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音痴が2年間ボイストレーニングに通った結果


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:日下秀之(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
僕は歌唱力向上のボイストレーニング、略してボイトレに2年と3ヶ月通っている。
そしてこの期間ずっと、歌が上手くならずに悩んできた。
 
2年前、失恋をした自分は頭がおかしくなった。
「歌が上手くなれば振り向いてもらえるはず」という、イカれたロジックでボイトレを始めたのだ。
恋は人間の論理的思考力を破壊する。
 
昔からカラオケは大の苦手。
高い音が出る曲を歌うと、あっという間に喉が痛くなってしまう。
カラオケでどんな曲も気持ちよく歌い上げる人に憧れていた。
 
自分にとって「歌がうまい人=かっこいい人」だったのだ。
 
調べてみると、家の近くにクチコミ評価の高いスクールを見つけた。
 
早速申し込んだ体験レッスンは新鮮だった。
教えてもらった発声を試すと、今まで到底届かなかった音域があっさり出せた。
説明もわかりやすくて論理的。それでいて熱い気持ちを持った先生だった。
 
その場で即決。毎週木曜日の夜、僕と先生の個人レッスンが始まった。
 
毎週、発声練習と実際の曲での歌唱練習を繰り返し行なう。
 
レッスンの中では少しずつ上手くなっているのを実感できたが、実際カラオケに行くといまいち実感がない。
曲のリズムに引っ張られ、練習通りの発声ができなくなってしまうのだ。
 
その後もめげずに通い続けるが、伸び悩む時期が続いた。
 
上手くなってると先生は言ってくれる。
けれど先生のお手本や、頭で思い描く理想に全く近づいている感じがしない。
 
その後コロナでカラオケが閉鎖されてしまい、実践の場がないまま数ヶ月が経った。
 
3月、コロナが一時終息し、友人と久しぶりにカラオケに行った。
気づけばレッスン開始から1年半が経っていた。
 
カラオケは久しぶりだけどこれだけ練習しているのだもの、上手くなっているはず!
そう信じて臨んだ結果は散々だった。
 
練習でできたことが、全くできない。
今まで歌えていた曲すら、歌い方がわからなくなってしまった。
 
後で撮影した動画を見れば、ただの音痴な人が映っていた。
苦しそうに高音を捻り出していた。
 
ボイトレなんぞ習ったことのない友人はめちゃくちゃ上手かった。
 
やっぱり音楽というものは、才能が大半を占めるんだ。
そして自分には致命的に才能が無いんじゃないか。
 
そんな疑いを持ちながらレッスンに通い続ける。
 
今年の10月。彼女が妻になってから初めての誕生日が控えていた。
レッスン開始からちょうど2年だ。
 
誕生日プレゼントに歌を送ることにした。
ヒットした恋愛ソングを7曲。ちょっとしたアルバムだ。
 
カラオケもデルタ株のおかげで再度閉鎖され、家で録ろうにも妻は在宅勤務ばかり。
妻にバレないよう、会社で防音の効いた部屋を借り、夜な夜な録音に励んだ。
 
録り直しは100 回を優に越えた。
音源編集も勉強し、ミックスと言われる音源の調整にも励んだ。
 
必死で録音とミックスを繰り返して完成したアルバムは、マジで下手くそだった。
 
2年ボイトレに通って、100回録音して、全力でミックスして、このザマか。
自分の音楽に対する才能のなさに打ちひしがれる。
 
妻からはひとしきり喜んでくれた後に「まだまだやな」とコメントを頂いた。
 
「心意気が素晴らしい」
アルバムを聴いて、涙ぐみながら褒めてくれた先生は、歌のクオリティには言及しなかった。
きっと優しさだったのだと思う。
 
その直後、会社の同僚がアカペラを披露しているのを見た。
めちゃくちゃうまかった。
後で聞いたら、一度もトレーニングは受けていないと言われた。
 
いよいよ嫌になってきた。
大体皆そうなのだ。
歌がうまい友人たちは皆、ボイトレなんて通っていない。
ナチュラルボーン歌うま星人ばっかりだ。
 
歌がうまい人は、結局才能だ。
 
先生も「日下さんは受講生の中でもめちゃくちゃ頑張ってるからもっと上手くしたい!」と叱咤激励とともにレッスンに励んでくれるが、自分の中で限界は近かった。
 
最後にもうひと頑張りして、ダメだったらやめよう。
 
「コミット度合いを上げます!」と先生に宣言して自主練の量を増やした。
先生もさらに気合が入り、時に怒鳴られながら、時に褒められながら練習に励んだ。
 
レッスンのたびに上手くなっている、ような気がした。
声の質が変わってきた、ような気がした。
 
そして2ヶ月が経った。
 
コロナも再度落ちついてきたので、一人カラオケに行くことにした。
この2ヶ月今まで以上に練習した。これでダメならもう諦めよう。
 
……又しても結果は散々だった。
 
歌い出した瞬間に理想と違う歌い方をしてしまっているのがわかる。
なのに、修正できない。
 
イライラして、悔しくて、習った発声を無視して1時間思いっきり歌い続けた。
声が出なくなった。
 
 
その3日後。
年末の帰省で久しく会っていなかった友人と集まる機会があった。
その場のノリでカラオケに行くことになった。
 
不安しかなかった。
 
ボイトレに通っていることは公言している。
周囲からは「歌がうまい人」と期待されているに違いない。
 
部屋に入った途端、後輩が「日下さんの歌が聞きたいなー」とワクワクした眼差しで選曲を急かしてくる。
 
正直道中から選曲を必死に考えていたので既に曲は決まっていた。
秦基博の「アイ」だ。
 
課題曲としてレッスンの中で何度も歌った。
レッスンで初めて「あれ? 上手くなっているかも!」と成功体験をくれた思い出の曲だ。
 
怖がりながら歌い始める。
 
……ああ、やっぱりだめだ。
 
細かい音程がずれているし、発声の切り替えが目立ちすぎだ。
息も出しすぎで、息継ぎのタイミングがおかしい。
しゃくりあげるような歌い方の癖が出ている。
この癖を修正しようと教室で何度も練習しているのに。
 
自分にがっかりしながら、1コーラスを歌い終わる。
 
その途端、一緒にいた人が皆「すごい! 上手くなってる!」と囃し立ててきた。
 
反応を見るにどうやらお世辞ではなく、本当に上手いらしい。
 
不思議に思いながらまた数曲歌ってみる。
その度に、僕が憧れていた「歌の上手い人」に対する反応が返ってくる。
 
……これは、どうやら、僕は歌が上手くなったらしい。
 
その時気がついた。
 
いつの間にか、自分に対して出来ないところばかり見る癖がついてしまっていたのだ。
 
もちろんレッスンでは「出来ていないところを出来るように」が基本姿勢だ。
それは、あくまで高みを目指してのこと。自分はそれを勘違いしてしまった。
 
この前のヒトカラではもはや「できない発見機」と化していた。
自分が下手だと思った歌は、他人から見ると上手い歌だった。
 
自分ではできないできないと思っていたけど、実はちゃんと前に進んでいたのだ。
 
来週の木曜日、またレッスンにいこう。
今まででとは一味違う、小さな自信を持って。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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