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校長先生の愛情

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石井亜寿美(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「校長が、陽君のお母さんとお話したいと言っております。」
週に何度も来る、担任からの電話。でも、校長先生からの呼び出しは初めてだ。息子よ、今度は何をしでかしたんだ、とうんざりする。
 
三兄弟の末っ子は、現在小学5年生、ADHDだ。小さいことから大きなことまで、いろいろと問題を起こしてくれる。4年次の担任が11月に産休に入り、その後副校長、産休代行の女性の先生、と担任が変わった。若い産休代行の先生が担任になったあたりから、授業中に出歩いて友達に話しかけたりするようになったらしい。
 
授業が成り立たないから、校長先生が校長室で預かってくれる時が一日に何度もあった。3月に担任からその話を聞いた後、授業で座っていられない理由を陽に尋ねたところ、もぞもぞするとの答えだった。担任も変わって落ち着かないんだ、そう思った。
 
新しい学年が始まって環境も変わり、陽は頑張って教室で授業を受けることが出来るようになった。授業中に大きな声で友人に話しかけることはあっても、大きな進歩だ。校長室に行くことも随分少なくなった。
 
陽は人のために動くことが大好きで、行事があると率先してリーダーをやりたがる。勉強はあまりできないが、身体を動かすのが好き。自分が活躍できる場を、いつも探している。行事があると、俄然やる気になってみんなを牽引できる。行事が終わると、燃え尽き症候群のようになって、勉強もやる気がなくなってしまう。
 
5年の2学期に入り、運動会が終わった後あたりからまた校長室で過ごす時間が増えてきた。学習発表会の後、より増えた。学校でイライラすることが多くなり、友達を殴ったり殴りたいと発言したりすることが増えた。イライラする気持ちを抑えるために、校長室へ行く。
 
11月に入ると一週間に一度は担任から連絡があり、陽の様子が報告される。それを受けて、家族でいろいろ話をする。どんな気持ちなのか、どうしたいのか、どうすればいいのかなどいろいろ。この話し合いが陽のストレスになっていることを自覚しているが、学校という社会で生きていくには仕方ない。自分の気持ちとみんなの気持ちに、折り合いをつけられるようにならなければいけないのだ。
 
自分の無力さを痛感する日々。親ができることなんて、本当に限られている。話を聞く、忘れ物がないかの確認をするなど、小さな事ばかり。そんな時の、校長先生からの呼び出し。学校の先生方やクラスメイトに迷惑をかけているという自覚がある私には、不安しかない。迷惑になるなら学校に登校しない、という覚悟を持って、学校へ向かった。
 
校長先生は大変気さくな方で、四年前まではこの小学校の副校長として勤務していた。それが昨年度、校長として戻ってこられたのだ。校長先生との話は、最近の陽の校長室での様子、陽の課題の確認、声掛けの工夫など具体的なこと。子どもがどうしたいかが一番大切なことで、それを応援するために大人がいる、一緒に頑張りましょうと。
 
一通りの情報共有が終わった後、校長先生が言った。「実は、今日お母さんに来てもらったのは、お母さんが心配だったからなんです。お母さんが参ってしまったら、それが一番良くないことだから。お母さんの笑顔が一番大切だから。」
 
「ありがとうございます」ようやく言った。私は、大変な気持ちを分かってほしかったんだ。分かってもらえなくて、寂しかったんだ。心配して声をかけてくれる人がいて、初めて認識した自分の気持ち。涙が出た。ありがたかった。癒されて励まされた。
 
子育て中の親は、とかく自分のことを後回しにしがちだ。目の前のことだけで、精一杯。一人の時間なんてほとんどないし、ましてや内観する余裕なんてない。限界になるまでため込んで、ようやく苦しさに気づく。
 
幸いにも、私はその前に声をかけてもらった。この校長先生からの言葉で、どんなに救われたかを表現することができない。
 
私だけじゃなく、ほかの皆さんもこんな風に声をかけてもらったら、励まされるのではないか。だから、たくさんの子育てしているお父さんお母さんに校長先生の愛情をお裾分けしたい。
 
子育てしにくい今の世の中で、どれが正解かわからなくて、もがきながら頑張っているお父さんお母さん。
いつも頑張ってくれて、ありがとう。
子どものために、って気持ちはとても大事だけど。
お父さんお母さんの気持ちが一番大事。
お父さんお母さんが笑顔だったら、子どもも笑顔になるよ。
大変だったら、「助けて」って言っていいんだよ。
励ましあえたら、楽になるよ。
いつも頑張ってくれて、ありがとう。
 
 
 
 
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2022-01-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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