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メディアグランプリ

お酢と煮干しと、ラブレター


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤くみ(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「おめでとうございます!」
そう手渡された花束は、今までに見たどんな
花束よりも特別だった。
この最高の贈り物を、私は忘れないだろう。
 
その花束を見たのは、あるパーティーの会場
だった。犬のキャラクターの、60周年記念
パーティーである。
社会人になったばかりの私にとっては、
華やかすぎて落ち着かなかった。
 
「世界中で愛され続ける我らのキャラクターと、
その産みの親であるデザイナーをたたえ、
花束の贈呈を行います」
 
その合図とともに運ばれてきたのは、
その場にふさわしい、豪華な花束だった。
 
「おめでとうございます!」
花束がデザイナーへと手渡され、
拍手が鳴り響いた。
その瞬間、デザイナーの表情は「驚き」と「喜び」
であふれた。
 
こんな表情にさせるなんて、
一体どんな花束なの!?
 
そう思いながら、花束をジッと見つめた。
それは一見、普通の花束と変わらなかった。
しかしよく見ると、花を寄せ集めて、
「犬のキャラクターの顔」を表現している
ではないか。
 
こんな花束、今までに見たことがない。
 
送り手が普通の花束ではなく、この特別な花束を
渡したのは、特別な思いがあったからだろう。
送り手のキャラクターへの愛情と、デザイナーへの
敬意を感じ、心が熱くなった。私はその気持ちを
表現するように、力強く拍手した。
 
会場の拍手は、なかなか鳴り止まなかった。
私のように、大勢の人の心を熱くしたから
かもしれない。
 
最高の贈り物って、きっと、こういうことだなぁ。
この日のために、この人のためだけに選ばれた
特別なもの。
 
 
こんなことを思いながら、過去にもらった贈り物に
ついて考えていた。
 
私には、忘れられないものが2つあった。
それが、お酢と煮干しと、ラブレター。
最高の贈り物と、最低の贈り物だった。
 
まずは、ラブレター。
それは、高校時代の恋人からの贈り物だ。
ラブレターをもらったのは、私の誕生日だった。
彼は、私のためにサプライズデートを
企画していた。
 
そのデートが終盤に差しかかった頃、
私はラブレターを受け取った。
観覧車の中で、夜景を見ながら渡された
ラブレター。
 
なんてステキなシチュエーションなんだろう。
 
その時の私にとって、それは特別なラブレター
だった。最高の贈り物。
 
デートの帰り道、私はうっとりしながら
ラブレターを開いた。
 
「実は……
最初は好きじゃありませんでした」
 
その手紙は、衝撃的な告白から始まった。
さらに、私の嫌いなところばかりを書き連ねた
手紙。それは、ラブレターとは言い難く、
忘れられない苦い思い出となった。
 
あの手紙が本当の意味で、私のために用意された
ものだったら……。きっと、最高の贈り物に
なっていただろう。
 
あの贈り物は、私のためではなく、彼自身のために
用意された贈り物だった。もし、私を思う気持ちが
あったなら、手紙を渡すタイミングは違って
いたはずだ。
 
誕生日ではなかったと思うし、夜景の見える観覧車
は選ばなかっただろう。そして、もっと真剣に
話すべき内容だったに違いない。
忘れられない最低の贈り物。
 
私が忘れられない、もう一つの贈り物は、
お酢と煮干しだ。これは、学生時代の友人に、
もらったものだった。
 
念のために断っておくが、私の好物は、
お酢でも煮干しでもない。
むしろ、お酢も煮干しも苦手。
もはや、これは嫌がらせとも受け取れる。
その贈り物は、ある日、突然渡された。
 
「はい、これあげる」
彼女がスーパーの袋を渡してきた。
一体、何が入っているのか。
ジュースとお菓子でも買ってきてくれたのかな。
 
そんな風に思いながら中を覗いてみると、
入っていたのは、お酢と煮干しだった。
最悪の組み合わせ。
 
ジュース=お酢? お菓子=煮干し?
ってこと???
 
私は、彼女のセンスを疑った。お酢も煮干しも、
体に良いのは分かる。でも、私にとって
お酢≠ジュース、煮干し≠お菓子 だ。
 
そう思いながら、半信半疑で聞いてみた。
「ありがとう。お酢と煮干し、好きなの?」
「いや、好きじゃないよ」
彼女はそう答えた。
 
え? それなら、なぜ、こんなものを
買ってくるのか……。
 
不思議そうな顔をする私に、彼女はこう続けた。
「これは、あなたのために買ったんだよ。
あなたの足が少しでも良くなるように
と思って……」
 
そこまで聞いて、ようやく理由が分かった。
この頃、私は足を骨折していた。人生で初めての
骨折。でも、思ったより痛みもなく、大したこと
ではないと甘くみていた。慣れない車いすや
松葉杖を使うことは、もちろん不便だったが、
本当の大変さはそんなことではなかった。
体の不自由さは、徐々に私の心を蝕んでいった。
 
扉は開けられないし、荷物も自分で持てない。
移動するにも時間がかかる。その度に、
仲の良い彼女に迷惑をかけていた。
迷惑そうな顔なんて微塵も見せずに、
当たり前のように助けてくれる彼女。
彼女の存在は、すごく有り難かった。
 
でも、今まで当たり前に出来たことも出来ず、
彼女に迷惑をかけ続ける毎日。
しかも、一日に何度も何度も同じことを
してもらわないといけない。
 
何かやりたいことがあっても、迷惑をかけるのが
嫌で我慢することも増えた。
知らないうちに「ありがとう」ではなく、
「ごめんね」という回数が増えていた。
 
私の心は完全に弱り切っていた。いやいや、
骨折くらいで大袈裟だと思うだろう。
私もそう思っていた。
 
だから、心が弱っていることなんて
認めたくなかった。でも、どうしても
ネガティブな方へ気持ちが引っ張られてしまう。
いつからか、自分の存在自体が迷惑なんじゃないか
とさえ思うほどになってしまったのだ。
 
そんな時に渡された贈り物だった。
「お酢と煮干しを一緒に食べると、早く回復する
らしいから、好きじゃなくても、毎日食べてね」
この言葉を聞いた瞬間、ワッと涙が溢れ出した。
 
あー、私は、なんてバカなんだろう。
迷惑だと思ってるんじゃないかって疑うなんて。
 
この贈り物のおかげで、私の心は一瞬で
軽くなった。一見、センスのない贈り物も、
この日のために、私のためだけに選ばれた、
最高の贈り物だった。
 
でも、ちょっと待ってほしい。
お酢と煮干しの贈り物を忘れられないのは分かる。
だって、自分がもらったものだから。
 
じゃあ、なぜ、自分がもらってもいない「花束」を
忘れられないのか。
なぜだろう……少し考えると、私の中で、1つの
考えが浮かんだ。
 
最高の贈り物には、大勢の人の心を熱くする力が
あるからではないか。
 
だとしたら、そのことを書かなければ!
 
私がもらった最高の贈り物。
これは、私だけの忘れられない思い出。
でも、それは今日まで。
 
私は今、最高の贈り物について書いている。
そして、それをみんなに届けたい。
あのパーティーで見た「花束」のように。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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