東京ナイズされた?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大越桂(ライティング・ゼミ12月コース)
その昔、TVの中でアメカジの金髪ポニーテールの女の子とリーゼントの男の子が明るく踊りながら、派手でキラキラした雰囲気で開けっ広げな会話をする姿をみることがよくありました。そんな雰囲気や生活様式をマネする人、アメリカ留学にいってビッグマウスになってかえってきた人、アメリカ仕込みの音楽やファッションにかぶれた人を「あの人、アメリカナイズされているよね」なんて言ったものです。
私は、それと同じように大学で茨城の日立から東京に出てきて、田舎に帰省するたびに「私は東京ナイズされたかな?」と、確認していたものでした。しかし東京人みたいに雑誌にでてくるこじゃれた恰好で、おしゃれな場所で今風な言葉を覚えてそれなりに見えるはずなのに、私の場合はそうはならないことに気づきました。私は頑固? 茨城弁がなおらない? 田舎の習慣が抜けない? 今思えば、すべてそうであったかもと思います。でもそれだけではなかったと思うのです。
私は大学で東京に暮らすことになってから、神奈川や千葉も含めて都会生活を35年もしてきました。それはもう人生の半分以上です。その間に10回近くの引越しがあり、いろんな場所に住んでその土地を探索し周りの人達と仲良くなり生活するのを楽しむ事を覚えました。それは本当に普通の流れでした。引っ越す理由も様々でしたが、主に仕事場が近い場所への移動が多かったと思います。
それにしても、本当に長い間田舎以外の東京近辺で暮らしていたにも関わらず、私は東京ナイズされなかったのです。
今だから分かるのですが、それは私が東京でよりも田舎での方が生きていく上での大事な事を学んでいたからでした。
うちは父と母、兄と妹と私の3人兄弟、父方の祖母と6人家族でした。祖母がいたので親族みんなが家に集まることが多い家でした。父の兄弟とその子供達で正月は常に20数人が集まり、父の誕生日が1月2日だったので、みんなでお祝いして家に寝泊まりするような家でした。この日は、野菜をたくさんつめたターキーを母が天火でやいて、親父がみんなにそれを切ってとりわけてその後にその骨を煮つめてラーメンのスープにして食べるという決まりがあり、なんでこの日はクリスマスみたいな儀式をするんだといつも思っていました。
沢山のお客様が来た時の私の役割は、食べ物を作る以外の事でした。
前日に、みんなが家に泊まるための布団を山ほど干して、物置きからテーブルをもってきます。次の日、そこに白のテーブルクロスを敷いて、座布団をあちこちから探してきて並べ、お皿とコップを人数の倍以上洗って出してお箸と一緒にならべ、お酒にジュースなどの飲み物を氷で冷やして、母が作った食べ物を運ぶことが私の役割でした。
母にはテーブルに並べる品数は人数分の大皿を用意するというルールがありました。「20人きたら20皿用意するのよ。おやつやデザートも含めてなんでもいいんだから」とおせちに中華やフレンチなど、母は色んな料理を作ってくれました。
とにかく、赤ちゃんからおばあちゃんまで老若男女が揃って、みんながそれぞれお喋りして人間を楽しむ習慣をもらったのが家でした。なかにはそれを面倒だと思っている人もいたかもしれませんが、私にはそれが当たり前の正月の風景でした。
もちろんおしゃべりが上手な人ばかりではありません。誰かがケンカしたり機嫌が悪かったりしてもあたりまえ。しょうがない。ほっとくこともあれば、割って仲裁にはいることもままあり、年長者がなんとかおさめることも多く、年を重ねていくと和を見出す事に気まずさを感じるようになり、それぞれが相手のことを考えられるようになっていきました。自然と社会性が育まれる環境にいたと言えば聞こえがいいのですが、これは大越家の「兄弟は仲良くすべし」という所からくるルールだったのかもしれません。
私が学生時代東京から帰省していたときに、兄貴が麻雀などで遊び歩いていてちっとも家に帰ってこず、「お前は遊び歩いていて、せっかく帰省している妹とコミュニケーションをとらないとは何事か」と兄は父に散々怒られたという話を聞いたのは、最近のことでした。
まあ、それ以外にも理由はあったと思いますが、それを聞いてびっくりしました。おかげさまでみんなよく喋るし、笑うし、食べるし、つまらなそうな誰かがいても他の誰かがその隙間をうめてくれたり、間違ったツッコミにキツイ一言があろうと誰かがそれを救ってくれるのでした。
これが、都会に出ていった時にいつもフラットな自分でいられることにつながっていました。そして、父の言葉が誰よりも影響力があったので、大人になりそれを否定しようにも否定しきれない所に畏怖さえ感じ、同時にいつも敗北感を味わわされるのでした。
人間として勝てないなと思える人が身近にいる事の大切さ。それは私が謙虚になることを確認させられるには十分でした。
自分が好きなことを言って、好きなことをやらせてもらうには、他人がやっていることや自由を認めて応援することでバランスをとる必要がありました。
私にとって、たまに思い出す夏目漱石の言葉があります。
『自分の幸福のために自分の個性を発展して行くと同時に、その自由を他にも与えなければすまん事だと私は信じて疑わないのです』と……
今の年齢になって、もう自分だけの幸福を求めることはありません。
自分が幸せで、周りも幸せかどうかは、何らかの働きかけがあって相手が喜んでくれてはじめてわかります。
都会には、キラキラした環境やイベント、魅力的なものや美味しい食べ物、魅惑的な人間、目をみはる技術、映画や美術館など二つとないものが沢山あります。都会にいれば素敵なものやことを少し足をのばせば簡単に手に入れることができます。
でも今の私が欲しいものは、そういうものではないのです。SNSで好きな人とつながって自分にない経験や情報をもらえるし、損得なしで身近な人とたわいないおしゃべりをすることは楽しいし、今まで培ったものを使って新しい何かにチャレンジできるのは望むところだし、私にとって幸せは場所を問わないのです。
都会へでてから私が得たものは、美しくキラキラしたものや経験ばかりではなかったのですがそれを支えたのは田舎での教えでした。
私が東京ナイズされない理由は、結局そんなところにいきついたのでした。
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