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魔法の言葉


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記事:Allie(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「うまいと思った瞬間から、成長が止まる」
 
ライティング講座でこの言葉を聞いた時、最近起きたある事を思い出した。
 
私は動画コンテンツに字幕をつける「映像翻訳」という仕事をしている。海外ドラマやドキュメンタリー、映画などの外国語作品に日本語字幕をつけるのが主な仕事内容だ。字幕翻訳という仕事の楽しさにのめり込んでから今までずっとまっすぐ走ってきて、プロとして仕事を始めから、気がつけば今年で10年目に入っていた。ありがたいことにエージェントからは今まで途切れずに仕事を頂いており、ここ数年はますます仕事が増える傾向にある。
 
夢は劇場版の映画に字幕をつけることだ。まだそれが叶ったとは言えないけれど、最近では劇場で公開された映画の「配信版」に日本語字幕をつける仕事を頂いている。字幕には著作権があるので、映画館で上映された映画の字幕は使い回せないことが多い。そのため、同じ映画であっても劇場版、配信版、ブルーレイ・DVD版と上映する形が違うとそれぞれ別の担当者が翻訳を行う、という状況がよく発生する。
 
そして約3ヶ月前、縁あってとある公開前のハリウッド映画の字幕翻訳を担当することになった。私が担当するのは「配信版」だ。数々の名俳優が出演していて監督も有名だったので、劇場公開前から気になっていた作品だった。かなり注目度の高い作品だったので、仕事を相談された時は正直驚いたし、心が躍った。劇場版でなくても注目作品を担当できるのはかなりうれしい。エージェントには「やります!」と前のめり気味に返事をして、張り切って仕事に取りかかった。
 
無事に納品して仕事が完了した時は、達成感と注目作品に携われた誇らしさがあった。正直に言うと舞い上がっていたし、調子に乗っていたと思う。この作品を手がけられたのはけっこう自慢になるかもな、くらいには思っていたのだ。
 
納品から間もなくして劇場版の公開も始まったので、映画館へ足を運んだ。劇場版を訳していたのは、なんと私が憧れている字幕翻訳者さん。名前を見た瞬間、この人と同じ作品を訳したの? と一気に現実に引き戻された。そして冒頭数秒の字幕を見て、言葉を失った。
 
いきなり急所を剣で貫かれてHPが0になった気分だった。つま先も手も冷たくなり、恥ずかしさで死にそうだ。今すぐ映画館から飛び出して、エージェントに納品した原稿を修正したい衝動に駆られた。
 
違う。同じ台詞を訳したはずなのに、私の字幕とは全然違う。
例えるなら、本物のダイヤとガラス玉。高級料亭のみそ汁とインスタントのみそ汁。
それくらい、言葉の扱い方に雲泥の差があった。
 
映画を見れば見るほど私のHPは削り取られ、エンドロールが終わって席を立ち上がる頃には瀕死状態だった。注目作品を担当できたからと浮かれていた自分が恥ずかしい。自分の作った字幕も恥ずかしい。なんであんな出来でイケてると思ったんだろう。座席の角に頭をぶつけて消えてなくなりたい。今なら恥ずかしさで死ねる。羞恥心に押しつぶされて圧死するんじゃないか。頭の中をいろいろなことがグルグルと駆け回っていた。
 
仕事に手を抜いたつもりはない。でもキャリアが長くなると指摘してくれる人は減っていくし、少し困った時でも小手先でうまくかわす方法を身につけてしまう。自分はまだまだ新人と思っていた時は全力で仕事に向き合い、ああでもない、こうでもないと推敲を続けて原稿を作っていたのに、私はいつの間にかその真摯な姿勢を失っていた。
 
自分がいい感じの翻訳者だという勘違いがどこかにあったように思う。「活躍する翻訳者」などと言われて調子に乗って、イケてると思い込んでしまっていた。翻訳に向かう姿勢もどこか本気でなかったのかもしれない。あの時の自分が目の間にいたら、往復ビンタを食らわせてやりたい。お前は1ミリもイケてないし、翻訳はまだド下手なんだよ! と言いながら。
 
あの日、映画館で憧れの翻訳者さんの字幕と自分の字幕の歴然とした差を見せつけられて絶望したし、ひどく落ち込みはしたけれど、そのあとは不思議なことにモヤっとしていた心の中がすっきりして、晴れた日の青空みたいな感覚があった。クリティカルヒットを食らって、ある意味吹っ切れたのかもしれない。また一から学び直そう、たくさんの字幕を見て勉強を重ねようという前向きな気持ちになれた。
 
ライティングも同じだ。うまいと思ったことは一度もないけれど、毎週の課題をこなしていくうちに、「自分、ちょっといい感じゃない?」と思ってしまう時が来るかもしれない。その時は、この言葉を思い出そう。
 
「うまいと思った瞬間から、成長が止まる」
 
己を律する魔法の言葉だ。
 
 
 
 
***
 
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