メディアグランプリ

リストラされてきた社員が私に教えてくれたこと


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深谷百合子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
「グループ会社の人員整理の一環で、来月、こっちに5名異動してくるぞ。今のうちに、受け入れの準備とか教育計画を作っておいてほしい」
 
週明けの朝礼で、課長は私たちにそう指示を出した。人手が増えるのはありがたいことだった。でも、やってくる5人は皆、私たちの仕事の内容に関しては未経験だ。しかも年齢は40代後半から50代だという。
 
「この職場になじめるだろうか」と、少し心配しながら、私たちは受け入れの準備を進めていた。
 
月が替わり、その5人が職場にやってきた。朝礼で一人ずつ挨拶をしていくが、新しい職場への期待感みたいなものは少しも感じられなかった。むしろ、「望まぬ職場に来てしまった」という感じがみてとれた。
 
彼らの表情を見ながら、私は「そりゃそうだろうな」と思っていた。だって、つい最近までは彼らの職場は「花形」だったのだから。
 
彼らは、異動してくる前は、会社の主力製品を製造する工場の生産部で働いていた。主力中の主力、会社の「顔」と言っても過言ではない製品を作っていたのだ。「マザー工場」として、海外に展開した工場へ技術指導に出かけたり、海外からの研修生を受け入れたりして、グループ会社の中でも一目置かれるような工場だった。
 
破竹の勢いで売れていた製品だったのに、ここ1、2年の間に新しい技術に取って代わられ、売れなくなった。製造するほど赤字という状態になって、生産規模を縮小することになったのだ。
 
一方で、私の職場は生産を支える側、つまり「裏方」である。工場から出てきた排水やゴミを処理する仕事もある。夜勤もあるし、排水やゴミを取り扱うので、決してきれいな仕事ではない。
 
今まで、「俺たちが作った製品で稼いでいる」というプライドを持って、「花形」の位置にいたのに、急に「裏方」の職場に来たのだから、モチベーションは下がって当然だ。しかも、全く専門分野が異なる職場だ。
「この歳になって、新しいことを覚えないといけないのか」と思うと、憂鬱なのに違いない。
 
おまけに、彼らは年齢的に見ても、今までは教える立場にいたのに、これからは自分よりも年下に教わる立場になる。「気持ち的にキツイだろうな」というのが想像できた。
 
私が想像した通り、まだ来て間もないのに、次の活路を求めて辞めていく人がいた。一方で、諦めたように淡々と日々の業務をこなすだけの人もいた。
 
ところが、その中で生き生きと成長していく人がいたのである。
 
「今からボイラーの点検に行くんですけど、一緒に行きます?」と私が声をかけると、「いいです、ここで電話番してます」と言う人がいる一方で、その人は「行きます、行きます」とついてくるのだ。とにかく何事にも積極的だった。
 
「ちょっと教えてくれる? これって2台だけ他のと種類が違うでしょ。なんで?」
相手が年下だろうと関係なく、分からないことがあると、素直に質問してくるのだ。
 
「私だったら、プライドが邪魔して、こんな風に聞けないかも」と思った私は、その人と一緒に点検に出かけた時、思い切ってこう聞いてみた。
 
「異動が決まった時、正直モチベーション下がったりしなかったんですか?」
 
すると、こんな答えが返ってきたのだ。
 
「そりゃ、最初は何で? って思いましたよ。でも、今までやったことがないことだから、自分に合ってるかどうかなんて、やってみないとわからないでしょ。だからとりあえずやってみて、それから考えればいいんじゃないかと思って。でね、やってみたらこの仕事、結構面白いし、楽しいね」
 
まだ30代後半だった私に、この言葉はすごく響いた。この先、もし彼と同じような立場に自分が立つことがあったとしても、一度はトライしてみよう、「食わず嫌い」せずにやってみようと思った。
 
その後、私は他の会社へ転職したが、彼とはずっと年賀状のやりとりが続いていた。あの時一緒に異動してきたメンバーは、ほとんど辞めてしまったけれど、彼はずっと同じ職場で頑張っていた。
 
それから数年後の元旦。その年も彼からの年賀状が来ていた。
 
「昨年定年を迎えました。今は家の近くのビルの設備を管理する仕事をしています」
と書かれていた。
 
ビルの設備の管理とは、例えばビル全体の空調設備の点検やメンテナンスの管理をしたり、消防設備やエレベーターの管理などだ。私たちが工場でやってきた仕事と変わりない。つまり、彼は人員整理のあおりを食らって異動した、その異動先で身につけたスキルを生かして、定年後の仕事を選んだのだ。
 
私はそれが無性に嬉しかった。
「人間、いつからでも挑戦できるし、いつからでもできるようになるよ」と言われている気がして、勇気が出た。
 
人は時に、自分の意図とは関係なく、環境を変えざるを得なかったり、思わぬことが目の前に現れたりする。
 
そんな時、
「難しそう」
「面倒くさそう」
「できなさそう」
「こんなの嫌だ」
「自分には絶対合わない」
とか、色々な理由をつけて、目の前に現れたことを避けたりしたくなる。でも、実は自分の思ったことは、「思い込み」だったということもあるかもしれない。
 
「美味しくなさそうに思えるけれど、食べてみたら美味しかった。成長の種ってそういうものかもしれないな」
 
私は彼の姿を通して、今ではそんな風に思っている。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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