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育児でフランベしてしまう感情をなだめる2つの武器


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西元英恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「あ、そうだ。これハナさんに渡そうと思って」
子供たちが野球遊びに興じるのを一緒に見守っていたママ友が、ズボンの後ろポケットをゴソゴソして何かを取り出した。そこには手のひらにすっぽり収まるくらいの銀色の四角い袋があった。
 
インスタントラーメンのかやく? なわけないか。
「え? なになに?」
その包みには「ツムラ 抑肝散」とあった。漢方薬だ。
 
「イライラが止まらないって話、してたじゃないですか。色々試した結果、私にはこれが一番効いたんで」
そう、子育て真っただ中の私達の数ある悩みの一つに「ストレス」がある。彼女の家庭も我が家同様、幼児の男の子が二人いる。小さい怪獣みたいなのを二匹追い掛ける日々は、自分でも気づかぬうちに体力と気力を奪っていく。そしてコップがガソリンで満タンになって、何かの出来事をきっかけに着火すると、自分でも思わぬほどに爆発してしまう。
 
「やめなさいって、言ってんでしょうがー!!!!!」
まるで料理のフランベみたいに一気に火柱が上がる。料理の場合、フランベすれば香りづけにもなるし、旨みを閉じ込めるという効果がある。しかし、育児においては私の気持ちをフランベしたところで何の美味しさも生まれない。ストレスで天井高く上がった火柱を見つめながら、後悔が残るだけだ。
(あー、またやっちゃった。もっと冷静に対処できなかったものか……)
 
「抑肝散」はイライラや不眠に効く。東洋医学で考える「肝」には神経や感情をコントロールする役割があるのだ。服用することで気分がすーっと落ち着き、よく眠れるという。確かに日中いろんなことがあると、疲れているのに眠れないということもある。私にピッタリじゃないか。ママ友のズボンがドラえもんのポケットに思えた。
「わー! ありがとう。辛い時試してみる!」
 
大事に持ち帰り、その後はいつも持ち歩くポーチに入れている。結局まだ飲んでいないのは、「私にはこれがある」という精神的支柱になった事と、ポーチに入っている銀色の包みを見るたび「戦友も今頃がんばっているんだ」という励ましに思えるからである。
 
ママ友からの思いがけないプレゼントは嬉しい出来事ではあったが、まだ根本的な解決には至ってない。
 
実は他にも気になることがあった。
生理周期(生理が始まって、次の生理が来るまでの日数)が標準の28日よりも短い。大体21日くらいで次の生理が来てしまう。いわゆる生理不順ってやつだ。次男出産後、なかなか標準の生理周期に戻らないまま時が経っていた。
 
生理用品を販売する「ソフィ」によれば、生理不順の原因は色々あるが、現代社会において圧倒的に多いのは「精神的なストレス」によるもの……とある。精神的なストレスがホルモン分泌に影響を与えるらしい。
 
イライラしやすい事と、生理不順が長引いている事。条件は揃ってしまった。もう、あそこの門を叩く時が来たようだ。婦人科の受診である。
 
生理不順はもちろんのこと、イライラで思い当たったのはPMS(月経前症候群)を疑ったからだ。PMSは月経前の3~10日の間に続く精神的または身体的な症状の総称である。原因ははっきりとはわかってないが、排卵後から月経前までに多く分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)が関わると言われている。
結局生理前にブワーッと急上昇したホルモン量が、今度は生理と共にサーッと急降下する。女性はまるでジェットコースターに乗らされているみたいにホルモンによって振り回されているのだ。
 
そうして、私はずっと気になっていた課題をクリアするべく婦人科を受診したのだった。先生に自身の状態を話す。イライラしやすい事、生理周期が短い事。
 
「じゃあ、まずは検査をしましょう」
超音波検査で子宮や卵巣の様子を先生がチェックし、患者もその画像を共有する。
「子宮も、卵巣も問題は無いみたいだね。子宮がんの検診とかは受けてる?」
「はい、年に1回は受けてます」
 
がん検診を定期的に受けている事と超音波検査で異常が無かったことから、他の病気ではなく、ホルモン分泌が過多になっているのだろう、という結論に至った。
「で、どうする? お薬を処方してホルモンバランスを調整することもできるけど」
婦人科の先生いわく、きちんと排卵がなされていれば生理周期が短い事自体はそれほど問題では無いという。しかし、私としてはこのまま帰る気にはなれない。生理周期が短いおかげで通常1年に約13回のところ、私は18回と多めにジェットコースターに乗らされているのだ。できれば、もうすこし少なめでお願いしたい。
 
先生が提案した薬は「低用量ピル」だった。ピルと聞いて一瞬ひるむ。漢方薬とかもっと副作用が少なそうな、手軽に飲める薬を想像していたからだ。ピル=避妊というイメージがあり、勝手に敷居高く感じていた。そう簡単に手を出していいのだろうか。
 
ピルは避妊以外にも、月経痛、過多月経、生理不順やPMS、子宮内膜症の治療に使われており、月経に伴う悩みを減らすことができるのだそうだ。
迷う私に先生が言った。
「スタッフから詳しく説明があるので、それを聞いてから飲むかどうかを決めたらいいよ」
 
スタッフの説明はこうだった。
服用することでホルモンの量を調整し、正常な生理周期へと近づける。しかもイライラなどPMSの症状を軽くする働きも期待できるという。
ただし、デメリットもある。副作用だ。薬を飲み始めて1-2周目は頭痛・吐き気などの症状が出る場合もあるという事だった。しかし、その副作用は時間の経過と共に減少してくる。
 
ピルは飲んでいる間、効果を期待する薬であるからやめれば元にもどる。1ヶ月分で3,000円程度。出てくるかもしれない副作用を気にしつつ、飲み続けるのか? どうする、私。
 
出した答えは「飲んでみる」だった。
今ある状態から抜け出したいのはもちろんのこと、せっかく来たのに手ぶらで帰るのがなんか惜しい気もした。もうすぐ始まる冬休みを迎えれば、こうやって一人でゆっくり受診できる機会もなくなる。その前に何かしらのお助けアイテムを持って帰りたかったのだ。
次の生理が始まれば服用開始だ。その時に備えてピルは引き出しの中で静かにスタンバイしてくれている。頼むよ、ピル。どうか私のイライラを止めてくれ。
 
ママ友が授けてくれた「抑肝散」、婦人科で処方された「低用量ピル」。
結局まだ何も飲んでいないのだけれど、それを持っているというだけで何となく心強い。これまで丸腰で臨んでいた怪獣たちとの戦いだったが、やはり武器は必要だ。幼くて小さい怪獣たちを打ちのめしたいわけでは決してない。怪獣たちを「よしよし」と愛して、なおかつ、自分が優しい気持ちでいられること。それを目指して、これからも模索は続く。≪終わり≫
 
 
 
 
***
 
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2021-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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