Q:妻が結婚指輪を紛失。あなたならどうする?
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記事:日下秀之(ライティング・ライブ大阪会場)
「指輪がない!」
お風呂場から妻の叫び声が聞こえた。
風呂を覗きにいくと、確かに妻の左手薬指から金色の指輪がなくなっている。
こんな時、あなたならどうするだろうか。
調べてみると、指輪を無くした時のパートナーの反応は様々。
大喧嘩になってしまうことも少なくないらしい。
ネットでは「妻が婚約指輪を無くしました。本人も泣いて悲しんでいます。僕自身も気持ちが切替えられず優しく接してあげられません」「旅行中に結婚指輪を無くして、帰りの車まで落ち込んでいたら大喧嘩になった」などの悩みが投稿されている。つらい。
さて、僕の場合はどうだったか。
正直な僕の第一声は「ああ、ほんとだ」だった。
ん? 反応が薄い? 愛がない?
そんなことはない。たぶん。
その後家の中もそれなりに探した。早々と諦めて掃除機をかけたけど。
ならば、僕はいかなるときも怒らない聖人君子なのか。
そんなはずもない。最近は嫌なことがあると、家で人の悪口もちょこちょこ言う。
じゃあ、そもそも大切な指輪ではなかったのか?
……これは、正直否定できないかもしれない。
指輪がなくなった瞬間から「ある言葉」がずっと頭の中に浮かんでいたのだ。
「……まあ、2980円だしなぁ」と。
世間的に見ると、僕の年代での結婚指輪と婚約指輪の総額は平均70万円程度らしい。
我々夫婦はどうしても、その価格に納得がいかなかった。
「なんでクソ高いものを、それも2回も買わなあかんねん」と思ってしまうのだ。
そこにお金を払うなら、旅行に行きたいタイプの夫婦だった。
もちろん高価な指輪を否定しているわけではない。念のため。
むしろ我々がちょっと変わり者なのだと思う。自覚はある。
そんな僕と妻が付き合って1年の記念日。陶芸教室に行って指輪を作った。
真鍮の細い線をリング状に丸め、火で炙る。
炙ったところにろう材と呼ばれる接着剤をあてがい、リングをくっつける。
後は指のサイズに合うように、ハンマーでトンカントンカン。
気分は指輪物語のドワーフだ。
不器用すぎてクソでかい指輪になったので、無理やり歪ませてサイズを合わせた。
いい味が出た。
以上、お値段2980円也。
付けていると何かが溶け出して指が黒くなるのがちょっと怖いが、平均の200分の1以下の価格だ。
ちなみに一緒に作ったマグカップは6000円した。高い。
200分の1で済ませた分、できることはたくさんある。
例えば、国内旅行なら5回はいける。
旅行先の美味しいご飯もしっかり食べられる。
ホテルは良いところだと予算を超えちゃうけど、我々は旅先のベッドにはこだわらない。
なんなら床で寝れる。
例えば、一通りの便利家電は揃えられる。
僕が一番ご満悦になる時間の使い方がある。
ルンバに床を掃除してもらい、ドラム式洗濯機に服を乾燥してもらい、食洗機に食器を洗ってもらいながら、小説を読む。これだ。
召使いに働いてもらって優雅な時間を過ごす、これを王様タイムと呼んでいる。
もし高価な指輪を買っていたらこの働き者たちを雇えなかったかもしれない。
少なくとも財布の紐はガチガチになっていただろう。
その他にも2980円指輪の活躍はたくさん。
プロポーズの時は右手につけていた指輪を左手に移し替えた。
1年記念の指輪は婚約指輪になった。
結婚記念日には、左手の指輪を一回抜いて、またはめ直した。
婚約指輪は結婚指輪になった。
2980円の指輪が3役兼ねた。
アラジンのジーニーでお馴染み、山寺宏一に匹敵する器用さ……と書こうとしたら彼は一人50役やっていた。やばい。
ここまで振り返ってみて気がついたが、あの指輪には思ったよりも思い出が詰まっていた。
ダイビングのライセンスを取ったり、レーシック手術を受けたり、要所でお金を使うことに躊躇しなかったのも、この指輪のおかげだと思う。
指輪から溶け出した黒ずみは、彼の頑張りの証だった。
文字通り、彼は身を削って活躍してくれたのだ。
「いつでも作れるし、いつでも失くしていいや」と思っていた。
でも、こうして言葉にしてみると案外大切に思っていたことに気がつく。
「指輪、お前だったのか。いつも、豊かな時間をくれたのは」
「ごん狐」でごんを撃ち殺してしまった兵十のように、静かな哀しみと感謝が胸を打つ。
価格と価値は関係ないのだ。
お金で買えない価値がある。思い出はPriceless。
今回、あの指輪は役目を果たしたのだ。そう思うことにした。
ありがとう! そして、さようなら。2980円指輪。
……とはいえ妻が独身と勘違いされると良からぬ男に言い寄られそうで困る。
また作りに行くことにした。
今度は、彼が身を削らなくても良いように、少し価格を上げて溶けない素材にしようかな。
4980円也。
***
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