料理と団欒
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:多田 充(ライティング・ライブ東京会場)
タンタンタンタンタン、ジャー
料理を作る音がキッチンを包む。
週末は数時間かけて料理作りに没頭する。作りながら、今日は友人が嬉しそうに食事をする姿を想像する。皆が喜んでくれればそれで良い。
ピンポーン。玄関の音が鳴る
「はい、よーこそ」私は言う。
「こんにちは。今日は赤ワインを持ってきたよ。」友人が言う。
「有難う。皆で飲もう」私は答える。
暫くすると、次々と人が集まりだす。
「いやー、ここに来ると落ち着くわ! 特にこのソファーに座っていると、何かまったりする」友人は言う。
私は出汁の味の効いた「ほうれん草とお揚げと桜えびのたいたん」をサーブする。
「すごい、なにこれ! 日本にいるみたい!」テンションが上がり、友人は叫ぶ。
そう、ここはインドのムンバイの私の住まいでの週末の一コマです。
インドでレストランに入るといつもカレーが出てくる。料理に香辛料が入っていないとインド人は食べた気がしない。そのため、必ず料理に香辛料が含まれ、カレーになる。料理によって入れる香辛料が違うので、味は違うが、全部カレーである。インド国内に1週間出張していると、毎日、朝、昼、晩カレーを食べる羽目になる。流石に、もうカレーは見たくなくなる。そんな時、和食を食べるともの凄く美味しい。
ムンバイは日本人が約千人しか住んでいない。外で日本人に会うことはまず無い。ある日本人の会合で日本人と話し、「ホームパーティをするから、遊びに来ませんか? メインは和食です」と言えば、初めて会う人でもほぼ必ず、家に遊びに来る。日本で初めて会う人を家に誘うと、怪訝がられるが、ムンバイでは人恋しいので、ほぼ即決で、「是非、行きます!」という反応が返ってくる。日本人同士は直ぐに仲良くなる。
好きな食材をスーパーや、露店で買って、家で調理している間は、没頭するので、仕事のストレスが消える。何時間か立ちながら手のこった食事を作っても、喜んでくれる人がいると思えば、楽しく料理ができる。
インドの食材は興味深い。ヒンズー教徒にとって、牛肉は聖なる動物であるため、ムンバイで牛肉を食べられるレストランはほぼ皆無である。マクドナルドに行っても、ハンバーガーは無い。野菜コロッケとチキンのバーガーだけである。また、豚肉も不浄な動物であるため、レストランでは食べられない。しかし、ベジタリアンが多く、夏野菜が甘味があり、もの凄く美味しい。
そんな中でも、一軒だけ、水牛の肉を売る肉屋をムンバイで発見した。インドでは需要が非常に少ないので、牛肉が激安である。タンなんてものは、ほぼ食べる人がいないので、一匹のタン600~700グラムが300円ぐらいで買える。日本では10枚で数千円するような極上牛タンが沢山とれる。
「タンなんてインドにあるの? うわっ、このタン塩めっちゃ旨い!」水牛は日本で食べるタンと味は同じである。タンが食べ放題となる。
インドはキングフィッシャーというビールが欧州のビールと比べて遜色無い味がする。年中暑いムンバイでのビールは最高に旨い。ビールの後は、インドの赤ワインを飲み始める。赤ワインは質が高く、2千円程の赤のインドワインの味は日本で購入する5千円程の味に匹敵する。日本で2千円のワインはちょっと高いと思う。でも、インドでは娯楽が極端に少なく、お金を使う場所が無いので、ワインぐらいしかお金の使い道が無い。だから、気にならない。自炊用の好きな食材を好きなだけ買っても、食費は週に千円程度である。
和食の他にもイタリアン、フレンチ、中華等と一緒に、お酒を飲むと、殆どの人は酔っぱらって良い気持ちになる。インドのような過酷な土地では誰もが生活の不便さ、仕事の難しさ等の、同じような悩みを抱えている。
「できると業者が仕事を請け負ったのに、結果はできない。社員もやると言ったのにできていない」お酒が入ると、本音で、話し出す。そしてお互い、言ってスッキリし、聞いてもらってスッキリし、励ましあってスッキリし、あるある話で夕方から深夜まで盛り上がる。
そう、それはまるでドラマの「深夜食堂」のようなものである。色々なバックグランドの人がお酒を飲みながら、マスターを囲み、話し合い、語り合い、励まし会う。そして、お互い何か温かいものを感じる。和気あいあいと延々と語り合うのは至福の喜びである。
幸せとは何だろうと自問する。料理、お酒、友人、団欒、音楽、酔っ払いのおしゃべり、酔っ払いの踊り。そう、近しい友人としがらみなく、本音でいられるのは何物にも代えがたい時間。明日への意欲が湧いてくる。それで十分じゃないか。
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