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私を突き動かす遊び心は神様からの贈り物だった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:アキ・ミヤジ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「感謝するならば、神様に感謝してください」
 
脊髄腫瘍で下半身不随になった私は、腫瘍を取り除く手術を受けた。
その後、リハビリ病院に転院。
三ヶ月ほどのリハビリを受けて、歩けるようになるまで回復した。
 
退院後、再び手術を受けた病院を訪れたとき。
私の診察を始めた執刀医はしばらくして「あれ?」と首をかしげた。
「確か歩けませんでしたよね?」
私が頷くと、執刀医の表情はたちまち驚きに変わった。
  
執刀医の記憶が曖昧なのは不思議なことではない。
手術後、3カ月以上の時が経っていた。
それに手術の際、私はうつ伏せ状態だった。
執刀医から私の顔はほとんど見えていなかったはずだ。
  
だが、記憶が曖昧だったから驚いたわけではなかった。
私の回復が、医学での想定をはるかに超えていたからだった。
  
「今だから言いますけどね」
 
この時はじめて、手術をしてもほとんど回復する見込みがないほどに病状が進行していたことを、医師からはっきりと聞いた。
それまでは、医療スタッフの誰からもはっきりと聞かされてはいなかったのだ。
私のリハビリに向けてのモチベーションを下げないためだったのだろう。
  
先生の手術のおかげです、と私は頭を下げた。
しかし、執刀医は首を横に振った。
手術前の病状からここまで回復することは医学的には説明できない。
だから、感謝する相手は神様のほかにはない、というのだ。
  
まさか、大学病院で最先端の医療を担う医師から、神様という言葉が出てくるとは思わなかった。
下半身不随から歩けるまでの回復は、それほど幸運なことだったということだ。
  
ああ、神様に感謝しよう。
素直にそう思った。
でも一体、なにを感謝すればいいのだろう?
  
回復できた幸運を感謝すればいいのかもしれない。
けれども回復したことへの感謝は、やはり執刀医をはじめ、私のために力を尽くしてくれた多くの医療スタッフの方々、そして家族にささげたい。
  
そういった方々に巡り会わせてくれたことを神様に感謝すべきだろうか。
その感謝はもっともなのだが、いまひとつ腑に落ちない。
 
これまでずっと考えていたのだが、退院して半年が過ぎた最近になってようやく一つの結論にたどり着いた。
 
遊び心を持ち続けられたことに感謝しようと。
 
遊び心をもつことに私の意識が向き始めたのは、理工系大学に入学し、卒業研究を始めた頃だと思う。
その頃私は、生物物理化学分野の研究室に所属し、バクテリアの応用研究を始めた。
 
研究室では「遊び実験」と呼んでいたものがあった。
自身の研究目的に向けて実験を重ねている中で、研究目的とは無関係だけれどもふと興味がわいたこと、面白いんじゃないか、と思うことがある。
それを試しにやってみる実験のことだ。
もちろん、指導教員には秘密で、である。
 
大概はうまくいかない。
が、稀にうまくいくことがある。
そこではじめて、指導教員に報告する。
 
遊び実験の結果によって、学位論文の方向性が変わったり、新しい研究テーマが立ち上がったりすることもある。
だから、指導教員も含めて、遊び実験に対して寛容な雰囲気が研究室にはあった。
 
その後、私は博士になり、大学に籍をおいて研究を続け、17年の月日が経った。
遊び実験から新しい研究テーマが生まれることを何度も経験した。
おかげで、専門分野にとらわれずにさまざまな研究にチャレンジすることができた。
遊び心は私の研究活動に欠かせないものになった。
 
研究というものは、「社会に役立つ、貢献するもの」というイメージが強いのではないだろうか。
だからといって、社会に役立つことへの使命感だけで研究をしているとは限らない。
 
研究の現場には、たくさんの遊び心が溢れている。
その遊び心が、研究者を突き動かしていたりする。
それは、下半身不随から歩けるようになるまでのリハビリの過程でも同じだった。
 
リハビリを始めた頃。
歩けるまで回復することは難しくても、杖をついてでも歩けるようになり、できれば仕事に復帰できるように、という希望をもっていた。
 
そのため、家族のことも仕事のことも考えず、ただリハビリに集中すると決めた。
後先のことは考えず、一日一日のことだけを考えた。
 
ところが、リハビリに集中しようすればするほど、遊び心が首をもたげてきた。
次第に、リハビリに集中するというよりも、遊び心をもって一日を過ごす、という気持ちに変わっていった。
 
リハビリではトレーニングによる身体や感覚の変化を楽しんだ。
病室での一人の時間は、読書や映画鑑賞、スマホを使って病院の窓から見える景色をスマホで撮影したり、ストップモーションアニメを作ったりして楽しんだ。
病院スタッフや患者さんと言葉を交わし、さまざまな話題を楽しむこともできた。
 
そんな遊び心をもってリハビリを毎日続けているうちに、幸運にも、当初に目指していた状態よりもはるかに良く、回復していった。
 
人生の中で、身体と生活がこんなにも大きく変化したことは、これまでなかった。
私も、私の家族も、大変な思いをした。
そんな大きな変化の期間を振り返ると、遊び心なしでは乗り越えられなかっただろう、と感じる。
 
いや、もしかしたら遊び心とは、変動する人生の中にこそ生まれてくるものなのかもしれない。
神様が矛でもって、私の人生をちょちょいとつついて掻き乱す。
そのたびに私の人生は変化し、遊び心が生じ、遊び心の魅力に引き込まれていくのだ。
 
次第に私は、人生を突き動かしている遊び心は神様からの贈り物だと思えてきた。
そして、その贈り物を私に与えてくれたことこそ、神様に感謝すべきことだと思えてきたのだった。
 
今年ものこりわずか。
神社で手を合わせ、神様に与えてもらった今年一年の遊び時間に感謝しようと思う。
 
来年はどうかお手柔らかに、というお願いも添えて。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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