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言いたいことが言えている娘


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:とりぴか(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
僕には2歳半になる娘がいる。
彼女は2年と6ヶ月しか生きていないはずだが、そう感じさせないくらいに語彙力があり、よく驚かされる。
 
最近は「パパ、ドアちゃんと閉めなきゃダメよー」と指摘までするようになった。
 
要は妻の真似ごとをしているだけなのだが、僕からすると監視員が二人に増え、ドアや引き出しを開けたままにしていないか、電気を付けっぱなしにしていないかを日々厳重にチェックされるようになってしまったので厄介だ。
 
数ヶ月前は「パパ」と言ってもらえただけで、涙を流しながら喜んでいたのに、まったく世知辛い世の中だ。
 
そんな大人びてきている彼女だが、最近ライバルが現れた。
昨年末に産まれた次女だ。
 
次女は毎日寝て起きて母乳を飲んでいるだけ、今はこれを繰り返すだけでチヤホヤされる新生児特需期間中だ。
次女の存在がスペシャルすぎるため、長女があらゆる手でパフォーマンスしようと、ばぁばやじぃじの興味はどうしても次女に集まる。
特にお母さんは母乳をあげなくてはならないため、四六時中次女と一緒に過ごしている。
 
この状況に異議を唱えるために、長女はストライキを起こした。
長女としての威厳を捨て、赤ちゃんに成り下がった。いわゆる赤ちゃん返りだ。
 
次女が抱っこされていると、長女も抱っこを要求してくるし、次女がおっぱいを飲んでいると、長女もおっぱいを要求してくるようになった。
 
ただやはり手厚いサポートが入るのは次女なのだ。長女へのサポートはどうしても手薄になってしまう。
これは大人側のサポート体制の問題だ。常にばぁばやじぃじが補助要員としていれば良いが、そうは行かない。
 
どんなサービスも手厚くサポートされるのは新規の顧客だ。
最初のサポートで印象をよくしておくと、契約を継続してくれたり、良い口コミを書いてくれて新たな顧客を獲得できたりするためだ。
 
ただ、既存顧客もほったらかしにしていると悪い口コミを書くし、めちゃくちゃな要求をするクレーマーにもなる。
 
既存顧客である長女は怒りと悲しみに満ちたやりきれない感情を、泣くことで発散するようになった。そしてその泣き声で次女もつられて泣くのだ。
 
都内の狭っ苦しい2LDKの我が家は、二人の娘が同時に泣くとカオスな空間と化す。
 
この状況を打破するために僕ら大人組は試行錯誤を繰り返す。
日中公園に連れて行って体力を削らせたり、抱っこ紐で寝かし付けしてみたり、鬼に電話してみたり(そういうアプリがある)あらゆる手を試し、日々実践しPDCAを回していく。
 
この途方も無い試行錯誤の中で辿り着いたのが、反町隆史のPOISONだ。
「言いたいことも言えないそんな世の中じゃ〜POISON」のPOISONだ。
 
にわかに信じられないと思うが、POISONを赤ちゃんに聞かせると泣き止み、眠りにつくというものだ。
 
僕は半信半疑だった。これが本当だとして、そもそもどうやって発見したのだろうか。
 
僕はPOISONが主題歌となっていたドラマ「GTO」が流行っていた時に中学生だった。
恐らく今パパママをしている方も同世代が多く存在していると思う。
その中の誰かが、たまたまTSUTAYAで借りてきていたGTOのDVDを、たまたま子供が泣いている時に見ていて、
 
「あら、あなた、この子POISONがかかった瞬間に泣き止んだわ」
 
「お、おまえ、これは大発見だぞ!学会で発表だ!」
 
とでもなったのだろうか。
 
そんな筈はない。
ただ、本当だとしたらすごい。検証してみる価値は十分にある。
 
早速僕はYouTubeでPOISONを検索した。
すると出てきた動画のタイトルには「寝かしつけPOISON」「赤ちゃんが泣き止むPOISON」「広告無し8時間ループPOISON」という言葉が並んでいた。
そしてその中には100万回再生を超えている動画が何本もあった。
 
僕はこのYouTubeの検索結果を見て涙が出そうになった。
動画を作った人も、動画を再生している人も、みんな同じ悩みを持っているのだ。
親として子供に向き合い、眠れない日々を何とか乗り越えようと必死にもがいた結果、切り拓かれた道。
僕はその道を一歩一歩、先人たちに感謝をしながら歩みだした。
 
僕は検索結果に出てきた動画のうち、最も再生されていた動画の再生ボタンをタップした。
聞き慣れたイントロが始まる。
 
高ぶる気持ち、蘇る青春、ウトウトしている次女……。
 
ウトウトしている!?
イントロだけでウトウトしている!
 
ギャーギャー泣き叫んでいた次女はもうどこにもいない。
もはやヨダレを垂らしながら半目で意識が飛びそうになっている。
 
「嘘だろ……」
 
思わずそうつぶやき、動画のコメント欄を眺める。
 
「なぜ寝るのか不明すぎるけどすぐ寝る、最高」
「どんなに泣いていても、聞かせたら毎日10分以内に寝る」
「反町さんありがとう」
 
コメントを流し読みしながら、サビ前に差し掛かった時に気づいた。
次女は完全に寝ていた。
 
恐らくPOISONから出る音が胎内音に近いとかそういう理屈なのだろう。
それは生後1ヶ月程度の青二才(ややこしい)には効くだろう。
 
だが、問題は長女だ。
 
2歳6ヶ月、赤ちゃん界では、もはや中堅。
野球選手であればおおっぴらには言えないけど、球団が提示する年俸に実は不満を持っており「他の球団とも話をしてみたい」とか言ってFAで他球団に行くくらいの時期だ。
 
そんな長女へのPOISON寝かしつけには、相当な覚悟を持って望んだ。
 
長女を泣き止ますためのルーティンがあるのだが、POISON寝かしつけを実践することはそのルーティンを崩すことを意味する。
 
ここ最近はiPhoneの鬼に電話するアプリで、恐怖心を煽り強制的に寝させるという、ルーティンを続けており、これは一定の効果があった。
 
鬼もまた救世主だったのだ。
ただしかし、鬼に電話を掛け過ぎて効果が薄れてきていたタイミングでもあった。
 
積み上げてきたものを崩すことは、相当な勇気がいる。
しかし新しい挑戦を続ける姿勢を見せることもまた親の義務なのである。
 
泣きわめく長女の隣で、恐る恐る動画の再生ボタンを押した。
 
「何回聞いても耳に残るかっこいいギターリフだなぁ」
「反町隆史の子供もPOISON聞きながら寝たのかなぁ」
 
そんなことを考えていた。
 
ふと我に返ると、我が家にはPOISONだけが鳴り響いていた。
そう、長女も一曲終わる前に寝たのだ。
 
それからPOISONは毎日我が家に流れている。
就寝時には欠かせないルーティンとなった。
 
長女は今も赤ちゃん返りしたままだが、赤ちゃん返りはある意味言いたいことを言えているのでPOISONではない。
 
パパはというと、会社では言いたいことも言えていないからかなりPOISONな状況だ。
毎晩、POISONにより寝た娘の寝顔を見て「明日にでも父親らしい背中を見せてやるぞ」と心に誓っているのだが、まだ実現には至っていない。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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