メディアグランプリ

人を熊にたとえるな


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記事:山本三景(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「彼は熊みたいに大きくてあったかい人」
 
ちょっと待て。本気か?
だったら私は全力で反対する。
そんな男とは別れなさい。
 
自分や身近な人を動物でたとえる場面は、人生で一度や二度はあったのではないだろうか。
 
犬や猫にたとえる人は結構いると思う。
人懐っこくてコミュニケーション能力が高めだと犬っぽい。
気まぐれだと猫っぽい。
ねちっこくて嫌味なタイプだと蛇っぽい。
まあ、ざっくりとこんな感じだ。
 
では、熊はどうだろうか。
身長が高めのがっしりした体形の男性を、熊にたとえる人もいるかもしれない。
しかし、「熊っぽい」なんていうたとえをきいたら、それがたとえ熊のフォルムからだとしても、私は凍り付いてしまう。
 
私はあるテレビ番組の再現VTRをみてから熊が怖くてたまらなくなってしまった。
『プーさん』ですら怖い。
「そんな大げさな!」なんて思うかもしれないが、本当なのだ。
では、一体何がそんなに怖いのか。
 
私が衝撃を受けたテレビ番組の再現VTRは、1970年に実際に起きた「福岡大学ワンダーフォーゲル同好会ヒグマ事件」を扱ったものだった。
このVTRを観るまでは、私はこの事件のことを知らなかった。
熊に出会っても、死んだふりをすれば何とかなると思っていた。
 
再現VTRは短い時間でうまく作られていた。
今まで、色んなホラー映画をみてきたが、私はどのホラー映画よりも怖く感じた。
 
VTRは最初の計画するところから始まる。
福岡大学のワンダーフォーゲル同好会の5人は、北海道にある日高山脈縦走をするため、それぞれの登山歴や体調、性格などを踏まえてメンバー編成をし、装備、食料の準備をした。
ちゃんとした登山計画だった。
 
彼らは日高山脈のカムイエクウチカウシ山に入山した。
そして、入山して11日目に初めて熊に会った。
VTRでは5人は熊に向かってカメラを向けたりして、熊に対する怖さはさほどなかった。
そして、この熊が荷物をあさる行動をとる。
荷物の中の食べ物が目当てだ。
このとき、彼らは隙をみて熊が取った荷物を取り返す行動に出た。
荷物を取り返すのに成功した。
そして一旦、熊はその場を去る。
どうやら熊にとってはこの行為が「奪われた!」ということになり、奪った人間を敵と認識させることになった。
 
熊に荷物を奪われたら、取り返そうとしてはいけない。
動物の本能を刺激することになる。
熊は大変執念深い動物だそうだ。
とくに一度みた顔は忘れない。
そんなことは1970年当時の彼らは知らなかった。
 
そして再び熊がやってくる。
ワンダーフォーゲル同好会のリーダーは後輩2人に救護要請をするように下山を指示した。
2人は途中で他のパーティーと出会って救護要請を依頼し、食料等を譲り受け、また先輩たちと合流するために登りなおした。
 
私はVTRを観ながら
(戻っちゃだめだ!)
と思った。
恐怖心もあったはずだが、「食料を届けなければ」という使命感が彼らを安全な場所から危険な場所へ舞い戻らせた。
 
(ああ、戻ってしまった……)
 
もう観続けるのが辛かった。
しかし、続きが気になってしまう。
 
そして5人は合流できたものの、襲撃されることになる。
 
(だからそのまま逃げてればよかったのに……)
 
ここで、5人はバラバラになった。
バラバラで行動するのもいけなかったらしい。
VTRでは3人のうち、リーダーが熊に立ち向かって消えた。
残りの2人は何とか下山して助かった。
 
1人は自分たちと同じように熊の襲撃にあった他の大学のパーティーが残していったテントの中で震えながら過ごし、貴重なメモを書き残していた。
 
どれほどの恐怖だっただろう。
独りで襲撃の恐怖に震えながらテントの中にいる。
いつ来るかわからない熊の襲撃に怯えている。
VTRを観ながら私は祈った。
 
(来ないで……)
 
そして、熊に見つかった。
 
助かったのは2人だけだった。
 
VTRを観終わった後、しばらく放心状態だった。
広い山の中で、そんなに追いかけてくるものなのか。
熊が執念深いということを初めて知った。
熊だけは怒らせてはいけない。
熊に出会ったら、決して背を向けてはならない。
熊に荷物を取られても、取り返すことをしてはならない。
この行為が熊に異常な行動をとらせてしまうということだ。
 
このVTRをみて以来、私は熊が怖くなった。
「執念深い イコール 熊」という方程式が私の中で成立した。
「熊っぽい」なんて言いたくもないし、言われたくもない。
 
子ども用の絵本に出てくる「くまさん」はおっとりした描写が多い。
何もしなければそうなのかもしれない。
しかし、私の中の「くまさん」はもう、おっとりしていなかった。
 
あの再現VTRは私の中の熊のイメージをかえてしまった。
もしも子どもがいたら、トラウマになるのではないかと思う。
 
熊に出会う可能性があるときは本当に注意をしてほしい。
熊は決してかわいい生き物ではないのだから。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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