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お正月の神様と、善意について

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:夏川ゆき(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
ある平日の夕方。リモートワークに利用しているコワーキングスペースで仕事を済ませ、いざ帰ろうと駐車場に止めていた車を発進させると、ハンドル操作に違和感を感じた。
「運転ってこんな感じだっけな」と違和感の正体がつかめないまま出口ゲートを抜け、そのまま公道を走り出したものの、なんとなく不安は募るばかり。その時、ハンドルがうっすら右回りに曲がってしまうことに気がついた。そして車体がガタガタと揺れている。
その時何故だか、以前どハマりしていた韓国ドラマ「愛の不時着」で主人公のジョンヒョクがセリの車のボンネットを叩いて、「冬は猫がボンネットで寒さをしのいでるから、こうして猫が入っていないことを確認してからエンジンをかけるんだよ」と話しているシーンが頭をよぎり、
「あ、これはどこかに猫を挟んだまま運転してしまっているかもしれない……」
と直感し青ざめた。すぐさま車を路肩にとめて、その日たまたま保育園のお迎え担当だった夫にLINEし、「タイヤがおかしい感じがするのでトヨタに寄ってから帰るね!」と伝えた。しかし、猫が挟まっているかもしれないタイヤを一人で覗く勇気がどうしても出なかった。
夫からはすぐに「了解!気をつけて」と連絡がきた。
現在地から一番近いトヨタのディーラーを検索すると、どうやら車で5分ほどの場所にあるようで、すぐに急いで向かおうとしたのだが、ハンドルが曲がって異常なガタガタ音を響かせる車はまさに、ムチウチで足の骨が骨折している人に無理やり病院まで、自力で走ってもらっているような、いたたまれない気持ちになり、これは一刻を争うレベル、人間でいうと「救急車」、車なら=「JAF」だと、思いついたところで突然視界にシルバーと赤のマークが飛び込んできた。
に、日産…!
うちの車はトヨタ・・・阪神のユニフォームでジャイアンツの応援席に乗り込むような、気まずさと不安感を感じながらも、ワケもわからず思わず飛び込んでいた。
時刻は18:00前。おそらく閉店作業中だったオフィスからミルクティ色の明るい髪色の女性が小走りで走り寄ってくれた。
「あっ、あの、トヨタの車なんですが、緊急事態で、タイヤの調子が悪くて……」と、聞かれる前に言い訳をはじめる必死な私に、優しそうな、そして気の毒そうな表情で「あぁ……」と彼女が指差すわたしのパッソの右前輪はペシャペシャに潰れていた。
ずっと感じていた違和感の正体、それはパンクだった。猫じゃなくてほんとうによかった。
しかしパンクなど経験したことがない。
どのように対応していいかわからず、とりあえず応急処置でもいいのでここ日産で対応してもらえないかと厚かましくも尋ねると、お姉さんは「大丈夫だと思いますよ」と言いながらお店の裏手の整備スペースに小走りで向かい、すぐに整備士のお兄さんを連れて帰ってきた。
「あの、トヨタの車なんですけど、パンクしまったようで・・トヨタに行くべきなんですけど……閉店後にすみません……」と慌てる私に対して、よく火に焼けて週末は湘南の海沿いの公園で子供を遊ばせてそうな爽やかな整備士のお兄さんは、「それはうちは全く問題ありませんよ。スペアタイヤがお客さんの車に乗ってるか確認してもいいですか?」と手際よく、私の車の後部座席を調べた後、あれよあれよという間に応急処置を済ませてくれた。
最後のお見送りまで、彼らは本当に親切で頼りになり、恐ろしく感じがよかった。
パンクの原因ははっきりとはわからなかったがおそらく、空気圧を調べたらかなり下がっていたことが原因の可能性が高いと、爽やかな整備士さんに教えてもらった。
無事に家に帰宅し、夫に一部始終を話し、「閉店後に他社のパンクまで直してくれるなんて本当にいい会社。次買い換えるときはもう日産の車一択だよね」なんて話すと、「まあ、閉店後に対応してくれるのは、ありがたいし、本当に助かったけど、100%善意かっていうと、向こうも商売だし、閉店後に対応するならそれなりの理由があったんじゃないかな」と、人の感動話にじょぼじょぼと水を刺してくる。
しかし夫のいうことも確かに一理ある。
タイヤ交換・タイヤ購入(検討して結局4本購入させていただいた)の利益が高いから仕方なく閉店後でも対応してくれたのかもしれないし、トヨタから日産への乗り換え見込み顧客として対応してくれた可能性ももちろんあるだろう。
ただ、何か商売的な思惑があったところで、あの日パンクした車で公道をドタンバタンと真っ青な顔で走っていた私を彼らが救っていたことには変わりないのだ。
私の気持ちを察したのか、「いや、まぁ日産が親切に対応してくれたことに変わりはないよね。ついつい人の善意を疑ってしまうのよね」と夫が笑った。
確かに善意ってなんだろうと考えながら、3年前、人生で初めて参加したボランティアを思い出した。当時住んでいた街で、大変な大雨が降り、街の至る所が冠水し、数千人規模の被災者が発生した災害だった。
なぜこのときボランティアに参加したのかと振り返ってみると、もちろんニュースで報道される被災地域の映像が恐ろしく、すぐ近くに住む人たちが苦しんででいるのを助けたかった。しかし理由は今思い返せばそれだけではなかった。まず。当時結婚はしていたものの、子供もおらず時間を持て余していて暇だったことがある。そして、その少し前に見て、これまたどハマりした海外ドラマ『デスパレートな妻たち』の登場人物が、「社会的な慈善活動に参加して初めて人は成熟する」のような発言をしていていて、それに多大な影響を受けていて、ボランティアは自分の教養を深める行為のように、とても恥ずかしいが、正直にいえば当時は感じていた。
それでも私は、ボランティアに参加して困っている人を少しだけ助けることができた気がするし、泣きながらありがとうと伝えてくれたおばあちゃんもいた。終わったあとの達成感は、間違いなく人生で一番だった。
そう考えると、「善意」とは、宅急便で例えると「荷物」の部分のような気がしてくる。それぞれの「思惑」や「下心」は、「善意」つまり「荷物」を運ぶトラック。つまり、「思惑」や「下心」は単なる善意の動機であり、さらにいうと「思惑」や「下心」がないと荷物は相手に届かないので、これは善意を行動にうつすために必要なものなのではないか、と私は思う。
日産であの日私を救ってくれた彼らの善意は間違いなく私を窮地から救ってくれた。ありがとうございました。
新年早々パンクなんてなんて不運だと思ったが、捨てる神あれば拾う神ありな2022年の幕開けだ。
 
 
 
 
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