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仕事でお疲れの日は、銭湯がいい


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記事:香月祐美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
もう、ダメだ。
集中力がカラッポで、チカラがでない……。
水を浴びてシオシオになったアンパンマンの気持ちが、今なら分かる。
そんな、帰る気力もないくらい疲れた仕事の帰り道、私の足は勝手に銭湯に向かっている。
 
温泉が、大好きだ。
長く湯船に入るのが苦手で、いつもカラスの行水だけど。
人里離れた源泉掛け流しの秘湯なんて大好物だし、スマホの宿泊予約アプリには、いくつもの源泉宿がお気に入り登録されている。
でも。
仕事終わりに立ち寄るのは、帰り道の途中にある銭湯がいい。
今の家を選んだときの私を、銭湯から帰る道すがらいつも褒めている。
 
仕事で悩んで頭がオーバーヒートした日は、そのまま帰ってもなかなか頭がオフになれない。
そんな日は、足が、モヤモヤした頭を勝手に、いつもの銭湯に運んでいく。
朝から「今日は仕事帰りに行こう」など思っているわけではなく、いつも突然だからお風呂セットなど持っていない。
この銭湯が長年地元の人に愛されてきた証拠だと言わんばかりの、何度も洗われて少し色が抜け、ゴワついたオレンジ色のタオルを受け取り、中に入る。
 
体を洗って湯船に向かう。
ジャグジーも、黒湯も、泳げるプールまであるが、一切わき目をふらず、いつも湯船の角っこにきて足が止まる。
銭湯に来る途中はもとより、ここまでずっとモヤモヤした頭が、まだグルグル考え事を続けているからだ。
ザブンと肩まで浸かると、体育座りで今日のことを反省し始めるのだ。
多少ぶつぶつ声に出てしまっても、水の音に紛れるから、変な人だとは思われていないはずだ(と思っている)。
「今日、あの時もっとこうすれば良かったなぁ」なんて、あーだこーだ思い悩んでいると、だんだん温まってくる。
体だけでなく湯に浸かっていない頭も血行がよくなってくるのが分かる。
すると不思議なことに。
後ろ向きにぐるぐる考えるだけだった気持ちが、驚くほど前向きになってくる。
一人暮らしだと、疲れているとお風呂に湯を張るのも面倒で、ついシャワーだけになりがちだ。
だから、疲れている時こそ気軽に湯船でゆっくりするために、銭湯に行くっていいもんだな、としみじみ思う。
 
温まってリラックスしてくると、心に余裕も出てくる様で「あら、こんばんは」なんて言っている声が聞こえてきた。
他でも挨拶しているのを見るに、この銭湯で知り合ったのだろうか?
銭湯では当たり前だけどみんな裸だから、まさに裸の付き合いだ。
お風呂以外の空間ではこんなことありえない、とするとここは非日常の空間だ。
そんなことを考えていると、非日常があたりまえである銭湯って不思議な場所だなと思うのだ。
 
脱衣所に戻ると「いいわよ、悪いわよ〜」という声が聞こえてきた。
声のする方を見たら、大きいキャスター付きの荷物を「いいのよ、そこまでだから」と言いながら運ぶ女性と、「そんな、悪いわよ」と後をついていく女性がいた。
どうやら足が悪い女性の荷物を、代わりに運んでいるようだ。
時刻はもう23時を過ぎている。
深夜の銭湯では、いろんな人間模様が見えてなんかいいなぁと思ってしまう。
 
「おやすみなさい」
脱衣所の見回りに入ってきた銭湯の店員さんに、挨拶しながら出ていく人たち。
それは、銭湯という非日常の国から、夢の国に旅立つための魔法の合図みたいだった。
店員さんが脱衣所の見回りの手を止めずに「おやすみなさい」と返す様子は、お客様に対してというよりも、まるで家族に言っている様に見える。
裸の付き合いが生むその輪に、あわよくば私もちょっとだけ入れてほしくなった。
 
銭湯って、非日常の不思議な場所だと思ったけど、ちょっと違うのかもしれない。
落ち着ける場というか、そうだ、なんだか家に似ているんだ。
一人でずっとモヤモヤ悩んでいたのも、ここで過ごすわずかな時間ですっかり落ち着いた。
湯船で血流が良くなったおかげもあるかもしれないけれど、ゆっくりお風呂に浸かって、リラックスした人たちが出す雰囲気に癒されるからかもしれない。
 
人見知りな私も他の人たちに習い、ドキドキしながら「おやすみなさい」と言って、銭湯を後にした。
 
銭湯に行ったから終わり、ではない。
子供の頃、遠足は家に帰るまでが遠足だ、と誰かが言っていたのを思い出した。
銭湯から歩いて家に戻るまでが、銭湯なのだ。
だって体もすっかり温まって、ホワホワしながら歩くと気持ちがいい。
トルマリンも入っているって書いてあったから、その効果なのだろうか? 家のお風呂よりもポカポカが長続きする。
 
そんなことを考えているうちに、家の前にたどりついた。
フゥッとため息をついてつぶやく。
「よし、明日も頑張ろう」
 
 
 
 
***
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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