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ポイ捨ての先の未来

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:若林麻由(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
私が20歳くらいの時のこと。
友人の運転する車の助手席に乗っている時だった。
渋滞にはまっていた。
先を急いでいるわけではなかったので、
「なーんか混んでるねー」
とのんびり話していた矢先、前走車の運転席から、タバコの吸い殻が窓の外に捨てられた。
 
「はー???! そういうことするの、ほんとダサいんやけど!!!」
こういうさ〜、マナーが悪い人がいるから、喫煙者が余計に煙たがられるんよ〜!」
 
喫煙者である友人は憤っていた。
 
たまたま前を走っている車を運転している知らない人の行為。
こちらは窓を閉めているため、声は聞こえない。
 
もし、これがお互いが歩いている時に、同じ場面に出くわしたとしたら、
その吸殻を拾って、「あ、今、落としましたよ」と言ってやりたい、と友人は言った。
 
わーお。
こ、こ、怖い。
もし、そんなふうに思ったとしても、私には実行できない案件だ。
因縁つけられるのも、とばっちり食らうのも避けたい。逃げたい。関わりたくない。
 
この場合、見て見ぬ振りが一番ベスト、だと思っていた、その時は。
その時までは。
 
 
それから15年ほど月日が経ったある日、
あの時の、吸殻ポイ捨て事件を思い出させる案件が、目の前で起こった。
 
私の車を駐車場に停めて、職場までの道、およそ50メートルほど。
私が職場まで歩いていた5メートル先に、制服を着た中学生4人がわいわい賑やかにゆっくり歩いていた。
 
お! 中学生! 楽しそうにはしゃいでるねえ〜! と思った次の瞬間、
そのうちの一人の中学生男子が、手に持っていた、おそらくコンビニの一人前分のパスタの容器とそのフタを、歩きながら、道にポイ捨てしたのだった。
 
えーーー!!!
 
本人も、そしてそばにいる仲間が拾うわけでもなく、
その大きな空の容器たちは、道に転がったまま。
そのゴミと化した容器たちを見て、彼らみんなで笑っている。
 
いやいやいやいや。
それはダメでしょ。
ポイ捨てにも程があるでしょ。
え、でも、どうする?
拾うけどさ。
職場のゴミ箱に捨てるのはカンタンだけどさ。
それでいいの?
あ、そうだ、これは落とし物だ。
落とし物なら、本人に返すべきだ。
捨てた子は、あの子だ。
……よし!!
 
ポイ捨て目撃から、私が拾うまでの時間、およそ5秒。
私は少し小走りに、わざと足音立てて、中学生たちに駆け寄った。
 
ポイ捨てをしたその子めがけて、軽いタッチで後ろから肩を叩いた。
そして振り向いた彼に言った。
 
「すみません! これ、落としましたよ?」
 
なるべく嫌味に聞こえないようにと、爽やかに軽やかに、「今落としたあなたの大事なお財布拾いましたよ」の声のトーンで差し出した。
 
「……あぁ」
 
その子はバツが悪そうに、手を伸ばして受け取ってくれた。
そして、他の子が、
 
「あー、すみません」
 
と言った。
 
私はできるだけ、凛と見えるように姿勢を正して、颯爽と早歩きをして、彼らを追い抜き、職場に入った。
 
とても緊張した。
勇気がいった。
 
彼らも本当はいけないことだと分かっているに違いない。
常習犯になるのだけは避けてほしい。
誰かが釘を刺すことも大事、だと思った。
15年前、その誰か、に自分はなりたくない、と思っていたはず。
それなのに、見過ごすことができなかった。
 
私にも息子がいる。
息子がもし同じことをしようもんなら、もちろんこっぴどく叱るし、目撃した人がいるならば、ガツンと叱ってほしい、と思ったのだ。
地元の中学生ならば、なおさら、自分の行動に責任が持てる青年になってもらいたい、と思った。
突如、親心が発動し、その行動に出たんだろうな、と今となっては思う。
 
 
そしてそれから5年が経った。
昨日、職場の後輩と、たわいもない会話をしていた時のこと。
 
「私、中学生くらいの時、めっちゃヤンチャで、タバコ吸ってて。
ポイ捨てがカッコいいって、勘違いしてたんですよ〜!」
 
えーーー! カッコいい??
……てことは?! あの時の中学生も、カッコつけていたのねー!!
 
今までそこそこ真面目に生きてきた私には新鮮な発想だった。
後輩は続けて言った。
 
「だから、今までポイ捨てしてきた分を取り戻すつもりで、犬の散歩の時は、道に落ちてる吸い殻も拾うようにしてて。
そしたら、その1ヶ月後に妊娠して。
やっとできたから、なんか神様が見てくれてる気がしてて」
 
バコーーーン!!!
バッドで頭を殴られた感覚だった。
 
私も毎日、愛犬の散歩をしている。
犬を飼い始めて約3年。
道に落ちたタバコの吸い殻を見たことは幾度となくあるのに、それを拾おうと思ったことは、一度たりともなかった。
 
そして、恥ずかしいことに、中学生ポイ捨て事件に関しては、いいことをした、と自負して、自分の中での武勇伝にしているだけだった。
 
あー、恥ずかしい、恥ずかしい。
大切なことを気づかせてくれる時、往々にして、目を覆いたくなるような自分の恥ずかしい感覚や感性を目の当たりにする。
 
悪ぶったり、カッコつけたりしていた過去も、後に、人として花咲くことにもなるのだと知った。
 
明日の散歩から、後輩を見習おうと思う。
 
 
 
 
***
 
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