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人生初の番頭は、かけがえのない記憶となった。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:平田台(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
「きれい。とっても、うつくしい海ですね。今は、こんなに穏やかなのに」同年代の女性がそう言った。その丸い瞳には、うっすらと、涙が浮かんでいた。
宮城県南三陸町の避難所に向かう車中である。男性陣は2人。ひとりは50代半ばの体育会系大先輩、もうひとりは小柄で関西訛りの一回りほど上のお兄さんだ。職場も、年齢も様々の4人。揃って避難所にある大浴場の「番頭」をしに向かうところだ。
 
2011年3月11日、東日本大震災。
私は出向中で東京に暮らしていた。
その時は、会社の入る建物の4階にいた。大きく、長い揺れが続いた。
「危ない!」後輩の肩を抱き、2人でひとつのデスクの下に逃げ込んだ。
女性2人とは言え、ふたりとも元バスケ選手。身長は170センチを超え、お世辞にも華奢とは言えない。正に、「頭隠して、尻隠さず」だった。信じていただけないかもしれないが、「死んでしまう!」と本気で思い、とっさに取った行動だった。
その日、電車は止まり、帰宅は翌日。それでも、少しずつ日常が戻り、気づくと桜は満開になっていた。
 
新年度早々、同じ部署の男性先輩が1か月の間福島に業務応援に行くこととなった。
「昆布、持って行ってください! 放射能に負けないためにも!」
苦笑いをされてしまったが、私なりに真面目に考えていた。被災地で大変な思いをされている人、それを支える人の力になりたかった。
自分にも何かできないかと考えたものの、メディアをテレビからラジオに変え、家でつける照明は1つまで。雀の涙ほどの節電をしていたくらいだった。
そんななか、会社が保有している車両のボイラー機能使い、避難所に「お湯」を提供することが決まった。電気は復旧したものの、水道とガスが戻るめどが立たないのだという。長期間の支援になる予定で、5月のゴールデンウイーク期間を使い、出向先である本社・本部で先遣隊を組むこととなった。迷わず手を挙げた。
 
先遣隊に名乗りを上げた4人は、南三陸町の避難所から40分程のところに前泊し、初めて避難所に向かうところだった。給水所で大量の水を専用タンクに入れた後、坂を上りきると、そのおだやかで美しい海が目に入った。ある角を曲がると、「いやだなぁ。泣けてくるよ」大先輩の顔が、歪んでいた。目線を追って、脇を流れる川に視線を移すと、その両側、川面から5メートルほどの高さのところに、布団やら、衣類やらが木々にひっかかっている。
土気色の中で、掛布団の赤色が、やけに鮮やかだった。
「全てが流される」
テレビで見るのと、自分の目で見るのとでは、まったくの別次元である。
大先輩に、返す言葉がみつからず、「本当ですね」とだけ答えた。
 
甘かった。来るんじゃなかった。番頭と言ったって、何が出来るというのだろうか。
想像もできない壮絶な経験をされたであろう方々に、何と声をかければ良いのだろうか。
分からなかった。
恥ずかしいことだが、本当に、帰りたかった。
 
前泊の時、先入りしていた先輩の女性から、「お風呂に入れる。町の方々は、それをとても喜んでくださるの。その笑顔が本当にあたたかいの」と聞いていたが、その話はすっかり打ち消されていた。
心が、ただただ、重たかった。
 
そんな私の気持ちをよそに、車は、避難所に到着してしまった。
4人1チームで3日間の活動だ。1日目は前のチームから引き継ぎを受ける、2日目はチーム単独で動き、3日目は次のチームに引き継ぐ。リレー方式で繋いでいった。
お風呂に入られる方は、午前中はご高齢の方、夕方頃は学生さん、夕方以降は仕事後の男性といった感じだ。
 
早速、お風呂の準備に取り掛かる。大きな風呂釜の掃除からだ。お湯を抜くと、土木工事後の方のものだろう、底には泥が溜まっていた。風呂釜、洗い場、脱衣所と掃除をして、最後にお湯をいれると、ふんわりとした湯気の中に、心地よい汗が額を流れた。
 
のれんをかけ、人生初の番頭だ。
「おはようございます。ごゆっくりされてください」
精一杯だ。これ以上、何もお話し掛けはできない。私からは、笑ってはいけない。あれこれ考えて、カチコチになっていた。そうこうしているうちに、お風呂から上がられてくる方々が、「ありがとうございました」「良いお湯でしたー」と、ぽっと赤くなった頬で、笑顔を添えて、重ね重ね言ってくださるのだった。
つい、涙がこぼれそうになった。
そして、我に返った。
笑ってはいけないなどと考える前に、泣いている場合ではない。
出来ることを、精一杯やろう。そう思った。
1時間おきの風呂場の見回りとお掃除も、心を込めて、ていねいに。髪の毛は落ちていないか、風呂桶に湯垢は残っていないか、お困りごとはないだろうか。
目を見て、挨拶し「ごゆっくり、あったまってください」ねがう様にお伝えした。
 
2日目になると、混雑中の待ち時間に声をかけていただくことが増えた。
体があたたまると、心もほころぶのか、心の内を話してくださる方もいた。
「ぜーんぶ、なくなっちゃったからね。これからどうすればいいか、わからないんだよ」
どう答えていいかわからなかった。ただただ、頷くだけだった。それでも最後には「ありがとうね」と、深々と頭を下げられ、言ってくださるのだった。
私も、腰と頭をめいっぱい低くし、「ありがとうございます。明日も、いらしてくださいね」と返すのだった。
2か月以上が経ち、寝るところもままならない、トイレも手洗いも、バケツからひしゃくで掬った水を使う生活である。そんななかでも、おひとりおひとりが深々とお礼をしてくださる。そのたびに、心が、ぽっと温まった。
 
自分の甘さを痛感してデビューした番頭。「して差し上げよう」そんな言葉を忘れ、ただただ目の前の方々、出来事に懸命に向き合っていたら、沢山のかけがえのない言葉、笑顔をいただいていた。
 
苦しい時でも、受け入れる、前を向く、謙虚に生きる。
こんなにも尊く、うつくしい生き方があるのだろうか。
 
私には決して「わかる」ことのできない経験をされ、言葉にならない想いを抱えられているであろう方々。町の方々から、かけがえのないことを教えていただくこととなるとは、思ってもみなかった。遠く及ばないが、自分なりに精一杯「番頭」として、過ごしたからこそ、触れさせていただけた生き方だったかもしれない。
 
3日目。帰りの車中からは、きらきらと夕日を映す、凪いだ海が見えた。
「また来たいね」4人が口をそろえた。
 
気づけば11年が経った。日々はめまぐるしく過ぎていく。
 
「皆さん、お元気ですか? 私は元気に、今日を精一杯生きています!」
いつでも、そう言えるように。
教えていただいた、うつくしい生き方に、少しでも、近づけるように。
明日も一日頑張ろう!丁寧に。一生懸命に。出逢わせていただいた方々への感謝を込めて。
 
 
 
 
***
 
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