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わたしは見えない物語に心が動かされる

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Seiko(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
オオオォォォッッ
ワアアアァァァッッ
地響きのような歓声と高まる熱気。
わたしの目は釘づけだ。
 
驚いた。
小学校6年生男子のクラス対抗リレーが、こんなにも盛り上がるとは知らなかった。
速い。
6年生の男子とは、こんなにも速く走るものなのか。
どの選手も、それぞれのクラスから選ばれた精鋭らしい。
走る顔も真剣そのもので、
「ぜったい負けねぇぞ」
と言っているように見える。
バトンリレーが繰り返され、選手達はあっという間に興奮する観客の目の前を走り抜けていく。
かっこいい。
一緒に見ていた友人が、
「大抵みんな、サッカーや野球をやっている子達だよ」
と教えてくれた。
なるほど。スポーツ少年達なのか。
 
「速っ! みんな凄いね!
わたしもいつか、リレーでわが子がブッチギリでトップを走る姿を見てみたい」
横で友人が笑っている。
見知らぬよそ様のお子さんを見て
「こんなに大きく逞しくなって」
と感動するのだ。
自分の子供のその姿も見てみたい。
本気でそう思い、本気でそう言った。
 
長女が小学生になったばかりの5月に初めての運動会があり、その時に見た光景だ。
15年も前のことだけれど、今でもしっかりと目の奥に焼き付いている。
たかが小学生と言うなかれ、だ。
ひゃー。こんなに速いの? と本当に驚いた。
 
その時、長女は一年生。
この間まで幼稚園児だった一年生達のかわいいこと。
両手にボンボンを持ち音楽に合わせて踊る姿も、
ニコニコ笑いながら走る男女混合の徒競走も全部かわいい。
小さな1年生が一生懸命な姿。
「大きくなったなぁ」と感慨深く、保護者達も夢中でビデオを構える。
わたしは大満足で一日を終わろうとしていた。
そろそろ帰り支度をしながらの、運動会最後のプログラムが高学年のクラス対抗リレーだった。
1年生の出番はないので、ただぼんやりと眺めていた。
そんなところへ、全力で疾走する6年生の姿を見たのだ。
1年生と6年生ってこんなにも違うのね。
当たり前なのだけれど、そのギャップに驚きもひとしおだった。
それから毎年、運動会の高学年クラス対抗リレーの応援は、わたしの楽しみになった。
知らない子達ばかりでも楽しいのだ。
 
先日幕を閉じた冬季オリンピックも、選手が全力で競技をする姿に感動した。
見ているこちらが力をもらった。
わたし自身がその競技に興味があるかどうかや、どこの国の選手かということは関係がなかった。
言葉で語っていなくても、選手の競技する姿が、喜び、悔しさ、涙、全ての表現が、
わたしを惹きつけた。
そして、今わたしが見ているその人の後ろに、そこに費やしてきた長い長い時間や、
目には見えない物語を想像してしまうのだ。
何を言うのかではなくて、何をするのかを人は見ている。
何をしてきたのかは、今のその人を見れば伝わってくる。
そんな言葉を聞いたことがある。スポーツはこの言葉の意味をそのままわたしに伝えてくる。
 
長女の学年が上がるにつれて、わたしも学校の様子がわかるようになっていった。
毎年運動会の前になると、どの学年も毎日練習をやり続けていた。
それぞれの学年が、だいたい三種類の競技を披露する。
一学年100人前後もいる児童を先生方が指導し、ひと月弱で全てを形にするのだ。
大変なことだと思った。
そういうことを知ると、運動会の見方も変わり、感動が更に上乗せされた。
当日の華やかさに繋がるそこまでの準備の積み重ねにも、
保護者達は感動させられるのかもしれない。
 
わたしは相変わらず、毎年リレーを応援していた。
長女が6年生の時、下の息子は3年生。
運動嫌いの長女はともかく、息子は運動神経はいい方かもしれない。
でも、ブッチギリで走る感じでもないかな、なんて思いながら、
 
その息子は、クラスメイトからの嫌がらせが原因で、3年生の後半から学校に行けなくなり、
再び学校に戻れた時は4年生の秋になっていた。
だから、息子が高学年になった時、
わたしは、彼が笑って運動会に参加していることだけで満足だった。
わたしの見続けてきた「小学校の運動会」は静かに幕を閉じた。
だがしかし、中学校にも運動会はある。
中学生の運動会の迫力たるや、わたしはここでも一観客として大いに楽しんだ。
 
小学校5年生からミニバスを始めて、すっかりバスケットボールにのめり込んだ息子は、
中学校ではバスケットボール部に入部をした。
そこはバスケットボールでは毎年都大会に出場するくらいの、近隣ではそこそこの強豪校だった。
強豪校だけに日々の部活はかなり厳しく、部員達は鍛えられる。息子ももれなく鍛えられた。
そして2年生の時に、息子はなんと、3学年&男女混合クラス対抗リレーの選手に選ばれた。
しかし、そんなリレーの選手に選ばれる中学生はみんな途轍もなく速い。
うちの息子って本当に早いの? と思うくらい、みんな速すぎた。
もちろんわたしは楽しんだけれど。
 
翌年、3年生の運動会では、3学年混合リレーはなくなり、学年別の男女混合リレーになった。
この年も、息子はクラスのリレーの選手に選ばれた。
各クラス、男子3人、女子3人のチームで走る。
わたしは男子が走って来るところが見られる場所に立っていた。
第一走者の女子が一斉にスタートした。
速い。女子も速い。隣から「めっちゃ速くね?」と聞こえてきた。
全クラスがほとんど同時に第二走者の男子にバトンを渡した。
インコーナーから一気に抜け出してきた選手がトップに立ちレースを引っ張る。
速っ。と思う間もなく、目の前を集団が駆け抜けて行った。
その集団のトップをブッチギリで走っていたのは、なんと息子だった。
「……学校に行けないこともあったのに……走ってたよ……」
12年越しの願いが叶ったわたしの感情は
「わー! かっこいい!」と言う高揚したものではなかった。
静かな感動だった。
中学生になった息子の走る姿に、たくさんの物語が蘇ってきた。
息子のチームは優勝し、みなで抱き合って喜んでいた。
 
「わたしの夢を叶えてくれてありがとう」
大勢の中で泣かないようにしながら、息子に向かって心の中で伝えた。
 
 
 
 
***
 
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