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門前払い


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記事:工藤洋子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
私は同時通訳を仕事にしていますが、先日いつもやっている大学の学内会議での通訳にて、こんな文章が聞こえてきました。
 
「その申請は文科省に門前払いで……」
 
え〜?
門前払い??
そこで使う???
 
と思ったのも一瞬、会議はどんどん進みます。
 
私がその一瞬でひねり出したのは、
 
“rejected at once”
 
でした。
 
そもそも「門前払い」とは、
 
1 江戸時代の追放刑の中で最も軽いもので、奉行所の門前から追放すること。
2 来訪者を、面会せずに追い返すこと「門前払いを食わす」
(『広辞苑第三版』より)
 
という意味だそうです。1の意味が転じて今では2の意味で使用されることが多いということでしょうか。
 
研究社の新英和大辞典では、”turn away (a visitor) at the door, refuse to see (a person)”などと表現されており、日本語の意味のほぼ直訳という感じです。
 
私が直面した状況は、「申請書が文科省に受け付けてもらう前に却下された」と考えられるので、ならばrejectというチョイスは悪くなかったと言えるかもしれません。refuseを使うとこの場面ではちょっとキツすぎるかな。瞬間的にきっとそう考えて私もrejectを使ったのでしょう。もう当人も覚えておりませんが。
 
このように通訳の場面では字義通りの意味だけでなく、その場面でのニュアンスや意味合いを把握して話す必要があります。特に同時通訳では迷っていたら話が先に進んでしまいます。重要でないと判断したら、次善の策ですがその部分はカットし、次の重要な部分を落とさないように伝えなくてはなりません。
 
全体を俯瞰しての状況判断、そして今の自分にできうる限りの適訳を探す過程で、左脳を使った逐次処理をしていたら到底間に合いません。「門前払い」と聞いた瞬間にその場面をイメージ化、そしてそのイメージに合う単語を自分のボキャブラリーストックから引っ張り出した訳です。そのストックもイメージで収納してあるので、処理時間は一瞬です。
 
さらに「え〜?」と思ったことで瞬間的に脳がフリーズしているので、そのフリーズによる遅れも取り戻すべく状況判断をします。先日の場合は、スピーカーの教授が早口でなかったし、非常にロジカルにお話しされる方だったため、問題なく進むことができました。
 
ね?イメージ処理って重要でしょう?
 
「私は同時通訳なんてやらないもん!」と思った方、脳内のイメージ処理と考えるとそうでもありませんよ? 一瞬の判断を必要とする場面、どんな人にでも日常的にあるでしょう。
 
例えば、車の運転中。前の車の様子を見ながらルームミラーで後ろの様子を確認し、車線変更する時には横目でサイドミラーと目視で後続車の様子を確認し、という具合に常にとっさの判断が必要とされています。途中で歩道にお散歩中の幼稚園生が歩いていたり、脇から合流しようとする軽トラがいたり、常に複数の状況に目を向けておかなければなりません。そんな中で、
 
「えっと、車線変更する前に後ろの車にはまずウィンカーで合図をして、それから3秒後にゆっくりとハンドルを切り……」
 
と逐一手順を確認しているのでは、教習所で路上運転過程に入ったばかりの仮免ドライバーのようではありませんか。教習中なら隣の席に教官が座っていて、危なかったらブレーキ踏んでくれますが、免許取った後は誰も助けてくれません。
 
他にも、そうですね、料理も一瞬の判断とイメージ化が必要な作業でしょう。料理を作るにあたっては、最後にできあがる料理のイメージはもちろんのこと、切った素材が加熱してどうなるのか、などイメージを持っておかないとできあがりが悲惨なことになる可能性が高くなります。そして実際に加熱しているときには見た目、香りなど五感をフルに使った上で混ぜるタイミング、調味料を入れるタイミング、それぞれ判断するわけですよね。レシピ本を読みながら、ひとつひとつ追っていくようでは最後に思ったものができあがるのは難しい、そう感じたことはないでしょうか?
 
料理の工程を紙に書き出すまでの確認をする必要はないのです。でも何を作ろうか、というイメージがぼやけたまま料理を始めると時間はかかるわ、謎の物体Xができるわ、ろくなことがありません。私は料理好きな方ですが、毎日のこととなると頭の中のイメージが曖昧なまま始めてしまうこともあり、そういう時は水分出過ぎの野菜炒めや味が濃過ぎの親子丼などができたりします。
 
これだけ脳内のイメージを活用する料理、高齢者のボケ防止に自治体が講習会を開くこともある、というのも頷けます。
 
こんな風にとにかく、日頃から私たちはイメージをうまく活用して脳に記憶させ、煩雑な手順をイメージで一括処理したり、想像力を必要とする活動を行ったりしているのですね。
 
ここでのポイントは、「どんな人でもイメージ化の脳力を持っている」ということです。
 
「私は記憶力が悪いから」
「そういうの、苦手だから」
 
実は誰でも持っている脳力を活用すれば、語学の習得だけでなく、いろんなことができるようになる……人間ってそんな潜在力を持った存在なのです。色々言い訳をしたくなるときもありますが、常にポジティブに前を向いて生きていきたい、そう思います。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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