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怒涛の引っ越し見積もりで分かった、勝負強さの極意


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:飯田裕子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
「すっごいメール来てるよ。どうすんの?」
 
経験者に、あちこちから見積もりを取った方がいいとアドバイスをもらっていたので、引っ越し見積もりサイトにメールを送ってみていたが、その結果がこれだ。
 
10社以上から、見積もり予約のメールを受け取った夫は、何を思ったのか、ある土曜日の午前中に、30分おきに見積もりに来てもらう予定を立てた。忙しいし、毎日一社というわけにもいかない。昼からは出かけたいから午前中で済ませたい。見積もりなんて、20分ぐらいで済むんだろう。後で連絡します、とか言って帰ってもらって、後でじっくり決めればいいよね、と思ったのだ。
 
 
朝9時。早速A社がやって来た。A社のセールスマンは、若くて元気なお兄さんで、少々押しが強い。奥まで入り込んできて、床に座って、饒舌にサービスについての説明を始めた。ちょっとしたやり手な感じの人で、この強烈な押しの一手でたくさん契約を取っているのだろう、という感じ。とても自信たっぷりだった。
 
「どうでしょう。本当はもう少し高いんですが、お任せいただけるなら、だいぶお安くしますよ。それに、今だけキャンペーンで、お米を付けてます。今日申し込んでくれれば、置いていきますから、早速食べられますよ」
 
大手のわりに、お値段も思ってたよりか安い! お米も付けてくれるって言うんだから、もうここでもいいかな。
 
私がそう思ったのを察したのか、Aさんは、私の前に米袋を置き、
 
「どうでしょう、奥さん。私たちに任せてくれませんか?」
 
と言って、そこから動かなくなった。食べ物で釣ろうという作戦か! 事実、かなり揺れてしまった。私って、食べ物やおまけに弱いわ……。見透かされてるわ……。
 
そのうち、2件目のB社がやってきた。
 
「Bさん。遅かったですね。もう決まりそうですよ」
 
A社が饒舌に世間話をしながら粘っていたので、B社は、通り一辺倒のプレゼンをした以外には話す時間があまり取れないまま、3件目のC社もやって来た。Cさんは、Aさんが饒舌で余裕なのを見て、負けじと、そこで大きな声でプレゼンを始めた。
 
居間の狭い通路にA社、B社、C社の3人が並んでいた。饒舌なA社に戦いを挑むC社! 間のB社は、電話が来たのか、少しの間席を外したことはあったが、ほとんど話さずに、深刻な顔をして下を向いていた。もっと後から来たD社、E社は、詰まっている部屋に入ってくることも出来ずに、簡単な値段のやりとりだけして、玄関で去ることとなった……。そのあとの会社は……「ピンポーン!」開けてのぞき込んで、状況を察して、話をすることもなく、そっと帰って行った。
 
あれ? 詰まってしまった! まさかこんなことになるとは! 誰も帰らない! 見積もりって、金額だけ言って帰って、後から連絡を待つんじゃなかったっけ? 30分間隔で呼んだのは誰だ? もっと間隔を空けて、業者のかち合いは防いだ方が良かったかな?
 
我が家の居間は、ちょっとは名が知れていたABC3社の、威信をかけた戦いの場と化した。
 
「えーと。もう一度。お値段は? はあ、やっぱりそれぐらいはするんですよね……。人数はどれぐらいで来てくれますか? ほんとは3人ぐらいで来てくれるといいんですよね。それに、大学生のバイトばかりで、借り物のトラックで、というのは嫌なんですが……。前の時の業者さんは、そんなんで雑で、ピアノのフタを壊しちゃったから……」
 
A社「精鋭部隊というのは、ちょっと今はお約束できないんですが、少しお安くしますし、精一杯やらせてもらいます。うちも大手だし、仕事はきっちりやりますよ。奥さん、お米をもらいましょうよー」
 
C社「うちは、ちゃんとしたトラック2台で来ます。お値段も少し頑張らせていただいて、A社より若干お安くします。でも、全員精鋭のスタッフを3人もそろえるとなると……うーん。どうかな……」
 
その時、ずっと黙っていたB社が突然
 
「私どもは、A社さんより〇〇円、C社さんより〇〇円お安くします。それに、バイトでなく、精鋭部隊を3人連れてきて、ちゃんとした自社のトラックで引っ越しにあたらせます。どうでしょうか!」
 
「え? 今即答できるんですか? 大丈夫ですか? それに、そんなに安くしちゃっていいんですか? 後で上司に怒られませんか?」
 
「大丈夫です。さっきの電話で、許可も取りました。精鋭も3人用意できるそうです!」
 
Bさんは、だてに黙っていたわけではなかった。話し合いの真ん中に立っていたし、無駄にしゃべらなかった分、他の業者の状況や言い分をよく聞ける立場にいた。そして、上司に、社の威信がかかっていることを伝えて説得し、私たちの望む、①出来るだけ安く、②ちゃんとしたトラックで、③精鋭のしっかりしたスタッフ3人を揃えるため、密かに根回しをしていたのだ。
 
この一言で勝負が付いた。Aさんは急にだまった。Cさんは口をポカンと開けて立ち尽くした。Aさんは、少ししてから、「いやあ、いい勝負でした。Bさん、お名前は? 名刺を交換しましょうよ。また契約の取り方とか、教えてください」すごい立ち直りの速さで、本当に名刺を交換して帰って行った。
 
私たちは、結果的にものすごく得をした。夫は、素直にとても喜んだ。ただ、私は、うれしいながら、ちょっと複雑な気分になった。B社は、この勝負に勝った。B社の威信は保たれた。でも、安さは破格だったし、ずいぶん身を削ったのだ……。この、なんの変哲もない家族の小さな引っ越しを契約する勝負に勝つことって、そんなに大切だったの?
 
いやいや。この小さな引っ越しを勝ち取っていくことが、すなわち業績につながるのだ、と思い直した。引っ越しも、携われないと評価もされない。私たちに、B社良かったよー、と後で宣伝してもらえれば、直接B社に声がかかることも増えていって、右肩上がりになっていくだろう。それに、社宅みたいなマンションだったから転勤引っ越しもけっこうあった。トラックが止まっているのを見て、丁寧に迅速に荷物が運ばれるのを目にすれば、「私たちも……」という人が出てくるだろう。私たち家族も得をしたし、B社にとっても、勝負には勝てるは、宣伝は出来るはで、いい話だったのだ。多分そうに違いない。Bさんの思いつめた様子、大一番の勝負を思い出して、どんな仕事にも、丁寧にあたらなくちゃな、と思った。それに、きっとBさん自身も、この一件で自信を付けて、また一回り大きく成長したのだろう。セールスマンが成長してくれれば、きっと少し安くなった引っ越し料金なんて、安いものだろう。
 
人には、やっぱり、ここぞという大一番での勝負強さが必要なのかも知れない。最高のタイミングで勝負出来るようにするためには、正しい状況判断と適した準備が必要だ。チャンスはどこに転がっているか分からない。Bさんを思い出して、コツコツ頑張ろう!
 
 
 
 
***
 
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2022-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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