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メディアグランプリ

モヤシ炒め男のマンスプレイニング


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:レティシア(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
その日私は、サウナでガッツリととのった後、オロポとサ飯を堪能していた。オロポとは、オロナミンCとポカリスエットを1:1で割ったサウナードリンク、サ飯とは、サウナの後の食事のことである。
 
タルタルソースたっぷりのチキン南蛮に甘酢あんを絡めた時、隣のテーブルから得意げな男の声が聞こえてきた。
 
「やりがいを持ってできる仕事じゃないとね。俺はさ……」
 
ギョッとして隣を盗み見ると、語っているのは、40絡みの中年男、聞かされているのは20代とおぼしき美人のおねえさんである。おねえさんは、控えめに相槌を打ちながら、男の質問に言葉少なに答えている。
 
一緒にサウナに来ているということはカップルなのだろうか。それにしてもアンバランスな組み合わせである。
 
「そんな仕事やめちゃったら? 将来ないでしょ」
「いえ、でも、今の仕事でキャリアを積んで、いつか起業したいと思ってて」
「キャリアねえ。キャリアを積むっていうのは、自分の能力をより効率的に発揮できるようになるってことでしょ。例えばさ……」
 
男が自論を展開するにつれ、声のボリュームが上がっていき、私の耳にも途切れ途切れに入ってくる。
 
いやー、気持ちいいんだろうな。若い女の子に上から目線で偉そうに語るのは。しかし、おねえさんよ、こういう男はヤバいぜ?
 
男性が女性に、見下した態度で語ることを「マンスプレイニング」と言う。英語のman(男性)とexplain(説明する)を組み合わせた造語である。私も若い頃にはよくオッサンたちのマンスプレイニングの餌食になった。今でもマウント取ろうとしてくるジジイに遭遇することはあるが、話の腰を折る術は覚えた。
 
マンスプレイニングは、他の男性がいる場ではまず行われない。なぜなら、自分の持論の浅さを同性に指摘されるのを恐れるからだ。女性とふたりきりの場で、自分が完全に優位だと確信している時に、マンスプレイニング男は饒舌になる。夫が妻に対して、彼氏が彼女に対して、上司が部下に対して、年長者が年少者に対して、といった感じである。
 
要は、自分に自信のない、ちっちゃい男しかやらない。
 
今もまさに、男にとっては「若い女性とふたりきり」という状況である。「滑稽だなぁ」と思いながら観察しているおばちゃんが隣にいることを除いては。
 
「それで、手取りいくらくらいあるの?」
 
不躾な質問である。
 
「○○万位ですかね……」
「へぇ、それだけしかないの」
 
なんて失礼な男だ。チキン南蛮がまずくなるじぇねえか。
男は自分の収入は開示せず、福沢諭吉の話をしながら、何故か自分に貯金がないことをカミングアウトする。
 
「でもそれは、今後につながる投資をしているからなんだよね」
 
え、詐欺? マルチか何か? おねえさん、仕事辞めちゃダメだ!!! 絶対ダメだ!!
 
心配になって聞き耳を立てていると、男は、前時代的なことを言い出した。
 
「女の子が仕事をしても、大したお金にはならないでしょ。男は、結婚したら、妻には仕事なんかせず、家にいてほしいと思うものなんだよ」
 
アウト。アウトだ。モラハラ男の典型だ。おねえさん、逃げろ、逃げるんだ!
 
男が店員にモヤシ炒めを追加注文し、また話し出そうとした時、おねえさんが口を開いた。
 
「では、私はこれで。明日は10時でしたよね」
 
おお、カップルじゃなかった。仕事関係か。安堵した刹那、男が言い放った。
 
「じゃあ、明日はフルメイクで来てね!」
 
うげー。
 
おねえさんは黙って席を立ち、テーブルにマスクを忘れて行った。
 
男は本を読みながら、運ばれてきたモヤシ炒めを食べ始めた。マスクには気づいていない様子。私はマスクが、というより、おねえさんが気になって仕方がない。
 
チキン南蛮を食べ終えた頃、モヤシ炒め男の向こうにおねえさんの姿が見えた。
 
キョロキョロと辺りを見回していたおねえさんの視線が、私の隣のテーブルに止まる。マスクを忘れたことに気づいたようだ。しかし、おねえさんはしばらく立ち止まった後、そのまま階段を降りて行った。
 
レストランを出て階段を降りると、おねえさんがいたので声をかけてみた。
 
「レストランにマスク忘れていましたよ」
「……そうなんです」
「大変だったね、隣の席だったから聞こえてきちゃったんだけど」
「……はい」
「マスク、取って来ようか?」
「いいんですか?」
「いいよ、待ってて」
 
レストランに戻ると、男は本に夢中で、こちらの動きには気づいていない。テーブルの脇を通る時にさり気なくマスクをピックアップし、おねえさんのところに戻った。
 
「はい」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「どうしても取りに戻りたくなくて」
「まぁ、そうよね。仕事関係の人?」
「そんな感じです」
「大変ね。明日も会わなきゃいけないんでしょ?」
「そうなんです……」
「頑張ってね。応援してる」
「はい」
 
おねえさんが微笑んで、私たちは別れた。モヤシ炒め男は、女たちがこんな会話を交わしていることなど、想像もしていないだろう。しかし、女たちはこうして連帯しているのだよ。がはは。
 
お口直しにもう一度サウナに入ったら、「ユー・レイズ・ミー・アップ」が流れていた。
アイルランドの女性6人の音楽ユニットが「あなたが私に力をくれる」と歌う。
女たちはゆるやかにつながりながら、生きている。
 
マスクのおねえさんが、明日また嫌な目にあいませんように。
いつか、起業する夢が叶いますように。
 
そんなことを思いながら、サウナ室を出た。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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