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「結婚しないの?」適齢期に、そんなことを言われ続けて。


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記事:香月祐美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「結婚しないの?」
 
唐突だった。
行きつけのBARをのぞいた日のことだった。
会うのは2回目の年上の男性から、急にそんなことを聞かれた。
お互いすでにほろ酔いだったからかもしれないけれど、私は内心「またか」と思った。
 
結婚適齢期に近づくにつれ、結婚しないのかと聞いてくる人が増えてきた。
結婚っていったって、そもそも相手すらいないのに。
かと言って、今すぐどうこしたいわけでもない私は、そんなに焦ってもいない。
心のうちをそのまま言っても、きっと通じないんだろうなぁと思い、
「一人が気ままかな」
と曖昧に答えてみせる。すると、
「美人なのに、自由優先なんだね。実家の両親は帰ってきて欲しいとか言うでしょ?」
 
なんということだ、さらに畳み掛けてくるとは。
この場合の美人は褒め言葉なのだろうか、とか、自由じゃいかんのか、とか、心の中の黒い私が顔を出そうとする。
自分がいい歳した女だということも、百も承知だ。
余計なお世話です! とビシッと言ってしまいそうになるが、せっかく休日を楽しんでいたのに、こんなことで台無しにしたくなくて思いとどまる。
 
確実に言えるのは、この男よりも、私に対して「結婚しないのか」と気にしているのは、九州にいる実家の両親だ。
昔、母が言っていた。
それは私が生まれた日。
父は、「結婚せんでずっと俺んとこにおったらよか」とつぶやいたらしい。
「気が早すぎたい」と母は笑い流したそうだが、今はどうだろう。
 
数年前、実家に帰省した時、私に新聞の切り抜きを見せてきた。
地元の婚活パーティの日程が書かれている紙を見せながら、
「九州に戻ってこんね」
「この主催の会社に連絡してみんね」
としきりに勧めてきた。
いつまでも東京にいないで、そろそろ九州に戻ってきて欲しい。
そしていい人見つけて結婚して欲しい。
そんな気持ちがものすごく伝わってきた。
 
当たり前だが自分が年々歳をとるのと比例して、両親も歳をとる。
孫の顔を見たい両親の気持ちはわかる。
私も結婚したくないわけではない、でもそこまで必要性に迫られていないのだ。
高校卒業と同時に一人暮らしを始めて、もう人生の半分以上を一人で過ごしている。
九州の言葉がとっさに出ないくらいには、東京に馴染んでしまった。
一人の時間が長過ぎた……というのは言い訳なのだろうか。
それすらもよくわからない。
家族ができればいいけれど、すぐに誰かと家族になりたい、と思っているわけでもない。
こんな中途半端な気持ちでブラブラし続けていると、きっとこれからの人生もずっと一人でいるような、そんな気がしている。
 
いつまでも独り身でブラブラしててごめんなさい。
でも、私の人生にとって結婚がすごく興味があることではないんです。
 
口では言えなかったが、心の中で両親にいつも謝っていた。
だんだん両親の「結婚しないんですか」の圧が重く感じるようになった。
「ふらついてないで、早く結婚しろ」とでも怒られた方がまだマシだった。
親が子供に、困った顔、寂しそうな顔をするのは、絶対にやっちゃいけない反則だと声を大にして言いたい。
親に悲しい顔をさせている元凶は自分だということが、私の心を何よりも抉った。
居心地の悪さにいたたまれなくなった私は、東京と九州、物理的に離れた距離と同様に、心の距離まで離れてしまった。
 
父の胃に腫瘍が見つかった。
会うことはおろか連絡もほぼ取らなくなった私が、数年ぶりに帰省しようと思ったきっかけとなったのは、母からのメッセージだった。
腫瘍は結局陽性で、父は相変わらず元気そうだったが、一つ変わったことがあった。
 
年に1、2度は会っていたのが、久しぶりに会うことになったこともあり、しばらく気がつかなかったのだが、「あの」圧が無くなったのだ。
そういえば居心地の悪さを感じないなぁと思っていたら、もう九州に帰ってこんねとも言われないし、婚活の「婚」の字も出てこない。
何事もなかったかのように、普通に戻っていた。
一体どうしたんだろう。
私がしばらく連絡すら返さなくなったせいだ、ということしか心当たりがない。
だからといって、あんなに「結婚しないんですか」と気にしていたのが、こんなに変わるものなのか。
「まだ結婚しないのか」の圧に居心地悪くなって、連絡さえ疎遠になっていたのに。
だから今の状況は良いことであるはずなのに。
なのにどうして、私の心の隅っこはまだモヤモヤしているのだろう。
 
「先生は、結婚しないの?」
結婚で思い出したのが、仕事場での出来事だった。
塾で講師をしている私は、子供たちに聞かれたことがあった。
小中学生はみんな家族と暮らしている。
私のように、一人暮らしをしていのがちょっと不思議に見えるのかもしれない。
単純に興味で聞いているようだった。
「うーん、結婚して子供できたら、1、2年は塾を閉めないとね……」
個人の塾なので、私がいないと塾は本当に閉めることになるのだが。
ドキっとした私の口からは、とっさにそんな言葉しかでてこなかった。
さらに突っ込まれたらどう答えよう……そんな不安が心に湧いてくる。
 
「……えっ!?」
私の答えが予想外だったのだろう。子供たちは全員固まった。
驚いた子供たちの反応が、私にも予想外だった。
「閉めちゃダメ!!」
塾閉めたら、このままお別れかもね……私の呟きに被せるように叫ぶ子供たち。
それくらい子供たちには衝撃だった様で「もうこの話は、無しだよ!」という感じで、それ以降聞いてくることは一切なかった。
 
ありがたいことに、どうやら思った以上に子供たちに好かれていたらしい。
 
ああ、そうか。
私はきっと、両親からも好きでいてもらえてるんだ。
子供たちの話を思い出しながら、そんな考えに行き着いた。
娘の結婚を気にするより、娘に会えなくなったことの方が、両親にはダメージが大きかったらしい。
 
私はきっと、両親に心配などさせない「いい子」の私でいたかった。
両親の圧に、悲しそうな顔に、心が痛かった。
だっていい子でいられないと、好きでいてもらえないかもしれないと心のどこかで思っていた。
でも、きっとそうではなくて。
本当は、どんな私でも私のことを好きのままでいてくれる。
両親は心の中でまだヤキモキしているかもしれないが、私は私が選んだ自分のままでいい。
 
深夜のBARで、私のことを好きでいてくれる人たちを思い出したら、ざわついた心が落ち着いた。
おかげで、余計なお世話です! と心のモヤモヤをそのまま吐き出さずに済んだ。
「両親は帰ってきて欲しいとか言うでしょ?」
と言ってきた目の前の男に、一息ついて笑って答える。
「私の親は、娘にそんなこと言って、実家に帰ってこなくなることの方が怖いんですよ」
その男性は目を丸くする。
私の言葉がよほど意外だったらしい。
「親の方が強いんじゃないのか!?」
自分に言い聞かせるように言う彼を横目で見つつ、
「娘さんに将来、そんなこと言ったら、一生口聞いてくれないかもしれませんよ?」
と冗談めかして言うのだった。
 
 
 
 
***
 
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