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「おかげさまは社交辞令じゃない」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木敬太(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「また前みたいになったらどうすんの」
「わかってるわ! 放っとけや!」
 
医師だけじゃなく家族、彼女や親しい友人からの心配に苦しんだ。食事制限のせいだった。「ほぼ何も食べられないこと」は、23歳のオレには耐え難いストレスだった。何を食べても、容体も炎症反応も正常なのに、制限は解かれなかった。
無理もない。入院&絶食水の中、3週間も高熱・激痛・下血が続いた挙句、大腸に穴が開いたのだ。劇症だった。医師には「三途の川を渡りかけたんやで」と、念押しされた。穴だらけの大腸を摘出して人工肛門が付いてから、半年も経っていない。更に、炎症性腸疾患でも、当時オレが診断されたクローン病は、手術で病変を切除しても、再燃・寛解を繰り返すのが普通で、寛解期を保つには、食事制限が重要なのだ。
オレだってあんなメに遭うのは二度とゴメンだ。食事制限は妥当だろう。
 
妥当だろうがキツかった。ダメな物を買っては食べ、彼女や友人を困らせる自分が情けなかった。冷蔵庫を開け、茹でた鳥のささみ(愛犬用)を隠れて食べる自分が惨めだった。
 
病気になって3回、オレは大事な何かを失った感覚がある。
1回目は、下血を我慢できずに漏らしてパンツとズボンを汚した時。
2回目は、自重を支え切れずに歩けなくなった時。
3回目は、食欲に負ける自分を知った時。
 
何かは「尊厳」だった。
 
トイレまであと5mなのに便意が耐えられない。
当たり前だったことができない。
自分が抑えられない。
 
「猿以下やんけ……」
 
思い返す度、人としてダメなヤツな気がして、冷静に周囲に当たり散らす、嫌味しか言えない人間になっていた。名付けるなら「イヤなヤツの極み男爵」とか。アーティストに仲間入りできそうなキャラを地で行っていた。生活も荒んだ。パチンコやゲーセンに入り浸り、バイトの面接はブッチした。ストレスに向き合えず、退院後も自堕落な生活を送っていた。
唯一、たまに頼まれるテニスのプライベートレッスンだけが、社会との繋がりだった。
 
そんな自分に転機が訪れる。
 
「オーディオ好きなら販売員やってみはったら?」
病気後も、テニスレッスンを頼んでくれていたトウケさんが、声を掛けてくれた。
「大阪市内の電気街、日本橋やったら、オーディオ専門の販売員、という仕事がありますよ。僕、学生の時やっていましてね。今もツテあるから、コーチがその気あるんやったら、話通しますよ」と。
 
トウケさんは、10歳くらい歳上の生徒さんで、病気前からご家族との食事にまでご一緒させてもらうなど、公私共にお世話になっていた方だった。このままじゃアカン、とも思っていたし、話通してもらえるなら、と、お願いした。
 
ほどなくして「コーチ、DENONってメーカーのスミダ部長を訪ねて、面接に行ってください。あ、履歴書に自己紹介文付けて持って行ってくださいね」と、連絡をもらった。「エンコやのに書類要るんやな……」と、面倒臭く感じた。アホ過ぎる。
 
長堀橋のDENON事務所で、担当営業を名乗るコテラさんと、スミダ部長を待った。
 
「はい、お待たせ……と」
 
現れたスミダ部長は、サワジリよろしく「別に」な感じで、歓迎されていないのがわかった。自己紹介もそこそこに、
 
「で、コテラ。どう?」
「ハイ、頑張ってくれると思います」
「そうか。要るんよな? 販売員」
「ハイ、要ります」
「わかった。この子でええんか」
「ハイ、お願いします」
「キミ、頑張れるか。最初は土日祝だけで日当7,500円の歩合無し。成績次第で日数も歩合も日当も増やす。どや?」
「ハイ……、頑張り……ます」
 
死にかけの蚊よりも小さい声で返事した。気に入らなかった。「んー、こんな扱いなんか……。ホンマに話通ってんのか」と、思っていた。バカ過ぎる。
 
「あんな」
 
と、スミダ部長が切り出した。
 
「言わんとこう思たけど。誰言うたかいな、自分を紹介してくれた人。あの人に感謝しいや。」
 
トウケさんのことだ。
 
「オレは別に販売員要らん思てる。コテラは必要やと言うけど、置きゃ売れるっちゅうモンやないしな。で、あの飛び込み電話や。オレと同い歳くらいか? ええ大人が、必死で頼むねん。間違い無く御社の力になるから、って。僕が保証するから、って。いや、誰やねん、て思たで。一生懸命でめちゃくちゃ頑張るから、って。マネキン(販売員の俗称)は初めてやけど、すぐ人の心掴むから、って。絶対たくさん売るから、って。病気療養してたけど、こんな拾いモン居ませんよ、って。そらもう推しっぱなしや。ウチで3件目や、って言うてはったわ。ビクターとケンウッドには断られた、って。正直さからも熱が滲んでたわ。電話番号調べて仕事中にかけたんやろな。オレは大の大人にここまでさせる子に興味が湧いたんや。オレなら親戚に頼まれようが、自分の息子やろうがようせん。一体どんな子なんやろ、と、楽しみやったんやけどな。正直、覇気が無さ過ぎて拍子抜けしたわ。ま、ええわ。それでも自分は、他人にあんなけ言わすんや。その力、見せてみ。自分雇うんは、誰や知らん、あの人を信じるからや。しっかりやるんやで。あの人にちゃんとお礼言うんやで」
 
「はい! 頑張ります!」
 
涙を堪えながら、蚊ぐらいは殺せるような、デカい声で返事した。
人への感謝で泣けたのは初めてだった。
 
「コーチはああでも言わんと、ウン、て言わんやろ、と思いましてね。スミダ部長、雇うから、と、電話くれましたよ。良かったですね。頑張って下さいね。あ、スミダ部長に伝えたコトは僕の本心ですよ」
 
トウケさんは照れ臭そうに話してくれた。
今まで感じたコトのないヤル気が漲った。成果もすぐに出た。営業所の販売員で売上1位になったし、新発売の最上位アンプ(当時350,000円)の第1号はオレが売ったものだった。
スミダ部長もコテラさんも、成果を出すたびに喜んでくれて、働く日も給料も徐々に増やしてくれた。最終は、フルタイム・日当10,500円・歩合1%、にまで、してもらった。
 
他人に支えられていることを、心と体と頭で感じた。
オレが立ち直れたのは、トウケさんとスミダさん・コテラさんのおかげだ。それぞれ親密度も接点も異なるが間違いない。
 
オレは、20年以上前のあの経験で「社会は他人同士が支え合って成り立っている」のだと知った。大なり小なり、直接的にせよ間接的にせよ、誰もが誰かのおかげさまなのだろう。
「おかげさま」は社交辞令じゃない。真理なのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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