハズレだった。
店主曰く、15歳の時に自分のことが知りたくなって、ホロスコープや姓名判断など、片っ端から占いの勉強をしたそうだ。お金を稼ぐ気は一切なかったらしい。
占いを学びながら、数十個の職を転々とし、最終的にやきとり屋にたどり着き、たまたまお客さんの手相を見てあげたことがキッカケで、口コミで広がったそうだ。
「いろいろやってきたから、いろんな人の気持ちが分かるんよ~」と、笑う目じりの小じわがチャーミングだった。
今では毎日ほぼ満席状態で、わざわざ遠方から足を運ぶ人もいるそうだ。
商売繁盛で有り難いことばかりかと思いきや、得たものがあった分、失ったものもあったそうだ。
まだ手相占いをしていなかった時に通ってくれていた常連さんは、今はもう、一人も来ないらしい。
占い目当てのお客さんが溢れ、常連さんの居場所がなくなってしまったそうだ。
「あれは悲しかったですね……」と、微笑む目じりの小じわは、今度はさみしそうだった。
店主が、私と世間話をしている時でも、他のお客さんが店を出る時は必ず「ありがとうございました」と丁寧にお辞儀をする姿を見て思った。
少しでも、自分ができることで誰かの背中を押せたらと、まごころを込めてやっているんだ。きっと。
閉店間際、なんとなく店主に自分の話をしたくなった。
「私、やりたいことがあるんです。実は……」
すべてを言い終わる前に、店主が吹き出した。
「その業界に自ら進みたいと言う人に初めて会いました。
ここにいるお友達もみんな、やりたいと思わないでしょう。
でも、あなたはやりたいと思った。
それは、そこに、あなたが掴むべき何かがあるからだと思います。
例え、それを達成できなかったとしても、その過程がのちに、絶対活きる。
やりたいこと、やりましょう。ぜひ、目指してください」
あたたかい追い風に、ぶわっと吹かれた気がした。
よし、カタリーナすらも全部まとめて追い風にして!
……いや、カタリーナはまだちょっと怖いな。
今は、まだまだな私だけれども、ちょっとずつやっていこう。
まごころ込めて。
いつか、おっちゃんのように、誰かの背中を押せる側のひとになれますように。
***
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