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あと10㎝身長が低かったら、人生終わっていたかもしれない話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:那須信寛(ライティング・ゼミNEO)
 
 
仕事が終わり、帰り支度を始めた夕方頃、僕の携帯に着信が入った。
「もしもし、新潟県警の○○ですけど、那須さんの携帯でよろしかったでしょうか?」
新潟県警? なんで僕に警察から、しかも新潟から連絡が来るのだろう。
「はい、那須です」
「えーと、那須信寛さん?」
「はい、そうです」
「えーと、新潟タクシー強盗殺人事件を知ってますか?」
「いや、知りません」
「3年前の事件なんですが、懸賞金が出ていて、警察に来た目撃情報を辿っていったら那須さんにいきついたというわけなんです」
え? どういうこと? 疑われてるの? 警察に疑われるようなことをした覚えは全くない。だいたい僕は公立中学校の一教員として、きちんと真面目に生活している。道端で財布を拾っても警察に届けるし、スーパーの中で財布を拾ったときなんか、大声で、財布落ちてましたよー! と叫んで、持ち主に返してあげる親切な男だ。
そんな僕が、タクシー強盗? しかも殺人? 冗談じゃない。
「目撃情報って誰からのなんですか?」
「それは言えないことになってるんですよ。すいません」
それもそうか。たしかに、それを聞いたら、今すぐ電話して、怒鳴り散らしてしまうだろう。
「それで、僕はいったいどうすれば良いんですか?」
「はい、伺いたいことがあるんですが、今、東京にお住まいですよね?」
「はい」
「新潟に何か縁があったりしませんか? もしくは、毎年旅行に来られているとか」
「いや、縁はまったくありません。行ったこともたしか……」
僕は脳内の記憶を探った、新潟に行ったことは一度しかないと思う。前の職場の職員旅行だ。
「一度だけだと思います」
「そうですか、那須さんとしては、身に覚えのない話だと思いますが、目撃情報を提供してくれた方に『違いました』、という報告をしなければいけないんですね。そのために、一度お会いしたいのですが、いつがよろしいですか?」
「え? 新潟から来るんですか? わざわざ?」
「そういう決まりになってるんですよ。お忙しいところすいません」
いや、忙しいとかそういう問題じゃなくて、新潟からわざわざ来るほど僕は疑われているのか? だんだん怖くなってきた。お互いの予定のやり取りをして、一週間後の夜7時に、職場から少し離れた駅の改札で待ち合わせることになった。
 
『家に帰ってから、気になって、新潟タクシー強盗殺人事件について調べてみた。
2009年11月1日に午前1時30分頃、路上停車中のタクシーの中から上半身から血を流したタクシー運転手の男性の遺体が発見された。タクシー内の売上金はなくなっていた』
 
本当にあった事件だった(当たり前だが)。事件の内容と、被害者のことが分かり、少し冷静になった。疑われたことに怒りが湧いてしまったが、僕の疑いが晴れることは事件の捜査が一歩前進することでもある。きちんと捜査に協力しよう。新潟なんて、ほとんど行ったことがないんだし、これ以上疑われることはないだろう。
 
そう思って、寝ようとしたが、日付が引っかかった。11月1日? 僕が旅行に行ったのが何年前なのかは覚えていなかった。ただ、日付は覚えていた。旅行に出発した日は合唱コンクールがあって、それが終わってからみんなで新幹線に乗って新潟に行った。合唱コンクールの日付はハロウィーンだった。つまり10月31日。その日に旅行に出発したということは、10月31日から11月1日にかけて一泊した。事件があった日付と同じだ。背中にジワリと汗が滲んだ。
まさか、年は違うだろ。合唱コンクールは土曜日だった。土曜日が10月31日の年をカレンダーで調べた。
 
結果は2009年。
 
このときの感情をどう表現したら、良いんだろう。とにかく驚きで全身が熱くなった。もちろん、身に覚えはない。その日は行きの新幹線でしこたま飲んで、夕食後には一人布団に潜って寝てしまった。
副校長は怒って、那須を起こしてこい! と他の若手教員に言っていたらしいが、周りがなだめてそのまま寝かせてくれたらしい。そんな思い出が走馬灯のように駆けめぐっていた。
人生で一回しか行ったことない新潟旅行、しかも一泊。それと同じタイミングで、未解決の殺人事件が起きていた。そんなことってあるの? 僕の脳裏に浮かんできたのは「冤罪」という二文字だ。
不安を搔き立てられて眠れなくなった僕は、さらにその事件について調べた。すると、防犯カメラに映った映像が公開されていた。その映像を見てみると画質が非常に悪かったが、似ているかもしれない、僕に……
僕を陥れようとしている悪の組織がいるんじゃないだろうか。本当にこのまま冤罪で捕まってしまうのではないか。そんな不安に押しつぶされそうになっていたとき、映像の下のコメントが目に入った。
犯人の身長は165㎝くらい……
助かった。僕の身長は177㎝。12㎝も開きがある。これだけ、違いがあれば、疑われることはないだろう。完全に安心したわけではないが、希望は見い出せた。
 
その後の1週間は異常に長く感じた。人生で初めて容疑者として過ごした。
 
待ち合わせ当日、僕は駅の改札前で待っていた。すると2人組の男性がこちらに近づいてきた。
「那須さんですか?」
「はい、そうです」
「新潟県警の○○と××です。いや~、そっか~、大きいですね~」
刑事の2人は僕の全身を眺めながら、心底残念そうに唸っていた。
「その身長じゃ、絶対違うな~」
いや、そんなに残念がらないでください。僕にとっては喜ばしいことなんですから。
「ちなみに身長はおいくつですか?」
「177㎝です」
二人は遠慮することなくがっくりとうなだれた。
「まぁ、立ち話も何ですから」
そう言って、近くのレストランに案内された。
「一応、証拠見せておきます」
そう言って、二人揃って警察手帳を開いて見せてくれた。
レストランでは、事件とほとんど関係のない世間話をした。
「東京って人多いですね」
「近くの大学の食堂行ってたんですけど、東京の学食はなかなかおいしいですね」
これは一体何の時間なのだろうか。
食事が終わると「証拠に写真だけ撮らせてもらっても良いですか?」と、お願いされた。
レストラン近くの階段の踊り場で一人の刑事と並んで写真を撮った。前向き、横向き、後ろ向き。写真を撮りながらも、
「僕より全然高いですもんね。まいったな~」
などとつぶやいている。もう早く終わりにしたい。
最後に二人は「ありがとうございました。これ、つまらないものですが」と言って新潟土産をくれて、電車に乗って帰って行った。
 
 
家についてから、新潟県魚沼産のコシヒカリで作られた美味しいお煎餅を食べながら思った。
 
身長があと10㎝低かったらどうなっていたのだろう。
 
 
身長が高くて本当に良かった。
 
 
 
この、タクシー強盗殺人事件の犯人はいまだに捕まっていない。早く犯人が捕まることを願っております。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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