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素直さは成長の種


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本のぞみ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「仕事ができるようになりたいならば、相手から『教えたい』と思われるようになった方が得だよ」
12年前の4月、社会人になりたてだった私に、ある先輩がそう話した。
 
「社会に出たら誰かに教えてもらわないと分からない事ばかりでしょ?先輩が教えたくなるような後輩になれば、勝手にできることが増えるから得だよ」
純粋だった私は素直に「そうですね」と答えた。今でもこれは本当にそうだと思う。
指導を受けた時は素直にお礼を言う、過去に聞いたことがあるような話でも「知ってます」ではなく「教えてくれてありがとうございます」と答えなさいということだったと記憶している。
今思うと少し縦社会の香りがしてくるが、親切で教えてあげたことを「そんなこと知ってますよ」と返されたら確かに少しむっとしてしまう。
「素直さ」は成長の種である。
 
隣の課の鈴木くんは、人あたりが良い。
数年前に中途入社した26歳。高校卒業後に地元の医療機器メーカーの工場で勤務しその後、全く畑違いの弊社へとやってきた。
コミュニケーション能力は人並みにあり、年齢の割に落ち着いた話し方をする彼は、初めての営業職でぐんぐん成長していった。
 
「正直、(売れる)見込みの低いお客さん、僕に割り当てないで欲しいんですよね……だって、僕の契約率下がっちゃうじゃないですか」
耳を疑った。何を言っているんだこの坊やは。
それは、私と2人で事務所作業をしている時に突然起きた出来事だった。
鈴木くんと私は、同じフロアで働きデスクも近い。ただし、私が隣の部署の先輩社員ということで、少し気が緩んでいたのかもしれない。
 
前回の接点履歴やアポイントの様子から、お客様が前向きか前向きじゃないかがある程度予想がつく。「契約するつもりの無いお客様のところ行って、意味あるんですかね?」という論調だ。
私は言葉を探した。恐らく彼は「営業」という仕事を理解していない。
欲しい人が欲しい物を買うというのは当たり前の行為だ。
しかし、世の中「人に言われて初めて必要性を理解する」ものだってあるだろう。
「どこかで」を「弊社で」、「いつか」を「今」にするのが営業というものではないか。
それを、決まるお客様だけ回してくれというのは、自分の力量の無さを宣伝しているようなものだ。ダイレクトに叱ってもきっと響かないだろう。例え話を交えながら話をしてみたが、イマイチ響いていない様子だった。
「鈴木くん、ちょっと私無理かも」そんな印象だけが、胃もたれのようにずしっと私の中に残った。
 
運が良いのか悪いのか、それから半年ほどは何ともない日々が続いた。
先述のやりとりがあったことも半ば忘れてしまっていたくらい。ただ、「ちょっと自分本位」で「営業のことよくわかっていない売上至上主義者」の鈴木くんという印象だけが残っていた。
入社ほどなくして売上が立つようになり、少し天狗になっているところもあるだろう。
それもまた若さ故、そういう時期があることも悪くない。そんな風に他人事に感じていた。
そして私の目論見通り、彼の売り上げはある時を境に伸び悩むようになっていた。
 
「山本さんのところの商品、ぜひ弊社でも力を入れて販売したいので、勉強会してくれませんか」
それは、私が懇意にしている取引先からの依頼だった。
どういうわけか、依頼を受けた瞬間に思った「これを鈴木くんにお願いしよう」
企画から全部やらせたら、本人の成長につながるかもしれない。
でもあの売上至上主義が、こんな数字にならないことお願いして素直に受けるだろうか?
そう思った私は、鈴木くんと彼の上司(店長)を巻き込んでメールで依頼を掛けた。
意外にも「いいですよ」とあっさり二つ返事だった。
 
それから、(以前とは違い)よく事務所に居る彼を捕まえて企画会議を行った。
「で、僕は何を話せばいいんですか?」
「いやいや、それを決めるミーティングだから。笑 で、鈴木くんはどんなのがいいと思う?」
過去に実施した勉強会の資料や、私が持っているイメージを伝えた。イメージ自体は納得している様子だった。後日勉強会のアウトラインを作成し、鈴木くんへ送った。
「こういう説明資料が欲しいから、適当なやつ見繕ってくれるかな?」
「分かりました」
数日後、彼から持ち込まれたのは8割型完成した勉強会のスライド資料だった。
「え! ここまで進めてくれたの? ありがとう!」
「こういう資料やこんな話もあった方がいいと思いますが、どうですかね?」
どういう風の吹き回しか、主体的に参加してくれている。そして予想をはるかに超え、プレゼン資料は難なく完成した。
 
「ぶっつけ本番じゃきついから、1回練習しとこうか。店長にも一緒に聞いてもらおう」
本番前日、これまで作り上げた資料を基にリハーサルを実施した。
 
「……うん、鈴木さぁ、スライドのこの写真の説明、できる?」
「いや……ちょっと、分からないですね‥‥‥」
自分で作ったスライドだからと安心していたのだろう。
サラサラと進めてリハーサルした結果、想定している時間の半分もかからずに終わってしまったのだった。
「本当に相手に説明しようというつもりでやってる?
あとさ、相手に質問しときながら回答聞かないってどういうこと?
コミュニケーションとらないと、相手は聞く耳持たないぞ」
 
手厳しい店長からの指摘だった。
正直なところ、私も当日を迎えるのが心底不安になる出来栄えだった。
改めて、今回の勉強会の目的や鈴木くんの立ち位置、どんな結論を期待しているのかということを説明した。
反論こそないものの、アドバイスを聞きながら徐々に彼の表情は曇っていった。
そして、手厳しい振り返りが終わった後、少し考えてからこう切り出した。
「店長、明日の朝練習付き合ってもらえませんか?」
「いいよ、何時?」「ええと……7時半から……」
「7時半!?」
早くない!? そんなに朝早く来れるの!? そんな心配をよそに、本人はいたって真面目な表情だった。
そして、実際に朝練から迎えた本番当日。
 
昨日のリハーサルとは見違える出来栄えだったことは言うまでもなかった。
彼の業務範囲から外れた仕事を、これだけ積極的に責任を持って果たしてくれるとは、
申し訳ないが最初は露程も思っていなかった。
最初は嫌々受けた仕事だったかもしれないが、蓋を開けてみれば本人も何かピンとくるものがあったのかもしれない。
 
彼の「素直さ」は私が入社した10年ほど前一般的だったそれとは少し違う。
でもこれは紛れもなく彼は、彼なりに「素直」に頑張った結果だと思う。
人の話を「はい」と聞いて、そのまま聞き流す人が多い中で、文句はありながらも自分の中に落とし込んでいった彼の行動は本当に素晴らしかったと思う。
「素直」は紛れもなく成長の種である。それは上司にとって都合の良い形ではないかもしれないが、きちんと水を与えられるように、私自身成長していかなくてはと感じた。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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