メディアグランプリ

老舗のクリーニング屋は下町の人情と人を思う優しさがつまったお店だった!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:齋藤由佳(ライティング・ゼミ12月開講コース)
 
 
人の優しさを感じると心がふわっと包み込まれるような感覚になることがある。いつも生活に追われるとその心をふと忘れてしまうことがある。ほんの小さなところで実は素敵な出会いは転がっているものだ。
 
最近、私は東京の下町に引越した。この町にはクリーニング屋が多い。チェーン店から老舗の個人のお店まで駅周辺を見渡しても5~6店舗以上はある。
引越した当初、この町に抱いた印象はクリーニング屋が多い町だなということだった。
 
クリーニング屋はお店によって洗い方や仕上がりに大きな違いがある。だからクリーニングを出すときはいつも慎重にお店を選んでいた。そんな私があるクリーニング屋の女将さんとの出会いで考え方が変わった。
 
引越した当初は家から少し離れたお店でクリーニングに出していた。仕上がりもよかったのでそのお店を利用していたが、コロナの影響で突然閉店してしまった。
 
引越してから少し経ったある日、私は近所を散策しようと歩いていた。そこで老舗の雰囲気を漂わせる1軒のクリーニング屋を見つけた。入口は手で開閉するガラスの扉だった。奥には70代くらいの女性が一人で店番をする姿が見える。うす暗い店舗を遠くから見ると女性が本を読んでいるのが見えた。
「ここはどうだろう」と思った。そして、お店の外の張り紙の「土曜日2割引」の文字に目が留まった。
「今度、 試しにクリーニングを出してみよう」と思い自宅に帰った。
 
そして、2割引になる土曜日にお店に向かった。
「いらっしゃいませ」と元気な声の女将さんが現れた。
「これをお願いします。 ここを利用するのは初めてなんですけど」と洋服を手渡した。
「あら。 ありがとうございます。 お会計は、 780円です」
「ありがとうございます。 よろしくお願いいたします」と言ってお店を出た。
 
数日後にクリーニングを取りに向かった。
「いらっしゃいませ」と言って女将さんが迎えてくれた。
「これ、 お願いします」
「はいはい…」と言って出来上がったクリーニングを渡してくれた。
すると、女将さんが話し出した。
「あのね、この前出してくれたスーツなんだけど。 ズボンのところの縫い目がほつれていたのよ。修理にだすこともできるけど、 どうする?」と聞いてくれた。
「え? そうだったんですか。 修理っていくらくらいかかりますか?」と尋ねてみた。
私の本心はと言うと、そんなに高くないスーツなのにお金を払ってまで修理に出すのは嫌だなと思っていた。
すると、女将さんがこんなことを言ってくれた。
「一応ね、修理だすとほつれた箇所を縫って終わりではないのよ。 ズボンの縫い目を全部ほどいてミシンで縫い直すの。 でもね、 そうすると凄く高くなるのよ。 このくらいのほつれで出すのはもったいないと思うわ」
「そうなんですね」
「もし、 縫えるようなら糸でほつれた箇所を縫えばお金かからないからどうする?」と言われた。
「いえ…。 私は裁縫苦手なんですよ。 修理出したいので見積もりだしでもらえますか?」と言った。
すると、
「もし、私でよかったら縫ってあげるよ。 縫うのは嫌いじゃないんだけど、 あんまり上手とは言えないんだけどね」と笑いながら言った。
「え? いいんですか!」
「私なんかでよかったらやってあげるよ。 すぐにはできないから少し時間ちょうだいね」と言ってくれたのだ。
私は、「お金払いますから、いくらですか?」と聞くと
「お金なんていらないよ。 私の趣味だから。 また来てくれたらいいからさ」と言ってお金は払わなかった。
「ありがとうございます」と言うと女将さんがこんなことを私に話をしてくれた。
 
「あのね、 今は服なんて修理して使う人なんて少なくなったよね。 しかも、 今は補修するプロの人が高齢でどんどん引退していい人がいなくなってるのよ」
「昔は、それぞれのクリーニング屋に修理の箇所によって依頼できる職人がいたの。 私の店だって何かあったらお願いする職人さんが何人もいたんだけど、 今はほとんど高齢でできないと言われて断られるの」
「昔は服も高かったし、 みんな大事に使っていたから修理依頼もたくさんあったけど、 今はみんな修理なんてせずに捨てて終わりだもんね。 なんか寂しく感じることがあるの」と言った。
 
私は、知らなかった。服は修理して着るより新しく買っていく方がいいと思っていた。
でも、昔の人は服を修理したり、リメイクしたりと服を大事にしていた。でも、経済の発展とともに服の価格は安くなり、服は買い替えることが当たり前になっていることに気づかされた。
そして、私は修理してもらった服を取りにふたたびお店を訪れた。そして、お礼にお菓子を渡すと女将さんはとても喜んでくれた。
「ありがとう。 いいのかい。 かえって気を使わせてしまったね。 ありがたくいただくね。 また大事に使ってね」と言って仕上がったスーツのズボンを渡してくれた。
「ありがとうございます。 また来ますね」
実は、帰り際には使い古したクーポン券を渡してくれた。またここのお店にくる楽しみとまた女将さんに会いたいという思いでお店を後にした。
 
1軒のクリーニング屋の女将さんとの出会いだったが、引越してこんなに嬉しい日はなかった。久しぶりに「ここに来てよかった」と心から思えた。私の苦手な裁縫をお金も取らずに「やってあげるよ」というほんの少しの心遣いが私をとても嬉しく幸せな気持ちにしてくれた。こんなに温かく、胸が熱くなる思いをしたのはいつぶりだろう。
 
老舗のクリーニング屋は下町の人情を大切にするお店だったのだ。
昔の日本はこんな風に人との関わり合いが強く、当たり前のことだったのだと思う。女将さんにとってはいつもの光景であり、当たり前のことなのかもしれない。こんなに自然に人とのかかわりを大事にしている人に会ったのは久しぶりだった。
 
「私もこんな女将さんのように自然に人に手を差し伸べる人になりたい」と思った。
今は、クリーニング屋はこのお店と決めている。お店に行くと名前を言わなくても覚えてもらえたことで少しだけこのお店に馴染めていることに嬉しくなる。クリーニングする服を集めて女将さんの顔を見にまたお店に向かう。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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