いつか誰かの心に届け、私のLINE
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:高西 亜弥(ライティングゼミ・4月コース)
世の中は春。可愛い長男の進級でめでたいこの時期に、私は深いため息をついていた。昼下がりのカフェで震えるスマホを眺める、情けない顔の私。私を憂鬱にしている原因は、このスマホの中のLINEにある。ほらまた、軽い通知音。持っているスマホを眺めてため息しかない。
私はLINEが苦手だ。特にママ友とのグループラインが。年齢のせいと言われても否定はできないが、いや、それだけじゃないと思う。開くと軽いメッセージと、既読の通知。でも、どう返事をしようか悩んでいる間に、会話はどんどん進んでいく。あのスピード感は、いつも私を置き去りにする。あの雑とまではいわないが、ざっくりした感じの会話も苦手で億劫だ。今は特に進級直後で、保護者同士のあいさつや自己紹介でひっきりなしに通知が来ている。
LINEが世の中に浸透したのはこの10年ぐらいだという。仲間が集まれば、簡単に繋がれる。でも、この「仲間」って何だろうと悩むのだ。保護者同士・ママ友という名の「仲間」でだが、相手の詳細はわからなくても、つながりが成立してしまうこの不思議なツール。考えすぎだと言われても、メッセージを送った後の私の心は、返事でもないものならもう、夜通しお祭り騒ぎだ。
わっしょい、わっしょい(嫌われていないか、失敗していないか)
わっしょい、わっしょい(変な受け答えをしたんじゃないか)
わっしょい、わっしょい(どうしてこんなに悩んでしまうのか)
距離感がわからない相手との不安なやり取りは、終始私の心をかき乱す。元来考えすぎで悩みすぎな私には、このLINEグループは鬼門でしかない。みんなよく、気軽にやり取りができるなと感心する。
「……落ち着け。そうだ、的の前にいる気持ちになろう」
ふと、乱れた心を深呼吸で整えることを思い出した。私は大学時代から弓道をたしなんでいる。狙いを定めて的に向かう。放った矢にも心を外さず、結果を見るあの時の気持ち。真摯に、丁寧に動作を研ぎ澄ます気持ちを思い出す。
「ああ、そうか、だからこそ傷つくんだ……」
深く息を吸い込んだところで、唐突に気づいた。そうだ、私は自分が放った矢の行方に心が痛んでいるんだ。誰も私の放った矢を気にしていない。それは大切にされていないという気持ちを感じさせる。大事にしたい、大事にされたい気持ちが、置き去りにされている気がするから。
ふうとため息をつく端から、また軽い通知音。
もはや携帯を眺める私は、涙目だ。公共の場で泣くわけにはいかないと、ぐっと涙をこらえたところで、待ち合わせに遅れて登場した親友が私の肩をたたいた。大学時代からよく目立ち、テニスコートでいつも輝いていた快活な優子。振り返った先のその笑顔は、まず私の涙目に驚きで歪み、そして理由をふんふんと大げさに聞く顔になり、そして最後に怒り顔になった。
「馬鹿ね。そんなの、打ちっぱなしでいいのよ!」
先輩ママである優子が言うには、ママ友とのLINEはラリーをしたい人の集まりではなく、ルールもない打ちっぱなしだという。もしこちらがメッセージを送っても返事がないなら、華麗なサーブが相手のコートに刺さって、返事が必要なかったと思えばいいと。そしていつまでこのメッセージが続くんだろうと、みんな思っているんだと。
「もし自分でラリーが止まっても、相手は『打ち返せない最高のボールをありがとう』って思ってるわよ」
よしよし、アンタは手間が掛かるわね、と親友は私のスマホを手に取って、LINEの通知をオフにした。
「スマホはね。通知のある時じゃなく、見たいときに見るものよ。誰とでも深くかかわる時代じゃないなんて言いたくないけどね。私はずっと、そういうあんたが心配だわ……」
輝く笑顔、驚いた顔、真剣な顔、怒った顔。くるくると変わった親友の表情は、最後に悲しそうにゆがんだ。ああ、そうか。言葉が感情が、私の心にまっすぐ届いた。それこそ最高の一撃。ずっと涙目でスマホを見ていた顔を上げ、私は本気で謝った。
「ごめんなさい」
そうだ。スマホの中の姿が見えない仲間を見ようとして、私は目の前の友達を見ていなかった。仲間や友達という言葉に惑わされていたけれど、ママ友は、ママである以外に共通点がない人であって、友達とは違うんだ。LINEは簡単に「深くて大事な友達」を作るツールだと勘違いしていた。
「そんなに簡単に、大事な友達に出会えるわけないよね」
そうだ、大学時代。ある日静かな弓道場に、塀を越えて突然飛び込んできたテニスボール。そのホームランを追いかけて、まぶしい笑顔でやってきた優子と、一生の親友になったみたいに。きっといつか、私の放った矢が誰かに届く日が来るかもしれない。ただ緩くつながって、LINEの枠を越えて出会える人もいるかもしれない。
その日まで私は私らしくいよう。もう通知音は気にしない。
***
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