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メディアグランプリ

フェルメールの絵を観て「上手いね」と言ったあなたへ


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記事:藤崎奏(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
2022年3月最初の休日、上野の東京都美術館へフェルメールの絵を観に行った。コロナの影響で一度は延期になった美術展が、やっと開催されたのだ。最近の美術展は予約制になっていることが多い。夏のゴッホ展ではうかうかしている間に前売り券が完売してしまい、当日券の長蛇の列に並ぶ羽目になった。その反省を踏まえ、今回はちゃんと2週間前から前売りチケットを準備して臨んだ。
 
私はフェルメールが好きだ。フェルメールという名前を知らなくても、「真珠の耳飾りの少女」という代表作を目にしたことのある人は多いのではないだろうか。私は死ぬまでに、現存する35点(諸説あり)すべての作品を見ることを目標にしている。
ただ、私はアート評論家ではないし、作画技法にも歴史的背景にも全く詳しくないので、フェルメールの絵の素晴らしさを上手く説明することはできない。とにかく絵を見て泣きそうになったのはフェルメールの絵が初めてだったのだ。難しいことはよくわからないが、光の魔術師と言われるフェルメールの絵は、確かに光の描写がきれいで深みがある。私が特に好きなのは、衣服やカーテン、テーブルクロスの布の描き方。あまりにもきれいで涙が出てくる。
 
 
と、ふわっとしたことを言っているが、堂々と「なんかよくわからないけど、好き」と言えるようになったのは最近だ。
もともと私はどちらかと言うと理屈っぽい人間で、物事には必ず理由や根拠があると思っていた。感情も同様、「好き」には必ず理由があるべきだと考えていたのだ。
そのため、「なぜ私はフェルメールが好きなのか」という理由をこんこんと突き詰めていた時期がある。自分の頭で考えてもわからなかったので、私はインターネットを駆使して様々な解釈や考察を読み漁り、自分の意見として取り込んだ。誰も考察をしていなかった、例えば「この絵のこのテーブルクロスのたわみに何故だか死ぬほど心を揺さぶられる」という感情については、こっそり蓋をした。だって、その時の私には、根拠のない感情は存在しないことと同じだったから。
 
 
この凝り固まった価値観のせいで、一つの恋を逃したことがある。
 
彼と初めて会ったのは、社会人になって入社3年目の研修だった。私は新卒3年目、彼は中途入社3年目で参加していて、たまたま同じグループで2日間の研修を過ごした。一目ぼれに近かったと思う。血気盛んな同期たちの中で、彼は穏やかで大人だった。研修後、私たちは連絡先を交換した。
そこから先はよくある恋の話。現場職の私と本社の広報担当の彼は会社でこそ顔を合わせることはなかったけど、何度か二人で遊びに行った。彼は初めて会った時と同じように穏やかで、色んな事をよく知っていて、いつもにこやかに私の話を聞いてくれた。
 
「そろそろ付き合うかもしれない……!」という一番楽しい時期、私たちは六本木の国立新美術館にフェルメール展を観に行った。そのころの私は既にフェルメールが好きで、「じゃあ一緒に行こう」という流れになったのだ。その美術展でのこと。泣きそうに感動している私の横で、フェルメールを観るのが初めてだという彼は「なんか……上手いね!」と言った。素直な感想。でも、私は返事が出来なかった。アート評論家気取りだった私は、「え! それだけ!?」と思ってしまったのだ。「上手い」という表現は何だかとても稚拙に聞こえたし、何より彼がそう感じた根拠を知りたかった。でも、それ以上は語らず、ただにこにこ絵を眺めている彼のことがよくわからなくなり、何だか気持ちがすっと覚めてしまったのである。
 
当然その後私と彼が付き合うことはなく、彼とは疎遠になってしまった。
そしてその分、私の「根拠を示さなきゃ病」は加速していった。仕事では常にそれが求められたし、私の生活は仕事一色になったから。そして、いつしか、理由のわからない感情をなかったものとして扱うようになった。理由のわからない「好き」に蓋をしたのと同じように。
あの頃の私には、消えていった感情がたくさんある。
 
 
そんな状態が何年か続いたが、夜ご飯に何が食べたいかすらわからなくなった頃、さすがにやばいと思って少しずつ感情を取り戻すリハビリを始めた。
 
蓋をそっと外して心の底を眺めながら、ようやくわかったことがある。
感情に理由なんて、あってもなくてもどっちだっていいのだということ。大事なのは、感情そのもの。こんな単純なことがわかるまでに、随分時間がかかってしまった。
 
 
フェルメールの絵を観て「上手いね」と言ったあなたへ。
フェルメールを観るたび、あなたのことを思い出します。35点中やっと19点目を観たところだから、死ぬまでにあと16回はあなたを思い出すのかも。なんてね。
「好きに理由は要らない」、こんなこと、あなたはとっくにわかっていたんだろう。あの頃の私はまだ子供で、あなたに全然追いつけていなかった。今なら笑って、一緒に見るあらゆるものを「上手いね」「すごいね」って言い合えると思う。
 
……こう伝えたら、彼はきっと楽しそうに笑うだろう。お互い転職してしまったので、もう会うことはないのだけれど。
 
 
今回観た絵も最高に良かった! なんかよくわからないけど、すごく好き。
美術館の帰り道、ようやく私は「やっぱ上手いよねー!」と心の中の彼に返事をした。あの時の彼と同じくらい、にこにこしながら。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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