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ピュアな若者とお試しエステの顛末


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本三景(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
この話は実話である。
あるピュアな若者の身に起きた話をきいてほしい。
 
笑ってんじゃねぇ
 
20歳を少し過ぎたぐらいの若い女性が、そう思いながら顔を真っ赤にしてうつむき加減でプルプルと震えている。
 
まわりの友達はメイクに興味があったが、彼女はメイクより化粧水などの肌を整えるスキンケアのほうが好きだった。
彼女はまだ若く、お肌のメンテナンスなんて必要ないように思えるが、肌そのものを綺麗にしてくれるエステというものに、ちょっとだけ憧れていた。
しかし、自分に投資するだけのお金はない。
そんなとき、「初回お試し価格」の感じのよさそうなエステを見つけ、彼女は勇気を出して申し込んでみた。
 
そしてエステ当日、彼女は生まれて初めてエステの扉を開いた。
「フランスの貴族の椅子ですか?」と思うような、アールヌーボー的なロココ様式の椅子に案内された。
赤のビロードのクッションがまぶしい。
部屋の雰囲気は全体的に白く、まるでお姫様にでもなったかのようだ。
彼女はその雰囲気に有頂天になった。
 
「どこか気になるところはありますか?」
 
スタッフの綺麗なおねえさんが優しく話しかける。
 
お肌も綺麗!
顔小さっ!
 
そんな彼女の興奮には気がつかずに、スタッフのおねえさんは優しいトーンで現在の肌の調子や悩みなどをカウンセリングする。
全身は面倒なので、顔だけの簡単なエステがいいと、お試しフェイシャルエステのコースを選択した。
この「面倒」というワードがその後、彼女に呪いをかけることになるとは、今の時点では知る由もなかった。
 
「こちらに着替えてくださいね。着替えおわったら呼んでください」
 
そう言って、ふわふわした茶色のエステ用のタオルガウンを渡された。
(顔だけなのに着替えるのか……意外と面倒だな)
そう思いながらも初めてのエステにドキドキしながら彼女は着替えた。
そして着替えが終わり、スタッフの方を小さい声で呼んだ。
 
「着替えおわりました」
 
先ほどのスタッフのおねえさんが登場して、別の場所に案内されるかというときだった。
彼女はおねえさんの異変に気がついた。
 
あれ?
何かがおかしい。
困っている?
いや、困っているというより、笑いをこらえてないか?
綺麗なおねえさんは、必死に笑いを我慢しているようだった。
そして、おねえさんは苦しみながらこう言った。
 
「お客さま……首ではなく……」
 
彼女はてるてる坊主になっていた。
 
その当時の彼女は美容院以外の美容系の場所には行ったことがなかった。
渡されたタオルガウンなるものは、素材が違うだけで、美容院や理容室のクロスと同じものにみえたのだ。
なんの疑いもなく、ゴムの部分を首に持ってきた。
フェイシャルエステといっても、顔だけを綺麗にしてくれるだけではない。
首筋から胸元にかけての鎖骨ライン、いわゆる『デコルテ』といわれる部位も施術してくれる。
ゴムは首の位置にするのではなく、『デコルテ』までやりやすいように脇の下の位置にするのが正しい。
まあ、バスタオルを胸に巻いた感じだ。
そんなことはエステ初心者の彼女は知らなかった。
「フェイシャル イコール 顔」の方程式しか頭に浮かばなかった。
 
てるてる坊主が待っていたら笑うかもしれない。
お客さまを傷つけてはいけないと、スタッフとして必死に笑うのを耐えていたのだと思う。
だが隠しきれていなかった。
笑いをこらえるということは、こういう失敗をする人はあまり多くないのではないか。
彼女は自分の失敗がなんとなく一般的ではないような気がした。
 
彼女は少しの間だけ、てるてる坊主の状態で恥ずかしさに耐えていた。
その後、通常スタイルでエステをしてもらったが、そのときにはもう、何をされていたのか記憶になかった。
『無』だ。『無』が彼女の脳内に広がっていた。
 
施術がおわると、2回目以降のお試しではないエステへの勧誘が始まった。
彼女は説明の一切を右から左へと無表情で受け流すことができた。
もし、てるてる坊主になっていなかったら
(お肌がツルツルになったし、どうしようかな……)
と悩んで押し切られていた気もする。
しかし、彼女はすぐにでもその場を逃げ出したかった。
悩む必要がなかったことだけがよかったのかもしれない。
 
後日、彼女の元へ、例のエステから手紙がきた。
おそらく、エステの案内だろう。
申し訳ないとは思ったが、彼女は手紙を読まずに「さよなら」した。
 
この話の中の『彼女』とは若き日の私である。
もう、あの頃のような間違いはしなくなった。
今はエステよりもマッサージに行きたい年代だ。
まわりの友人には笑われたが、実は結構「あるある」な話で、この経験を言い出せない人も多いのではないだろうか。
 
ピュアな若者だった私も、長い年月をかけて、エステやマッサージを仕事としている人とも知り合いになることができた。
その人に今日、きいてみた。
「てるてる坊主になった人っていましたか?」と。
 
「今まででひとりいました」
と返ってきた。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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