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こぼれたタネのゆくえ


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記事:みっこ(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「あれ? なんでこんな所に、アサガオが
咲いてるんだろう?」
 
小学生の時、我が家の庭に突然アサガオが
咲いた。タネを植えたつもりもないのに、勝手に
咲いていたのだ。おそらく、昨年鉢で育てていた
アサガオから、タネがこぼれ落ちたのだろう。
お世話もしていないのに、一人で咲いたアサガオ
は、なんだか誇らしげでとてもきれいに見えた。
 
 
それから月日は流れ、小学生だった私は社会人
になった。私が就職活動をしていたのは
就職氷河期真っ只中で、就職先はなかなか
決まらなかった。でも、なんとか第一志望の
出版社の内定をゲットした。
私は憧れの会社で働けることが、とにかく
うれしくて、期待で胸が膨らんだ。まだ見ぬ
未来は、キラキラしているように感じていた。
 
ただ、現実はそんなに甘くなかった。
右も左も分からず、手探り状態の毎日。仕事が
思うように進まず、役に立てないどころか周りに
迷惑をかけることが辛かった。今から考えると、
新入社員なのだから、分からないことだらけ
でも当たり前なのだが、当時はそんな風に
思えなかった。
 
そんな私に、追い撃ちをかけたのが同期の
存在だった。同じ部署で働く同期は、卒なく仕事
をこなしているように見えた。優柔不断な私と
違って、迷わず的確に業務を進めていく同期。
私は「すごいなぁ」と思いながらも、内心
焦っていた。
 
毎日、自分に対するダメ出しと、同期や他の
同僚への称賛を続けた。
その結果……
私は自分のことが嫌いになった。
 
この頃は、自分がどう思っていて、何がしたい
のかも分からなかった。好きなものとか、嫌いな
ものとか、そういうのもどうでも良くなっていた。
自分のことが、全然分からなくなる感覚。
それは、長くて真っ暗なトンネルを歩いている
ような感じだった。
これが……不幸って感覚なのかな……。
 
「自分を嫌いだ」と思う時間が不幸なら、
きっと、「自分を好きだ」と思う時間は幸せ
なのだろう。
私だって、自分を好きになりたい!
なのに、そうできないのはなぜだろう?
 
それは……
小学生の時に植えられた「不幸のタネ」が原因
ではないか?
 
私はあることを思い出した。
それは、小学生の頃に繰り返し行っていたこと。
「良いこと見つけ」と「振り返りタイム」だ。
 
「良いこと見つけ」は、友達の良い行動を発表
し合うという時間。「○○さんがトイレのスリッパ
を揃えていて良かった」とか、「○○さんの挨拶の
声が大きくて良かった」とか、日常のちょっと
した良い行いを発表し、交流していた。
 
「振り返りタイム」は、自分の授業態度を振り
返る時間。「今日の授業は○○を間違えてしまった
から、次はできるようにしたい」とか、「今日の
授業の○○が分かったのに、手をあげられなくて
残念だった」とか、そういうことを発表していた。
 
これが、私にとっての「不幸のタネ」だった。
社会人になった私は、小学生の頃のまま他者を
称賛し、自分にダメ出しを続けた。
これは、他者には「いいね」ボタンを、自分には
「悪いね」ボタンを連打するような感じ。
 
小学生の頃、知らぬ間に蒔かれた
「不幸のタネ」は、私の中で成長していたのだ。
気付かぬ内に芽を出し、ツルを伸ばし、確実に
根を張っていた。きれいな花なんて咲かせずに、
そのツルについたトゲが私を傷つけていく。
その成長とともに、私はどんどん自分を嫌いに
なっていった。
 
「不幸のタネ」の成長を止めてくれたのは、
夫だった。夫と出会ったばかりの頃、私は
自分のことが嫌いなままだった。
 
私は自分の良いところなんて考えたことが
なかったし、自分のことを褒めるなんてことも
なかった。でも、そんな私のことを、夫はよく
褒めた。たいそうな理由なんてない。ただ、
当たり前のことで褒められた。
 
そういえば、こんなこともあった。
引っ越しの荷造りをした時のこと。
 
私は荷造りをするのが、とても苦手だ。
段ボールに荷物を詰める作業が、全く進まない
のだ。新しい部屋で荷ほどきすることを考えると、
これはこっちにの段ボールに入れておいた方が
いいかな、それともこっちの段ボールの方が
いいかな? と、途端に作業のペースが落ちて
しまう。
「今日はここまで終わらせよう」
そう意気込んで作業をし始めたものの、その
半分も終わらせることができなかった。
 
結局、私は目標を達成できず、自分にダメ出し
する結果となった。でも、そんな私に夫はこう
言った。
「荷造り進めてくれたんだ! ありがとう!
ここまでしか出来なかったんじゃなくて、
ここまで出来たんじゃないかな?
自分のことを、もう少し認めてあげても
いいんじゃない?」
 
その言葉に救われた気がした。
私は自分のことを、もっと認めてあげても
いいのかな。
 
そう思いはじめた途端、不思議と自分のことを
好きになっていった。長くて真っ暗なトンネル
だと思っていた人生。そのトンネルをひたすら
歩いて、出口を探すことばかり考えていた私。
そこに突如として表れたのは……宝石だった。
 
そうか! ここはトンネルじゃなくて洞窟なんだ。
人生とは、そこに眠っている宝石を探す宝探しの
ようなもの。自分を好きになっただけで、見える
景色が一変した。
 
私は「良いことみつけ」と「振り返りタイム」に
よって、良いことを認める「いいね」の視点と、
悪いことを認める「悪いね」の視点を習得して
いた。この2つの視点は、自分を好きになるため
にも大事なこと。
前の私ができなかったのは、自分のことを他者
と同じように認めることだったと気がついた。
 
「不幸のタネ」というのは私の勘違いだった
んじゃない?
私に植えられたのは、「不幸のタネ」にも
「幸せのタネ」にもなる……
 
……「魔法のタネ」だったんじゃないか!!
 
 
 
「魔法のタネ」は成長し、小さな花を付け
はじめた。蕾はまだ、開きそうで開かない。
その花を見守りながら、私は思い出した。
小学生の頃、我が家に突然咲いたアサガオの
ことを。
 
あんな風にきれいに咲かせたい!
私は強く願っている。
 
さきほど、SNSを開いたら、間違えて自分に
「いいね」してしまった。慌てて取り消そうと
したが、
 
いや、そのままでもいいんじゃない?
だって、自分でも「いいね」って思ったから
投稿したんでしょ?
 
そういう気持ちが湧いてきた。
他者に対する「いいね」と同じように、自分にも
簡単に「いいね」ができる……
そんな自分になれたらいいのかも。
 
 
 
 
***
 
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