メディアグランプリ

ここは、大人のトイザらス。田舎暮らしはじめました。


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記事:玉置侑里子(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
来年で30歳、女、独身。
先月、名古屋から仕事の都合で、海と山に囲まれた三重県のはじっこ、熊野・御浜町へ移住してきた。
 
自宅から最寄りのコンビニまでは、徒歩約2時間。最寄り駅からの電車は2時間に1本。真夜中になると、たまに野生のサルが騒ぐ声で目が覚める。
 
そんな場所に引っ越してきて一ヵ月、思うことがある。
ここでの暮らしは、例えるならば、小学校の冬休みにお年玉を握りしめて連れて行ってもらったおもちゃの殿堂「トイザらス」みたいなものだ。
 
 
トイザらス。それは、広大な敷地の中に、でっかいぬいぐるみも、セーラームーンの仮装セットも変身アイテムも、レゴブロックもシルバニアファミリーも、なにからなにまでありとあらゆる遊び道具が揃う場所。それは私にとってまさに、未知のワクワクとキラキラが詰まった楽園。
 
そんな楽園の光景に目を輝かせながら、魅力的なアイテムのひとつひとつを手に取っては戻し、思う存分夢の世界に没頭する。
 
最高すぎる。ここは天国だ。
こんなにたくさんあるのに、とてもじゃないけどひとつなんて選べない。あれもこれも触れてみたい、全部持って帰りたい。お母さん、待って。私まだ帰りたくないよ。
 
「ああ、ここが、私のお家だったらどんなにいいだろう……」
 
 
 
 
 
 
 
朝だ。今日も1日がはじまった。
 
山の端から昇ってくるまぶしい朝日を体いっぱいに浴びながら、広大な裏山の森に、迷路のように巡らされた小道を散歩する。
 
落ち葉をサクサクと踏んで歩いていると、足元に小さな紫色の花が咲いている。木立の奥に赤い木の実をつけた枝も見え、はさみでひと枝切り落とす。
 
キッチンに戻り、花瓶の水をとりかえて、摘んできた草花を活けたら、コップの水を一杯飲む。おいしい。
小鍋にも水を満たし、昨日買ってきた、シャキシャキのほうれん草を刻んで入れる。
蓋を開けて味噌を溶けば、キッチンがいい匂いの湯気で白く霞む。
 
 
朝ごはんを食べて着替えたら、車で家を出て仕事に向かう。
時速60キロ。ほとんど信号のないワインディングロードが心地いい。
夜型だった生活が、こちらに住んでからすっかり早起きになった。朝が来るのが楽しみなのだ。
 
「わあ、綺麗」
家から10分走ると、道の突き当たりに広大な海が見えて、思わず独り言がこぼれる。毎日見ている景色でも、いつも表情が違うからおもしろくて、夢中になって眺めてしまう。
 
車を停めて、出勤時間まで少し海岸を散歩する。今朝の海は、太陽がキラキラと光って穏やかだ。
締め切りのプレッシャーとか、遠距離の想い人のLINE既読無視とか、そのくらいの小さな心配事やモヤモヤは、この5分間で、95パーセントが波の音に洗われてどこかへ消え去ってしまう。
 
 
海の見えるオフィスでの仕事が終わったら、夕暮れの山々を横目に食材の買い物に立ち寄る。
 
「なんだ? これ、聞いたことない名前だ」
スーパーの産直コーナーには見慣れない野菜、初めて見る種類の魚が並ぶ。どれも、この土地の海と畑で獲れたものだ。
この土地の人は、やたらと頰がツヤツヤしている。それはきっと、食材の一つ一つが強い生命力を持っているから。こんなのを日々食べて生きていたら、そりゃ健康になるだろうな。
 
どの食材も、焼いて塩と胡麻油をかけるだけでだいたいおいしい。今日は何を買って帰ろうかと、仕事の合間につい考えてしまう。料理の時間が楽しみで、誰に見せるわけでもないのに、ついつい割烹着まで買ってしまった。
 
 
夕食のあとは、車で山道を20分走り、源泉掛け流しの日帰り温泉へゆく。茶色く濃くて熱い湯に、体がほどける。勢いよく流れていく水音と、山の木々の間を通り抜けていく風の音に、心まで全て洗われてゆく。
湯上がりに売店で雪見だいふくを買い、かじりつきながら夜空を眺める。あまりに星の光が明るくて、数が多い。ぼんやりと白い天の川を、肉眼でも見つけることができた。
 
 
「ああ、今日も楽しかったな」
鼻歌まじりの夜道ドライブを楽しんで家に帰り、湯冷めしないうちにふとんに入る。
明日はなにして遊ぼうか。どんなおいしいものを食べようか。
そう考えているうちに、いつのまにか眠りの底へ落ちていく。
 
 
 
 
そんな田舎暮らし。
こちらへ来て1ヶ月、毎日好きなものに囲まれて好きなことをしている。それでもまだまだ、ワクワクもやりたいことも尽きない。
 
焚き火も釣りも、海水浴も山歩きも、家庭菜園も。広すぎる家の裏山の探検マップ作りも。
友達を呼んでBBQも、お祭りも、田植えの手伝いにも挑戦したい。
 
次から次へとやりたいことがありすぎて、時間が足りない。
子供の頃、トイザらスに連れて行ってもらった時と同じ。トキメキが止まらない。
 
 
「ああ、この楽園が私のお家だったらいいのに……」
あの時心の中で呟いていた夢。
 
 
「明日の朝起きても、疲れて眠るまでまた1日中、大好きなことをして遊んで暮らしたい……」
 
その夢はどうやら、25年越しに叶ってしまったようだ。
 
 
そう、私の田舎暮らしは、大人のトイザらス暮らし。
 
25年前の私へ。
今、楽園に住んでいるよ。
 
めちゃくちゃ幸せです。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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