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ペーパードライバーを4日間で克服したら世界の広さが2倍になった話


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西條みね子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
大学時代に免許を取って以来、10年間ペーパードライバーを貫いてきた。
卒業と共に就職で上京し、都心の恐ろしいまでの交通量にたまげた。そもそも、自動車学校で教習を受けていた時から運転が怪しく、何とか卒業して免許を手に入れたものの「運転怖い」としか思えなかった。そこに片側5車線もある巨大な道路に、すさまじい交通量である。こんな所で運転したら、人を殺すか、自分が死ぬかだ。恐ろしい。
そして、都心の網目のように張り巡らされた交通網の便利さを知り「車がなくても生活に全く困らない」を体感してからは、「運転、できた方が良いんだろうなぁ」と思いながらも、必要性を感じないだの、車がないだの、忙しいだの、いろんな言葉を並べながら、努めて車のことを忘れる日々であった。
 
都心では、こういった車と縁遠い人は、一定数いると思う。うちの会社のある年の新入社員は、8人中、免許を持っていたのは宮崎出身の男の子1人だけだった。
「いや、私も運転出来ないんだけど、さすがに免許は取ったよ??」
「必要性感じないし……」
「でも、写真のついた身分証明の時とか……」
「マイナンバーカード作れば良いですよ」
「……」
都会っ子の彼らはサラリと流し、無事故無違反のゴールド免許が、20万もかけた身分証明書にしかなっていない私はぐぬぬと呻くしかなかった。悔しくも全く同意である。
 
そんなある時、父が広島から上京し、私の家に泊まりに来た。
夕飯を食べながら、父は穏やかに言った。
「車を運転できるように、なりんさい」
広島弁の父の言葉よりも、発言そのものに驚いたのは私である。比較的自由な家庭で、子供の頃からほとんど親の干渉を受けなかった。記憶にある中で、父から反対されたことは「オートバイやバイクに乗ること(危ないから)」「大学の学生寮はやめておけ(学生運動時代に大学生活を送った父らしい提言である)」の二つだけだ。
穏やかでも何でも、何かをしろと父から言われたこと自体が珍しい。
父は、栃木県の日光で開催される研修に参加し、帰りに東京の私の家に寄った所だった。日光での研修中、1日空いた日があり、レンタカーを借りて日光のドライブを楽しんだらしい。雪の残る日光の山々の美しさを楽しそうに語ったのち、運転するように、と言い残したあとは、栃木の名物の話などをし、翌日、広島に帰って行った。
 
父の帰郷後、考えた。
あった方が良い、とは思っていた。都心で暮らしているが、出身は広島である。車がなければスーパーに行くのさえ身動き取れない不便さは、重々承知だ。実家に帰るたびに、齢70になろうかという父母が車を運転し、私が助手席に座っている構図は、何かがおかしい、とは思っていた。
そして、日頃あれこれ言わない父の、珍しい発言である。そもそも父が日光まで出かけた理由は、何がしかの業務システムを導入するための研修だった。自営業を営む父が、齢70にして手探りでシステムなど学んでいるのである。三十代の自分が、騙されたと思って車の運転くらい挑戦してみても良いではないか。
 
気が向いた時がタイミングである。
早速、「ペーパードライバー講習」で検索する。検索してみて驚いた。再び免許を取る、くらいの覚悟で臨んだのだが、ほとんどの研修が3、4日なのだ。ホントに?? 免許取る時は20日くらいかかったよ??
3日はさすがに怖いので選ぶなら4日だ。わずか1日の違いだが、少しでも死ぬ確率は下げたい。「お作法よりも実践」をモットーにした講習に目星をつけ、4日間の講習を申し込んだ。
いよいよ初日、10年ぶりにアクセルを踏む。4日間しかないので、実践重視で要点がギュッと詰め込まれている。「とにかく運転すること」に要点を絞った指導は、「人を殺さず、自分も死なずにすむ方法を教えてくれ!」と思っていた私に手応えを感じさせてくれた。
目を白黒させてアクセルを踏みつつ、ぼんやりと考えた。
「これは、いけるかもしれない……」
最終日が終わり、わずか4日間の練習で、確かに私は運転ができるようになっていた。
 
運転の感覚を忘れないように出来るか否かは、自分次第である。せっかく一歩を踏み出せたのだ。忘れちゃ困る。
2週間後、私は生まれて初めてレンタカーを借りた。時間通りに帰ってこれないことを想定し、丸一日予約する。死なない保証がないので、友人たちを誘うことはせず、ソロ活、いや、むしろ闇練である。若葉マークを車の前後に貼り、準備は万端だ。
出かけることにした場所は、都心から離れた大型のホームセンターだ。観葉植物が充実しているらしい。日曜日の晴天の中、そろそろと車を走らせる。ドキドキしながら車線変更をし、
「はいごめん、はいごめん」
などと車の中で声を出しながら、間に入れてもらう。皆、親切だ。
出かけた先のホームセンターは予想をはるかに超える充実の品揃えで、興奮してあれこれ買い物をした後、鼻歌を歌いながら帰路についた。
 
なるほど。車を運転するとはこういうことなのだ。
電車のアクセスが悪い郊外のホームセンターに行き、買い物をする。時間を気にせず、鼻歌を歌いながら帰る。荷物が増えても平気だ。トランクがあるのだから。
これまで、電車で行ける所だけに行き、自分が持てるだけのものを持つ世界で生きていた自分は、世界の半分しか知らなかったのではないか……。
 
その後、月に1回のペースで闇練を繰り返し、半年後に友人たちと小旅行に行った時、それは確信に変わった。旅行が大好きな私だが、自分が運転も出来ないのにレンタカーが必要な旅を提案するのは、親しい仲でも気が引ける。その制約がないのである。
決して運転が上手いわけではない。が、若葉マークの最低限でも「できる」か「できない」かは雲泥の差だ。
運転を手に入れるということは、自由を手に入れることなんだな……。
地方での運転スキルは生活のためかもしれないが、都心での運転スキルは、より、自由を手に入れるためなのだ。
あの時、父が言いたかったことが、理解できた気がした。
 
数年後、私と父は南アフリカのハイウェイを飛ばしていた。はるばる旅行に来たのである。国際免許を手に170kmの爆速で南アフリカを走ることになろうとは、あの頃の私は想像だにしなかっただろう。
私がやったことは、Googleで検索して、4日間の講習を受けた、それだけだ。それだけで世界の広さが2倍になったのである。
同じように、踏み出すか踏み出さないか、それだけで2倍になるもので、世の中は溢れているのだろう。1を10にしなくても、0を1にする、その勇気で世界はいくらでも鮮やかになるのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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