メディアグランプリ

富士登山に潜む天国と地獄


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記事:土岐晴也 (ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
日本に住んでいれば一生に一度は登ってみたい山、それが富士山。
3,776メートルという日本一の高さを誇るこの山に登ることは、殆どの人はかなりハードルが高く思いがちであり、自分の周りでも経験者はほんの数人しかいない。私はというと、登山を本格的に趣味にしていると胸張って言える立場ではないが、過去に2回も日本一の山頂に自力で立っている。4つの整備された登山道 (吉田、富士宮、須走、御殿場) があるので服装や飲食の装備と自身の健康に気を付ければこの文を読んでいる皆さんでも比較的安全に登れると思っている。ただ、山頂へ向かう道中に心安らぐ瞬間もあれば、危険を感じる場面も存在するので、過去2回の富士登山で経験したことを紹介しようと思う。
 
初めての富士登山は、夜間つまりは徹夜で富士宮ルートに沿って山頂向かうというものだった。このプランの選択は、過去に何回か富士登山を経験している同行してくれた会社の後輩によるもので、富士宮ルートは他の3つのルートと比べて距離が短く比較的早く登れるというものだった。しかし、この選択が初心者である自分にとって地獄を見ることになるとはこの時は思いもよらなかった。
登山当日、自分が運転する車で5合目にある登山口前の駐車場へ向かい、到着したのがまだ空が明るい夕刻だった。しかし、その日は生憎の空模様で、もし未明の0時までに晴れなければ登山は中止して帰ろうということにした。しばらく車中で仮眠して、タイムリミットの時刻に外を見たら、これまでの悪天候が噓だったかのように満天の星空が広がっていた。
綺麗な星空に心を奪われながら夜間の富士登山が始まった。富士登山は生まれて初めてだったが、夜間の登山も初めてだったので心で期待が膨らみ、始めのうちは足取りも軽かった。
高度が上がるにつれて夜空の星がさらに鮮明に見えてくると同時に、振り返れば眼下に星空が広がる様に美しい夜景が見えてきた。景色に心を奪われてばかりで疲れも殆ど感じない程だった。しかし、先へ進むにつれて道の傾斜が大きくなってくる。時折急な階段が現れては体力を急激に消耗する。山登りが初心者の私にはこのコースはレベルが高かった。この時、高さは変わらず、距離が短くなれば道の傾斜は高くなることに気付き、自分の考えの浅さに思わず笑ってしまった。
経験者である後輩はどんどん先へ進むが、自分の体力が追い付かず段々休憩のインターバルも減っていった。その分、時間は過ぎて行き、まだ8合目に着かぬままご来光を迎えてしまった。これまで暗さで見えなかった頂上も明らかになり、まだまだ先が長いことに絶望感も覚えたのだった。
先を急ぐ思いでやや早く坂を登っていくのだが、標高が高くなるにつれて空気が薄くなっていく。そうなると、息が上がる程まで走ると、同時に眩暈が発生する。無理をすれば命に関わることになりかねないので、後輩に申し訳なく思いながら、ゆっくりと前へ進んでいった。そうして、完全に日が昇りきった午前9時頃、ようやく頂上に到着した。
上は澄み切った空が、眼下には雲が広がり、絶景に心を奪われた。この時、これまでの疲れや辛かったことを完全に忘れ、約9時間をかけて頂上まで登り切った達成感に浸ることができたのだった。
しかし、富士登山の苦労は登頂後の下山でも続く訳で……。
下山の際、自身の体に勢いがつかないように膝でブレーキを掛けながら進まなければならず、降りていくうちに膝が痛み、下山でさえも休みながら行かないととても辛かったのを覚えている。
ふらふらになりながら夕刻に自分の車のある駐車場に着いたのだが、後輩が次の予定があると言い、途中で休むことなく都内まで後輩を送り届けたのだった……。
 
富士登山2回目は、初回の教訓を活かして、初心者向けの吉田ルートを使い、昼間に出発して、途中の8合目にある山小屋に泊まり、翌朝4時に頂上へ向かいご来光を迎えるプロのエスコート付きのバスツアーに参加した。
前回と比べて楽に富士登山を楽しめた訳だが、この時もまた別の怖さを感じることに……。
日が殆ど落ち切った夕刻に8合目の山小屋に到着。山小屋での楽しみは夕食なのだが、メニューはカレーライス1人前のみ。大食いの方にとって物足りないと感じるが、残念ながら「おかわり」はできない。これも山の上での生活の厳しさである (笑) 。
早朝の出発となるため夕食後すぐに就寝となる訳だが、就寝後すぐに参加者の何人かが嘔吐などの体調不良を訴えた。いわゆる高山病である。大抵は順応して快方に向かうのだが、重症となれば命にかかわるという。自分は大丈夫だったが、その方々は登頂を断念し下山したとのこと。
 
このように富士登山は天国の面もあれば、地獄の面も存在する。
しかし、あらゆる対策を施せば誰でも登頂は可能だ。
富士山の山開きまであと3か月足らず。
まだ登頂したことがない読者の皆さんには是非チャレンジしていただきたい。
 
 
 
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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