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過去イチの体験もの~ラスベガスの18禁お色気ショーの出演者になる~


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:飯塚 真由美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
旅先で体験ものに挑戦するのが好きだ。
沖縄では三線に挑戦した。
三線の楽譜は漢字だ。その時点でパニックだった。三本しか絃が無いのに、どうしてこんなに難しいのだろう? 大苦戦し、2時間習ってやっと「島人ぬ宝」のイントロがひけるようになったというお粗末な上達ぶりだった。
三線を聞くのと弾くのでは大違い、と身をもって知った体験だった。
 
過去イチの体験ものは、ラスベガスの1人旅の時だった。
カジノの街ラスベガスは、世界の人がハメを外しに来る街でもある。そんな訳で、お色気系の夜のショーも数多く存在する。
夜な夜な繰り広げられるセクシーお姉さんのショー、フラミンゴホテルのXバーレスク。紹介サイトを見ると、トップレスとか、官能的とか、18禁とか、ドキドキするような言葉が並んでいた。
 
関連して、昼間に実際のショーの舞台を使い、セクシーお姉さんが講師になってショーガールのメイクやダンスに入門する、というラスベガスらしい体験ができるコースを見つけた。
1時間半のプログラムにもかかわらず、この体験は「Xバーレスクユニバーシティ」と名付けられていた。大学と名乗るのも笑えた。女性限定プログラムなので、いわば女子大だ。
日本語のクチコミは皆無で不安だったが、好奇心が勝って私は「進学」を決意した。
 
ここの夜のショーは見たことが無い。シアターの入り口に貼られた、きわどい衣装の出演者達のポスターを見て、一瞬たじろいだ。でも、勇気を出して劇場のドアを押した。
 
観客用の小さな丸テーブルと椅子が並び、奥にステージがあった。
若い女性の5人グループや、60代とおぼしきお母さんと娘、という参加者もいた。
日本人、というか東洋人は私ひとり。メジャーリーグに挑戦する日本人選手の気分だ。心細さとワクワクが入り混じった思いで、「教材」として私の席に用意された真っ赤な口紅と長いつけまつげを眺めていた。
 
プログラムの前半はメイク実習だった。先生は夜ステージに立っているダンサーだ。先生が露出度満点な衣装で登場するのを勝手に期待していたのだが、これからダンスレッスンです、という感じのスポーツウェアだった。
確かにあんな露出の多い格好でいたら先生も寒いよね、なんて現実的な事を考えて納得する。
 
慣れない手付きの60代女性のつけまつげを手伝いながら、先生が身の上話をしているのが聞こえてくる。
「この仕事を始めようと思った時、祖母が大反対して。それでも一生懸命頑張ったから、今ではすごく応援してくれます」いい話だ。
こんな裏話も教えてくれた。ダンサーがステージに出る時は、つけまつげはもちろん、ゴージャスなつけ毛など、色々な付属品をつける。
「ショーが終わると、急いで車で帰るの。だから、つけまつげもつけ毛も、外すのは車の中。外したつけまつげはここ、つけ毛はここ、なんて置き場所も決めてる」つけまつげを外す時の解放感、とても共感できる。仕事は終わった、やれやれ、と普段の自分に戻る瞬間だろう。
「家に帰ると一緒に住んでる彼から言われるの。さっきまでステージに出てた人とは思えないねって」きらびやかなお色気ショーの裏側を見た気がして笑った。
 
後半はステージに上がってダンス実習だ。時間にして1分位にまとめられた、セクシーな動きの多い振付を習う。この時の講師は男性だったが、動きは驚きの色気を放っていた。
対照的に生徒達は、同じことをやっているつもりなのに色気ゼロ。5人グループは、お互いのぎこちない姿を見て爆笑していた。難しさを痛感する。
 
セクシーに踊るには? のアドバイスももらった。
「歩く時はゆっくり」確かに、スタスタ歩くと現実的で素のままという感じがする。
「下を向く時は髪の毛をばさーっと落とすべし」結んでいた髪の毛を慌ててほどく。
 
卒業試験の時間になった。
練習した振付を2グループに分けてステージで披露し、首席の卒業生を決める。
オーディションって、こんな気分なのだろうか。
私は後半グループになった。もうすぐやってくる本番を前に、緊張しながら前半グループの健闘ぶりを眺め、拍手を送った。
 
私達の出番が来た。私はステージの端に陣取った。
振付を教えてくれた先生が舞台の下でカンペ代わりに一緒に踊るので、振付を忘れる心配は無い。あとは、自分なりにいかにセクシーさを出せるかが勝負だ。
 
大音量で曲が始まった。頑張れ、私。
先生のアドバイスを思い出して実践する。歩く時はゆっくり。よし、できた。
下を向く時は髪の毛をばさーっと。いい感じいい感じ。
私はダンスを習っていて、この振付に入っていたいくつかの動き、例えば、胸を右、前、左、後ろのルートで回すといった動作は、レッスンのウォーミングアップで毎週やっていた。遠くラスベガスの地で役に立つとは驚きだった。
「セクシーに見えてますように」と祈りつつ、ちょっと緩急をつけて胸を回してみた。
 
あっという間に本番は終わってしまった。
中2階の音響ブースから声が聞こえたが、本番の余韻に浸っていたので何を言ったか聞き取れなかった。
客席の最前列で見ていたセクシーお姉さんが私の近くに駆け寄り、あなたよ! と私を指した。
ステージの上の皆の視線が集まる。
信じられなかった。首席で卒業だ。慣れない土地に乗り込んで勝ち取った評価。メジャー挑戦1年目で活躍できた気分で、ものすごく嬉しかった。
 
卒業証書と共に、私だけポスターをいただくことができた。誇らしかった。シアターの入口で見た、きわどい衣装のダンサー達の写真がコラージュされたものだった。
家に飾るのは躊躇するが、素晴らしい思い出と共に、折れないように大切に日本に持ち帰った。
 
次にラスベガスに行けたら、このシアターの夜のショーを見に行きたい。
昼のプログラムで体験して、セクシーに踊ることの難しさを痛感し、ステージに上がるプロに敬意を覚えた。裏話も聞かせてもらって親しみも湧いた。
いきなり本番を見るだけでは味わえない、より深い楽しみ方ができるに違いない。
 
体験ものは、難しさに体当たりすることで、より深く良さを味わえるようになる。
上手くできなくても、格好悪くても良いのだ。例えば何かのショーの最後に「誰かやってみたい人は?」と声がかかったら、手をあげないと絶対に損だ。忘れられない思い出になるだろう。
 
次の旅では、何か体験ものに挑戦してみてはいかがだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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