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ケンカ売ってるみたいなカレー店主の、激辛な愛


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大村隆(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「え~と、取りあえず注文してもいいですか。まずはカレーをいただいてから、お話を聞かせていただこうと思います」
 
午後2時過ぎ。簡単に挨拶をすませてカウンターに座ると、私はメニュー表を広げた。取材前の約束通り、ランチタイムが終わってから入店。カウンターと小さなテーブルが二つだけの店内に、客はもういなかった。
 
「はあ。じゃ、何にします?」。ひょろっとした40代くらいの男性は、ちょっとダルそうな感じでそう聞いてきた。
 
「う~ん、どれがいいですかね。なんか、お店の代表的なメニューや、お勧めみたいなのってありますか?」
 
「全部がお勧めです」。ぶっきらぼうに店主は答えた。
 
なんだか、雲行きがあやしい。歓迎されていないようだ。でも、取材相手からこうした態度を取られることはそれほど珍しくはない。向こうの空気に飲み込まれないように気を付けながら、なにげない風を装って私は会話を続けた。
 
「ああ、そりゃ全部がお勧めですよね。カレーは撮影もさせていただくので、写真映えするようなモノがいいですね。そういう点でいうと、どれがいいでしょうか?」
 
ところが、店主から「それなら、このカレーが……」とか、「じゃあ、こちらはどうでしょうか」といったセリフは返ってこなかった。短い沈黙のあとに聞こえてきたのは、まったく想定外の言葉だ。
 
「あのさ、なんか決めつけてないですか?」
 
「え?」
 
「つまり、分かりやすい答えのようなものだけを探していませんか? そもそも、あなたにとってカレーってなんですか?」
 
いったい何を聞かれているのか? カレー店の店主から、カレーについての質問を受けるなんて思ってもみなかった。しかも、どこか哲学的な問いだ。考える間もなく、彼はさらにダルそうに語り続けた。
 
「それにさ、よく『お勧めは?』っていうお客がいるけど、初めて会った人へのお勧めなんて分かるわけないんですよ。その人の好みも知らないし、いまどんな体調で、そのために何を欲しているのか、昨日は何を食べたのか、こっちにはまったく情報がないんだから」
 
……もしかして、絡まれているのだろうか。とにかく、とんでもない店に取材を頼んでしまったことは間違いないようだ。紹介してくれた人から「クセは強いけど、面白い店だよ」とは聞いていた。なるほど、クセは強烈だ。だけど面白さのカケラもないじゃないか。背中に冷たい汗が滲んできた。
 
「もういい!」と叫び、バンっとカウンターを叩いて店を出てやろう。そういう衝動に駆られた。でも、なんとか踏みとどまった。怒るのも、帰るのもいつでもできる。ここで感情的に反応したら、すべてが終わってしまうのだ。
 
「それもそうですね。分かるわけ、ないですよね。お勧めなんて」。私は少し身を乗り出して、店主の目を見つめながらうなずいた。
 
すると、彼はさらにヒートアップ。そこからは独演会状態となった。
 
「カレーってなんですか? ご飯になにか掛かっていたらカレーなんですか? だったらマーボ丼もカレーですか?」
 
「カレーってね、そもそも日本人が創り出したもんなんですよ。本場では食事とか、ごちそうとか、それくらいの意味。だからほんとは、全部がカレーなんです」
 
「カレーについて、ほとんどの人はちゃんと考えたことがない。なぜなら興味を持っていないから。カレーってこういうものっていうイメージがあって、それからズレてなければいい。それ以上、知ろうともしない」
 
「ただ詰め込むだけ、腹を満たすだけだったら、それは食事じゃなくてモノ。そうしたモノが欲しいんなら、ココ○チとか、○時間カレーとかに行ったほうがいい。僕はモノじゃなくて、『食事』を提供したい。手間暇かけて、愛情を込めた一品を食べてもらいたいんですよ」
 
……張り詰めていた空気が、ちょっとだけ緩んできた。口調も心なしか穏やかになったようだ。
 
「そもそも、なんで自分が料理に興味持つようになったかって言ったら、母ちゃんの影響なんですよね」。店主は、ほんの少し照れ笑いを浮かべながら話し続けた。
 
「小さい頃、テレビで知らない料理を見るたびに『あれ食べたい』って母ちゃんにリクエストしてたんです。するとね、どんだけ時間をかけてでも母ちゃんは作ってくれたんですよ。その頃はインターネットなんてないから、きっと図書館なんかで素材とか味付けとか調べてたんでしょうね。僕に食べさせるためだけに、喜ばせるためだけに。『料理は相手を想って作る』っていう僕のスタンスは、そんな母ちゃんから影響を受けてるんだと思うんですよね」
 
九州の離島で生まれ育ったという彼は、高校卒業後、数年かけて北アフリカや中東などを放浪。現地で知りあった人の家に招かれてご馳走になることも多かったという。
 
「食事のときには、自然とその土地の食文化の話になるんです。調理の仕方も丁寧に教えてくれましたね。やっぱり、そこには食べる人への愛情が込められているんです。料理って行為は、愛情なんですよ。そうして作られた食事は本当に美味しいし、すっごく楽しい。心が満たされるんですよね。反対に、腹に何かを詰め込むだけのモノを作るんなら、それはただの作業。そんなもん、僕は提供したくないんですよね」
 
だから、だったのか……。当初、確かに私は、取材対象の「モノ」としてカレーを扱おうとしていた。それで彼は、ああいう絡み系の反応をしていたのだ。
 
「よく、カレー売ってんのか、ケンカ売ってんのかわかんないって言われます。自分では愛を売ってるつもりなんですけどね」。そう語り終えると、店主はふっと厨房に消えた。壁のアナログ時計を見ると、もう3時半を過ぎていた。
 
「はい、これ」。戻ってきた店主が持ってきてくれたのは、赤味を帯びたルーが皿からこぼれるほど盛られた一品。見かけ以上の辛さが、すきっ腹に沁みる……。ひと口ごとに身体が奥の方から火照っていくようだ。
 
でも、「食事」が進むたびに、私にもだんだんと分かってきた。その熱を生み出しているのは、スパイスの力だけではないのだ。きっと。
 
 
 
 
***
 
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