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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:園田 美穂(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
「幸せとはなんですか?」
この問いに、あなたはなんと答えるだろうか。
 
今の私は「空気です」そう、答えるだろう。
 
「うちは、お金ないんよ」
そう言われて育った幼少期。家はぼろいし、車もない。長期休暇は、特にどこかへ連れて行ってもらえることもなく、狭い6畳の和室で一日テレビがお友達だ。そのお陰で、毎日流れるアニメの主題歌はだいたい歌えるようになった。
 
『うちは母子家庭。わがままを言ってはダメなんだ』
いつしかそんな風に、欲しい物をねだることもなくなっていった。
 
そしてこう思う。『早く自分の手で、お金を稼ぎたい』と。
 
念願の社会人になるが、現実はそう甘くはなかった。抱えきれない仕事量と肉体労働。拘束時間は長く、帰ってくると力尽きてそのまま眠りにつく日々。そんな毎日を乗り越え、まるで1年かのような1ヶ月が経ち、待ちに待った給料日。はやる気持ちを抑えながら、通帳に刻まれた数字を一つ一つ目で追っていく。
 
『給与 130,000』
 
??????
 
何度も目を擦るが、13万円という数字が間違いなくそこにあった。このままでは、また惨めな生活を送ることになるかもしれない。胸の奥が騒ぎ出し、過去の記憶が蘇るかのように不安が押し寄せてきた。
 
そんな時中学の同級生と再会し、こんな話を聞いた。
 
「ネットショッピングしたことある? そうそう、その携帯電話にも入ってるアプリ! それってさ、普段は買う側だけど売る側に回れたら面白いと思わない?」
 
「え! めちゃくちゃ興味ある!!」
 
そうやって始めた仕事が化粧品の代理店。とにかく稼ぐ為に仕事に集中し、無駄な時間は削いだ。テレビを見る時間、友達と遊ぶ時間、もちろん睡眠時間なんて3時間取れたらいい方だ。左手には携帯電話を握り、啓発系のYouTubeを1.5倍速で見ながら、ファーストフードを食べる。味わう時間は必要ではない。
 
人間関係も大きく変わった。『つるみの法則が大事』と何度も言われていた私の周りは、バリバリのビジネスマンや、ブランド物、高級車で身を固める経営者層になった。
結果給料は4倍以上になったが、それでも満足出来ず『もっと将来の為に』と、稼ぐことに執着していった。
 
そんな時、身体に異変を感じ始めた。毎日決まって21時になると、全身に蕁麻疹が出る。ひどい時は唇は腫れ上がり、眠れない日もあった。ふと見た携帯電話の連絡先は、1200人を超えていた。けれどこの中に、私が本当に苦しい時に寄り添ってくれる人はいるのだろうか。
 
『……あれ、私どうなりたいんだっけ』
 
なんとも言えない孤独感に押しつぶされそうになった。
 
そんな時、ある男性に出会った。その人は私を見るなり、こんなことを言う。
 
「本来のご自身ではないですよね?」
 
茶色く透き通るその深い目で、全てを見透かされてしまいそうな気がして慌てて目を伏せた。この出会いが私の人生を劇的に変えていくことになる。
 
この人は、とにかくこの言葉がしっくりくる。
 
『地味な変わり者』
 
学者のような眼鏡をかけて、空いた時間があるとひっそり本を読む。時には部屋の端の方で瞑想をし、ポテトチップスを食べると幸せそうな顔をする。そんな姿に私はだんだん興味が湧くようになっていた。
 
ある日こんなメッセージが届く。
 
『5月31日19時半〜僕の家でホームパーティをします。お時間あればどうですか?」
 
当日は少し遅れて到着した。綺麗に掃除はされているが、私の実家を思い出させるような家だった。そこに来ていた人たちはなんと言うか、普通。そう、至って普通という言葉がぴったりはまった感じがした。
 
最近あった出来事や心境の変化、そんなたわいもない会話をしながら手作りの料理を美味しそうに食べている姿は、なんだか楽しそうだ。
 
「美穂さん、たくさん食べてくださいね」
 
その言葉で我に返り、大好物の唐揚げを口に運んだ。胸の奥の方からじわじわ感情が湧き上がり、気づいたらぽろぽろ涙がこぼれ落ちていた。手作りのご飯を食べるのはいつぶりだろう。想いの込もったご飯は、冷たくなった私の心を何度何度も抱きしめた。
 
そこから私の中の、何かが変わっていった。
 
『あれ、こんな所にお店あったかな?』
 
通い慣れた道にあった八百屋。そこになんとなく入ってみると、ピーマンが5個で50円になっていた。そんなことで胸の奥の方が、ほっこり幸せな気持ちになった。
 
またある時は、
 
『あ〜空がきれいだなぁ』
 
流れゆく雲を見ていると、なぜか頬に涙が伝った。
 
私は今まで理想の未来に向けて、目の前の時間を駆け抜けていた。今を味わうことは必要ではく、描いた未来の為にどう効率よく生きるか。人には深入りせず利害関係で繋がり、未来に意味のあることを出来る人こそが、幸せを獲得するのだと。そう思う私は、いつまで経っても幸せではなかった。
 
もし幸せに質問できるとしたら、こう返ってくるかもしれない。
 
「幸せになりたいんですけど、どうしたいいですか?」
 
「私はいつも、あなたの側にいますよ」
 
当たり前にありすぎて分からなくなっている小さな幸せ。けれどそれが無くなった時に、本当はなによりも大きなものだったということに気が付く。それはまるで見えない空気のように。

幸せな人というのは、獲得したわけでも、効率よく生きたわけでもないのかもしれない。そこにある幸せを、今しかないこの瞬間を、ただ感じることの出来る心を持った人。そんな風に、私は思う。
 
だからそう、
 
『幸せは、今ここに』
 
 
 
 
***
 
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2022-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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