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宿題が終わっていないのは母のせいではありません!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:秋田梨沙(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
小学2年の長男に、私は激怒した。
原因は、たった今、彼がランドセルから引っ張り出したプリントだ。前々からその宿題があるのは知っていたし、金曜日の夜から、私は何度も確認したじゃないか。ちゃんと間に合うよう、「時間を考えてやりなさいね」って。Switch片手に生返事ばかりしているから、こうなるのだ。
 
一体、今を何時だと思っている。
日曜日の19時ですけど! 今から夕飯なんですが!
 
漢字ドリルだとか、音読だとか、すぐに終わる宿題であるならば良い。だけど、それはどう見ても1時間以上かかる宿題だった。しかも親の協力が必ず必要なタイプの宿題。
 
「自分のことをお父さん・お母さんに聞いてみよう!」
 
とある。しかも丁寧に、「0歳の頃はどんな子でしたか?」「1歳の頃はどんな子でしたか」と1年刻みで10行ほどの欄が設けてあり、どんなエピソードを書いても良いようになっている。0歳から8歳まで……。
 
これを、今からやれというのですか、息子よ。
怒りで熱のこもったため息が出る。プリントの中身まで確認しておかなかった自分のツメの甘さにもガッカリする。
 
「今からご飯だから、もう、それは後にしなさい」
 
突き放すように言うと、
 
「あーあ、寝るのが遅くなっちゃうなー」
 
などと、わざわざ嫌味を言うではないか。面倒臭そうにプリントを机の端に避け、ドッカっと椅子に座る息子。こちらもカチンとくる。
 
「誰のせいでこんな時間になっていると思ってるのよ。だいたい……」
 
小言が洪水のように溢れ出しそうになるのを察知して、空気を読んだ夫が慌てて静止した。家族団欒が、戦争になるのは避けたい。しばし息子と睨み合って、荒々しくお茶碗にご飯をよそった。
 
もう、本当に生意気だ!
 
第一次反抗期と第二次反抗期の間に、中間反抗期というものが存在するらしい。第一次反抗期というのが、2歳ごろの、いわゆる「イヤイヤ期」というもので、第二次反抗期は一般的に思い浮かべる反抗期、思春期の反抗期である。その間の時期、小学校2年生前後の反抗期を「中間反抗期」と呼ぶのだそうだ。確かに、小学校にも慣れてきた頃で、それまでの幼児っぽさが消え、口も達者になってきた。二つの反抗期に比べれば可愛いものだと聞くけれど、まだまだ手がかかるくせに、一丁前のことを言いおって! と思う。そのくせ急に甘えん坊モードに切り替わることもあり、なんだか良いように転がされているような気もしている。
 
「2歳の頃はどうでしたか?」
 
食後、仕方なく怒りを抑えて、共に宿題の撃破に挑む。0歳は生まれた時のことを話せば良いし、3歳は弟が生まれた。大きなイベントがある年は順調に終わるのだが、はて、2歳は何があっただろうか。親としては、イヤイヤで苦労した話は山のようにあるのだけれど、学校で発表する課題である。本人の体裁もあるので、母が気ままに話しても、「それはちょっと……」と言って、なかなか採用されない。時間がないくせに、面倒くさい。自然と、アルバムをめくったり、画像やラインを遡ったりして、ネタになりそうなことを探すことになる。
 
「あった、この年は初めて飛行機に乗ったんだよ! 1週間前にインフルエンザにかかって、どうなることかと……」
ようやく見つけたネタを早速、書くように促すも、テレビに気を取られて聞いていない。ぐいっと顔をこちらに向かせて、もう一度言う。
「だから、『はじめて 飛行機に乗りました。1週間前にインフルエンザ……』」
「……の、り、ま、し、た。え? その次、なんだっけ?」
自分で文章にするつもりがないので、一字一句書き起こし状態である。時間がかかって仕方ない。
「だからぁ! そこの漢字間違ってるし!」
最後は半分、喧嘩になりながら、なんとか宿題を終わらせた。先生お願いだから、家族平和のために、次回は質問項目をある程度絞っておいてください!
 
終了時間は22時。結局、2時間かかった。
 
無事に宿題が終わり、息子も眠った。けれど、それから1時間。私は布団の中で、ずっと思い出を遡っていた。見返せば見返すほど、懐かしい写真がでてくるのである。さっきまで生意気で、バチバチ戦っていた長男も、ぷにぷにでムチムチの写真がたくさん出てくる。
 
「可愛かったなー」
 
袋いっぱいに、どんぐりを集めて、鼻水を垂らしている写真が出てきた。これも、2歳か3歳の時の話だ。私は早く帰りたいから、一緒に集めて早く袋をいっぱいにしてしまおうと思ったのだけれど、私の差し出したどんぐりは形が気に入らないだとか、もっと大きいのがいいのだとか言って、なかなか受け取ってくれなかったのだ。結局、私は諦めて、彼が自分一人で袋をいっぱいにしていくのを待つしかなかった。
 
親子の愛情も、このどんぐりみたいなものかもしれない。
ほれ、これが親からの愛だ、なんだとグイグイ差し出しても、それは彼の欲しい形じゃないのだろう。地面に散らばったどんぐりを、こっそり集めていくのが楽しいのかもしれない。欲しいときに、気に入った形を、欲しい分だけ勝手に拾いたいのだろう。子どもには、それで十分なのだ。
 
頭上にたくさんの実がなっている事には、大人になってから気がつけばいい。今はまだ、地面に落ちている小さなどんぐりを、一つ一つ拾い集めて、その袋を満たしていって欲しい。無理やり渡された愛情じゃなくて、うっかり溢れ出た愛情をこっそり拾っておいて欲しいと思う。
 
今日の宿題でそれは伝わっただろうか? もしかして、「中間反抗期」の今だからこそ、この宿題が出るのだろうか。憎まれ口ばかり叩くけれど、ずっとなんだかくすぐったそうに聞いてくれていた長男。このどんぐりの思い出も、明日の朝、話しておこう。返事は「はいはい」かもしれないけれど、後ろを向いたら、こっそり拾ってくれているのかもしれない。
 
そんなことを想像して、温かい長男をぎゅっとして眠った。
 
 
 
 
***
 
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