メディアグランプリ

海を挟んだ遠距離恋愛の結末


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記事:渡辺諒(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
「今日はちゃんと別れるつもりできたから」
 
大学の時、2年以上の期間を一緒に過ごした彼女との関係は、2人がよく知る喫茶店で終わった。
 
このセリフを言い渡される前の約10か月前、僕らは僕が運転する車で休日のドライブデートの真っ最中だった。
 
「俺、休学して留学しようと思ってるんだ」
 
唐突に僕が言い放ったこの言葉には、迷いがなかった。
きっとこれを聞いた彼女は驚いていただろう。大学の同級生として知り合い、付き合い始めてからもう2年くらいになる僕らは、順当にいけばあと1年大学生活を送れば卒業。就職をして卒業後のお互いの関係を話し合うならまだしも、突然に僕が1年休学をすると言い出したのだ。当然、卒業も僕だけが1年遅れることになる。それどころか海外に半年以上も行ってしまうと伝えたのだ。しかも、このことは彼女に一切相談することなしに……
 
彼女はどんな表情をしていたのか覚えがない。というよりは、高速道路を運転中の僕はまっすぐに前を向いていたのだから、きっと彼女の表情を伺うことすらしていなかったのだと思う。
 
「そうなんだ……」
と彼女は静かにつぶやき、それでも僕が決めたことを応援すると言ってくれた。
 
遠距離になってしまうことに悩まなかったのか、と言われれば全く悩まなかったわけではない。めちゃくちゃ仲が良かった友達カップルでも、遠距離になった途端に別れてしまったケースを何度も見てきた。帰国した直後の空港で、彼氏と彼女が抱き合って再会を喜ぶ光景なんてドラマの中だけの話で現実にはほとんど起こりえないことだって十分理解しているつもりだった。
 
それでも僕らなら大丈夫だ。そんな根拠のない自信を僕は持っていたのかもしれない。
 
こうして僕らの国境を超える遠距離恋愛の日々が始まったのだ。
 
遠距離恋愛となったカップルにはどんなイメージが湧くだろうか? きっと僕らもイメージ通りの日々を過ごしていた。時差はそれほどなかったため、お互いに時間のできた夜にはメッセージを送り合い、日々の様子を写真で送り合う。時には電話して近況を伝えあって果てしないほどの距離という溝を埋めようとする。
 
遠距離恋愛のカップルの初めの期間が世間一般のイメージ通りに過ぎ去ったのならば、当然のように別れることになるまでのイメージも世間一般のイメージ通りだったのかもしれない。
 
初めは友達もいない海外で孤独のためにマメにしていた連絡も、友達の数が増え、生活にも慣れるのに連れて反比例するように減っていった。全く連絡を取り合わなかったわけではないし、海外で新しい人を作るなんてことは全く持ってしていなかったが、帰国するまでに出来上がってしまった10ヵ月間分の空洞は、彼女が別れを決断するには十分だった。
 
帰国して会いに行った時に感じた彼女の印象はまるで初めて会った人のような、付き合っていたころの温かさのような温度が全くなかった。
 
その時、僕の目から涙はでなかった。すべては自分のせいだったから。
 
でも、家に帰って本棚に立てかけられていたDVDを見つけた時、スーッと涙が自分の頬を伝って落ちていくのを感じた。
そこには、僕が大好きな「プロポーズ大作戦」のDVD BOXがあったのだ。それもこれはただのDVDではない。彼女が僕のために誕生日に買ってくれた大切なプレゼントだったからだ。
 
ずっと好きだった幼馴染の女の子に告白が告げられないまま大人になった主人公が、その女の子の結婚式でお祝いのスピーチをする場面から1話目が始まる。当然、新婦の横にいる男性は主人公ではない。後悔する主人公の元に、教会の妖精が現れ、スライドショーに映し出される写真の時代に主人公をタイムスリップさせて、後悔する過去を変えさせるチャンスを与えるという物語。
 
失ってから大切なものの存在の大きさを気づかされたドラマの主人公と僕。そして、後悔する過去を変えるチャンスを与えられた主人公と、そんなチャンスをくれる妖精など存在しない現実を生きている僕。
そう考えて初めて、本当に別れてしまったんだなと実感した。
 
別れた相手との思い出の品はすぐに捨ててしまうという方はたくさんいるだろう。でも、僕にはそのDVDたちをなかなか手放すことはできなかった。DVDが目にはいる度に、楽しかった過去が思い返されて、胸が苦しくなることもあったし、大好きだったドラマの中身をみることなんて別れてから一度もできていない。
 
それでも、いつもこのドラマの結末を思い出す。主人公は結局、何度過去に戻っても、幼馴染が自分と結婚する未来に変えることができなかったのだ。過去で彼女の気をひこうとしても、告白までしても、結局未来は変わらなかった。
でも逆に彼はあることに気が付いた。過去をどれだけ変えようとしても、現実の自分が「いま」と向き合い、「いま」の自分を変えようと努力しなければ全く意味がないということを。
 
今では彼女のことを忘れることができているか、と僕が聞かれたら、きっと忘れられていないと答えるだろう。でも、ドラマの主人公のように前を向いて「いま」を歩けている。そう自信をもって答えることはできる。
 
過去を変えることはできない。だからこそ「いま」と向き合って進んでいこうと胸に刻むことになった大切な思い出だ。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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