メディアグランプリ

とある日のクリーム闘争


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北江りな(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「違う違う! これはホイップクリーム!」
 
半泣きになりながら夜道を走る。
ホイップクリームでは無い、”何か”を探しに街を駆け巡る。
 
料理が全くと言っていいほど出来なかった私だが、
せめてバレンタインには、本命チョコを手作りしたいという乙女心で、
生チョコを作ることにしたのだ。
 
もちろん私に生チョコを作るノウハウがあるわけでもなく、
溶かして固めるのが精いっぱいの私を見かねて、
友達が一緒に作ってくれることになったのだ。
泊りがけのバレンタイン合宿だ。
 
生チョコの材料は、たったの3つ。
ミルクチョコレート、ココアパウダー、そして、生クリーム。
私が生クリームだと思って購入したものは、ホイップクリームだったのだ。
 
だが、料理が全くできない私は、食材にも疎い。
キャベツとレタスの違いも分からなければ、
生クリームとホイップクリームの違いだって分かりゃしないのだ。
 
こうして私は、たった3つの材料さえ間違えて、
生クリームだと思い込み、ホイップクリームを買っていったのだが、
「違う違う! これはホイップクリーム!」と、呆れながら爆笑されて、
慌てて生クリームを探しに夜の街へと飛び出したのである。
 
 
時刻はもう21:00。
最寄りのスーパーは閉まってしまい、コンビニに駆け込むが、
そこに生クリームの姿はない。
他のコンビニを、はしごしたが、見つからない。
 
もう明日はバレンタインだ。なんとしてでも、手に入れる。
普段は自転車だったのに、慌てて出てきた私は走っていた。
少し遠いところにある、24時間営業のスーパーに駆け込む。
ついに生クリームを見つけたが、なんだか種類が多すぎる。
乳脂肪分が35%。45%。いったい何のパーセンテージだ!?
 
慌てていてスマホを忘れた私は、調べることも出来ずに、
生クリーム売り場を右往左往。ぐるぐるぐるぐる。
えぇい、もうこれでいい!
これで駄目ならバレンタインはお預けだ!
半ば無理やり、1つの生クリームを手に取り、会計をする。
乳脂肪分なんて知ったこっちゃない。
 
なんで3つの材料さえ、まともに揃えられないんだ。
しかも、これから作るのか……。
帰り道と作る過程を考えて、うんざりした。
 
なんせ私は料理が苦手だし、嫌いだ。
調味料を計ったこともないし、いつも山勘で作るから、それなりに失敗する。上手くいくときもある。
何が出来上がるかは、神のみぞ知る、だ。
 
バレンタインに失敗したチョコレートを渡すわけにはいかない。
2月の寒さに震えながら、生クリーム片手に走った。
走っている間に泡立って、ホイップクリームになるんじゃないかと思った。
生クリームって振り続けたら、チーズになるんだっけ、バターだっけ。
何にでもなってしまえ。
 
いつもより夜風を冷たく感じた。
 
 
友達の家に着くと、いい香りがする。
もうすでに、友達は自分の分のブラウニーを焼き上げていた。
あぁ、なんといい匂い!
 
「味見する?」という友達が差し出したプレートには、
私の間違えて買って来た、ホイップクリームが添えられていた。
おいおい、このブラウニーのために私は間違えて買ってきたようなものじゃないか。
なんと、したたか。そして、ちゃっかりしているんだ。
けれども、ホイップクリームとブラウニーの相性は抜群で、
悔しいくらい、とても美味しかった。
 
 
チョコレートを刻む。
包丁を持つのさえ苦手な私は、みじん切りの概念が分からない。
上手な人は、手際よくカットしてくのだが、
私の場合は、みじん切りというか、めった刺しだ。
チョコレートに恨みでもあるのか、というぐらい、バラバラにされたチョコレートは、乱雑にテーブルいっぱいに散らばった。
 
今度こそ手に入れた、生クリームを温める。
それを、チョコレートと合わせて、固める。
たったそれだけだ。
 
料理が出来る人からしたら、目をつぶっても出来るぐらい簡単なメニューだが、私にとっては難易度が高すぎた。
結局、生チョコを作る時間より、生クリームを探す時間の方が長かった。
やっぱり料理は得意じゃない。
けれども、心がこもった、というか、全力を注いだ生チョコが出来上がった時は、達成感があった。
もし、友達がいなければ、私は生クリームが何かも知らず、
生チョコと言えるのか分からない”何か”を作り上げていただろう。
 
 
翌日、この全力投球の生チョコをプレゼントした。
なんてったって、夜道を駆け回って、めった刺しにして作った生チョコだ。
届け、この想い。
 
食べた相手は「ありがとう」と一言。
 
おーい、それだけかい。もっとあるでしょう。
このなめらかな口どけは、生クリームかい、とかあるでしょう、君。
心の声が出そうになる。
 
 
ふと、机の上を見ると、見覚えのあるブラウニー。
友達よ! その美味しいブラウニーを渡したのか!
勝ち目、なくない!?
どこまで、ちゃっかりしているんだ。したたかな友達よ。
 
「それ、ブラウニー?」
 
誰が作ったのか知っているのに、ブラウニーさえ知らないようなふりをして聞く私。
 
「あぁ、これ、めっちゃ美味しいよ!」
 
 
……。
 
 
ほろ苦い、いや、苦すぎるバレンタインだった。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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