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眠れない夜にはごみを拾おう


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記事:栗(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
「昨日はよく寝れた?」
「あまり寝れんかった」
またか……。夫と交わす毎朝の会話だ。ぐっすり眠れたという日はあまりない。
 
寝る部屋は別なので、先に起きる私がコーヒーをつくって、起きてくる夫を待って聞く。平日はどうしても仕事のことで頭がいっぱいで、眠りが浅いらしい。休日になんとか昼寝で補っているような状態だ。
 
あいにく私は神経が太いので眠れている。申し訳ない気もするが、こればかりは仕方ない。何かいい方法がないかと思っていたら、最近よいことを知った。それはごみ拾い。それも、自分の家の床をただきれいにすればよいのだ。えっ、それだけ? と思うだろうが、夫が身をもって教えてくれたのだ。
 
五、六年前、夫は営業から企画に配置換えとなり、慣れない仕事に苦戦するようになった。もともと寝つきの悪い夫は、さらに眠れなくなってしまった。一度眠っても何度も目が覚めてしまう。年齢のせいもあるだろうが、眠れないのは精神的にもこたえる。
 
そこから、きれい好きな夫の掃除になぜか拍車がかかった。ずぼらで整理整頓が苦手な私に対して、夫はきっちり整えるのが好き。しかも、気づいたら率先して自分で掃除をしてくれる。それは本当にありがたいことではあった。
 
うちには娘が2人いたので、長い髪の毛がどうしても床に落ちている。最初はその髪の毛を手で拾う程度だったが、ある日、ガムテープでひっつけて一本も残さず取るようになった。クイックルワイパーではだめだという。
 
それに、以前は休みの日にやっていたのに、仕事から帰るなりワイシャツ姿のまま、フローリングにかがみ込んでやるようになったのだ。思わず私は言った。
「それって私への当てつけ?」
「いやいや、俺の足にくっつくのが嫌だからやっているだけ」
確かに私に文句を言うこともなく、黙々と拾ってくれている。
 
「着替えてから、したら?」
自分のがさつさを棚に上げて、私がそう言っても
「気になるから、ちょっとだけ」
 
夕食をつくっている横でペタッ、ペタッという音が響く。どうしてそうできるのか? 私には謎でしかない。なぜなら、いつも帰ってくるなり疲れた~とぼやいているからだ。それなら、ぱっと着替えてソファに寝ころんだほうがいいいのでは?
 
夏になると、もっとすごかった。焼けるような暑さの中、帰ってくるや、また始まる。ペタッ、ペタッ……。汗が額からしたたっている。
「ちょっと~。そんなことするより、シャワーでも浴びたら?」
私だったらそうする。気持ち悪くなるじゃないか。しかし、頑固な夫は
「いやいや、気になるから」
 
ここまでくると全く理解不能だった。娘たちの部屋にまで入ってペタペタするので、彼女らに文句を言われる始末。いやいや、あんたらの髪の毛を始末してくれているんだよ……。
 
ところが、突然、謎が解ける日が来た。なにげなく見ていたテレビに、自律神経専門のお医者さんが出ていた。本をたくさん書いている有名な先生だ。現代の忙しい生活では、自律神経を整えるのがいかに大切かという話をしている。
 
自律神経の中の交感神経が強く働きすぎると、眠れなくなるという話。現代人はもっと副交感神経とのバランスをとったほうがいいとのこと。
「そのために、外から帰ってきたときにちょっとした掃除をするといいですよ」
 
えっ、今、なんて?
 
「私は仕事から戻ったら、すぐ引き出しの中を1つ片付けるんです。それだけで切り替えができるんです」
「むしろごろっと寝転んだりしないほうがいいんですよ」
 
なんということだろう、夫のやっていることそのままじゃないか。理解不能どころか、むしろ大正解だったのだ。交感神経優位のお疲れモードから切り替えるために、自然とやっていたなんて。
 
これで謎が解けた。人間は頭で考えるより先に体が動くようにできているのかもしれない。帰ってきた夫にテレビの話をすると
「確かに何も考えずに、ごみを拾うことに集中しているな~」
とのこと。
 
ごみ拾いをする、つまり頭を空っぽにして1つのことに向き合う。それはちょうど瞑想のような効果ですっきりするのではないだろうか。掃除なら部屋もきれいになるし、一石二鳥だ。
 
それと同時に、もう一つ気づいたことがある。夫にはこれといって趣味がなく、夢中になって遊ぶようなことがなかった。そういう姿勢も眠りにくさに影響していたのかもしれない。
 
まじめで働き者な夫には感謝しかないが、その分、仕事上のきついことから逃げるすべを知らないのかも。嫌な上司や部下の言葉がぐるぐる頭にこだましていたら、それは眠れなくなるに決まっている。そういう夫にとって、ごみ拾いで頭を空っぽにするのは大事な切り替えの時間だったのだ。
 
今、まだまだぐっすりとはいかないが、少しずつ切り替えることができてきたようだ。掃除をしてくれる夫に感謝しながら、次の眠れない日には私も一緒にごみ拾いしてみようか。ガムテープはたっぷり用意してあるからね。
 
 
 
 
***
 
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