見知らぬ街への2年ぶりの帰省で知った実家の正体
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記事:ねむりじぞう(ライティング・ライブ大阪会場)
「じゃあまたね!」
空港に見送りに来てくれた母と兄に手を振って、私は搭乗口へと歩き始めた……。
新型コロナの影響で、おととし以降ずっと帰省できなかった方は多いのではないでしょうか?
私もその一人でした。
この年末、2年ぶりに実家へ帰り、母や兄の夫婦と久しぶりにゆっくりと年末年始を過ごすことができました。
今日は1月2日。実家から大阪へ戻るため、私は今、九州のとある空港で、搭乗口の前にあるベンチシートに座って搭乗開始のアナウンスを待っています。
実家。帰省。
この言葉を思い浮かべると、私は何となく切ない気持ちになります。
実家を出て間もない20代後半の頃は、「帰省するのめんどくさいな」なんて考えたこともありました。
「顔洗いなさいよ!」とか、「歯磨いた?」などといちいち言ってくる母に、「子どもじゃないんだから、そんなこと言われなくたってちゃんとやるよっ!」とついイライラしてしまったものです。
しかしその一方で、子供の頃から20年以上を過ごした家ですから、やっぱり横浜の実家へ帰ると「帰ってきたなー」感があってホッとしました。
ですから、大阪で一人暮らしを始めた後は、結婚した後も、20年間以上お盆と年末年始の連休に、私は帰省を欠かしたことはありませんでした……。
四年前に父が亡くなり、横浜の実家は母一人になりました。
私は現在49歳、大阪で妻と二人。兄の家族は九州で暮らしています。幸いにも母はまだ自立生活ができる状態でしたので、月に1度くらい私が横浜に行けば実家に住み続けることも可能でした。しかし、このまま一人で暮らしていいものか? 本当にそれが幸せなのだろうか? 兄とも相談を重ね、もちろん母ともたくさん話し合いました。選択肢は本当にいろいろとありましたが、一つの結論として、母が兄のいる九州の町を気に入ってくれるのなら、九州に移住するのがよいのではないか。という判断に至りました。
兄のところへ行けば、毎日孫たちに会うことができます。母にとっても、孫たちにとっても、そして兄の夫婦にとってもメリットが大きいだろうというのが、一番の理由でした。
そうと決まればあとは行動あるのみです! その年の年末、私は母を連れて兄のいる九州へ行き、年末年始を過ごしながら、新しい土地の住み心地を母に確認してもらいました。私の移動は、(関西→関東→九州)×2、往復2,800Kmを超える大移動となりました。
幸いにも母は、兄の住む町を気に入ってくれたようで、その年の3月には九州へ移住し、兄の住むマンションの別の部屋を借りて新生活を始めました。
その年、2019年の暮れ、私は初めて九州への帰省をしました。
正直、帰省というよりも旅行気分でした。
ところが母の家に着いて、「おかえり~!」という母の声と笑顔を見て、「九州に移住を決断してよかった!!」と思うと同時に、「実家に帰ってきたぞ!」という気持ちが一気に沸き起こってきたのです! 家に入っても、懐かしいじゅうたんや家具、食器などがたくさんありました。どれも子供の頃から親しみがあるものばかり! 横浜から九州にワープしたことなど忘れるほどでした。
「横浜」は確かに私が生まれ育った場所であり、「ふるさと」ではあるけれども、もはや「実家がある場所」ではなくなってしまった。「実家」は紛れもなく「母がいる家」であり「一緒に過ごした愛着のある物品に溢れた場所」なのだ。
私は、この時初めてこのことに気がついたのです。
今後、九州への帰省を繰り返すことで私の「ふるさと」は一つ増えることになるでしょう。しかし、「実家」と呼べる場所はいつでも“たったひとつ”なのです。だからこそかけがえのない場所であり、年に何度も帰りたくなる場所なのでしょう……。
そういえば3か月ほど前、私の家の向かいに住む老夫婦が引越しの挨拶に来てくれたことがありました。
その家は奥様が生まれ育った場所。70年以上住み続けた場所で、両隣に住むのはその奥様の兄弟です。裏の畑は昔は広大な田んぼだったそうです。
そんな思い入れのある「ふるさと」を出るというのはどういう気持ちなんだろう……。
そんなことを思いながら、思い出話をしてお別れをしました。
その時には引越す理由を聞き出すようなことはしませんでしたが、今なら何となく想像はできます。ご夫婦の間ではもちろん、お子さんたちとも何度も話し合いを重ねて、お子さんの住む近くへ引越しをすることを決断されたのだろう、と……。
今回の帰省では、母や兄の一家と一緒に百人一首の絵札を使う昔ながらのカードゲーム“坊主めくり”や“ババ抜き”をして久しぶりにみんなで大笑いして楽しい時間を過ごすことができました。ただ、2年ぶりに会った母は少しですが物忘れが多くなってきたように感じました。今後もできるだけ自立した生活を送ってほしいと願ってはいるのですが、兄の一家ばかりに負担を強いることもできません。いずれはサービス付き高齢者向け住宅(いわゆる、サ高住)等に入居することも視野に入れて話をしておかなければならないかなとも思ったりしています。
結論を出すのはもう少し先になるでしょう。その時には大部分の家具は処分せざるを得ないだろうと思います。しかし一つだけ決めたことがあります。
万が一、その時が来たら、私は一つでもいい、ティーカップ一つでも構わないから、私たち家族の実家にあった愛着のある「何か」を私の住む家に迎え入れたい。
大事なことは家族でしっかり時間をかけて話し合って慎重に決めよう! そんな当たり前のことの大切さを再認識した今回の帰省ももうすぐ終わります。
いろいろな思いを胸に人びとはシートベルトを締める。飛行機は、今ゆっくりと動き始めた。
「さあ、これでもう少し頑張れる。あと半年、頑張ろう!」
***
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