メディアグランプリ

カメレオンが、じぶんの色を持つまで


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大江 沙知子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「自分を動物に例えるなら、何だと思いますか」
 
そう問われたら、あなたはどう答えるだろうか。
 
 
私は、カメレオン。
自在に色を変え、その場の空気や相手が求める色に染まる。自分に期待されていることを敏感に察知すべく常にアンテナを張り巡らせている、神経質な女。
 
この特性を身につけたのは、小学生の時だ。
私には2つ上の兄がいる。母は私たちを平等に育ててくれたが、彼の方が何事も先に経験していくので、彼の失敗を見て自分の身の振り方をこっそり学んだ。
 
例えば、兄は毎月課題を提出する通信教育を溜め込んで怒られていたし、ピアノの練習をしなければやっぱり、怒られていた。
 
だから私は、通信教材が届いたら10日で課題を提出し、ピアノの練習も毎日やった。
 
そんな具合で、「手がかからない子」である私に、母は満足していたようだった。
 
この頃の私は、空色だった。
母の期待に応えることが嬉しくて、褒められるたびにもっと頑張ろうと努力し、高みを目指し続けた。
 
 
中学高校に進むと、私は家族以外からの期待も察知するようになった。自分で言うのはちょっと照れ臭いが、当時、真面目で努力家の私は、いわゆる「優等生」として教師からも信頼を寄せられているのを感じていた。
 
中学では3年連続で学級委員を務め、所属していた部活で部長を務め、合唱コンクールの伴走も3年連続で弾いた。
 
高校でも常にトップクラスの成績だったので、合格実績が命の進学校においては、大学受験の期待の星となった。
 
この頃の私は、藍色だった。
真面目に努力すること、それこそが美徳なのだと思い込み、周囲の期待に応え続けた。
 
 
しかしある日、その期待を裏切ってしまう日がきた。
 
私は受験に失敗した。
教師たちの期待の星だった私は、いぶし銀に色褪せた。
 
 
第2志望の大学に進学した私は、当初戸惑っていた。ここでは誰も、私のことを知らない。誰も、私に対して何の期待も抱いていない。これまでのように、私が歩む道筋を示してくれる人はいない。私のこれまでの経歴はリセットされていた。
 
そして、それはすぐに、白い快感に変わった。初めて、誰の色にも縛られない自由を手に入れたのだ。「白」こそが私がずっと憧れていた色だったのだと、その時知った。大学の4年間、私は白い自由を謳歌した。
 
 
しかし、その自由も長くは続かなかった。
卒業後の道を考えた時、私は迷った。この自由を手放したくない。可能性を狭めたくない――そこで、私はある仕事を選んだ。
 
国家公務員という仕事だった。
 
国で働けば、私の手が届く範囲は日本にとどまらず、世界に広がるだろう。つまり「日本代表」になれる。その地位は学生だった私の目に眩しく映り、そのフィールドの広さに心惹かれた。
 
そしてもちろん、根が真面目で努力家の私にとっては、己の利益を越えて公共のために奉仕することも、これ以上ない美徳だった。
 
だから私は、国家公務員になった。
 
しかし、その眩しい光は着任直後からくすんでいった。
 
国家公務員の仕事のうち、テレビで見るような華やかで「白い」世界はほんの一部だ。普段は灰色のオフィスに昼夜を問わず籠りきり、文字で埋め尽くされた真っ黒な書類とにらめっこしていた。
 
そんな日常を過ごすうちに、次第に私の心も黒く沈んでいった。
私は4年で公務員を辞めた。それは、社会が敷いたレールから「優等生」が逸脱した瞬間でもあった。
 
 
さて、紆余曲折あり、私は在宅で仕事をするようになった。
 
ライターという仕事だ。
 
駆け出しのライターが獲得できる仕事の多くは、1文字1円に届かず、しかも自分の名前は出ないという厳しい条件だ。つまり、格安でかつ、誰かに成り代わって、まるでその人が書いているかのように文章を書く必要がある。
 
その仕事において、自分の個性は必要ない。
いかに相手の色に染まるか――言い換えると、自分自身は空気のように透明になれるかが肝なのだ。
 
そんなライターの仕事は、カメレオンにとってうってつけだったはずだ。
 
 
しかし、私はここで疑問がわいてきた。
私が書いた文章が公表されても、誰も私が書いたことを知らない。
それどころか、私が書いた文章を自分で読み返しても、そこに私はいない。どことなく違和感を感じるというか、不気味ですらあった。
 
 
そこで初めて、私は私だけの色が欲しくなった。
これまでずっと周囲が求める色に染まることが得意で、それが美徳だと思い込んでいたけれど、もうそろそろ自分だけの色を求めてもいいんじゃないだろうか。
 
カメレオンが、意思を持った瞬間だった。
 
そこで私は、フィクションを書くようになった。
私にしか書けないもの、その瞬間にしか書けないものを生み出していく。その文章の色は、私の情熱の色。次の作品は、何色だろう――仕上がるまで私自身にも予想がつかないのが面白い。
 
 
作家の私は、じぶんの色。
意思を持つカメレオンは、新たな色を纏って歩き出した。
 
さあ、今日は何色の言葉を紡ごうか。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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